パパLOVE

卯月青澄

文字の大きさ
上 下
132 / 441

132

しおりを挟む
花火を見終わってから、思い出づくりのために金魚すくいがしたいと彼に言った。

彼はあんなことがあったあとだけど、私の手を握って金魚すくいのお店まで連れて行ってくれた。

彼は私がやるのを黙って見てくれた。

結果は5匹の金魚をすくうことが出来た。

彼は私の予想外の上手さに驚いた表情をしていた。

もっと取ろうと思えば取れたけど、5匹でやめておいた。

金魚すくいを終えたあと、意味もなく神社の中を行ったり来たりした。

彼はきっと直ぐには帰りたくなかったし、私も帰りたくなかった。

それでもとうとう帰る時が来てしまった。

神社から駅までの道のりを私たちは無言で歩いた。

もともと私は喋らないから、いつも静かなものだけど、今日のは訳が違っていた。

お互いに、今夜が2人でいられる最後の夜になることを何となく感じていた。

それは彼が出した結論で、私もそれに従うしかない。

もし舞台を観に行くことがあっても、出待ちをすることはなくなったし、出待ちのあとに2人で出かけることなんて2度と叶わないだろう。

付き合っていた訳ではないけど、何だか恋人同士が別れるみたいな空気になっていた。

歩いていると彼は私に気付かれないように目を擦っていた。

何度も目を擦っては冷静を装っているように見えた。

だから私は見ていないふりをした。

私だって悲しくて苦しくて、さっきから涙が止まらないんだから。

そして、とうとう駅に着いてしまった。

「じゃあ、ここで」

彼を見ると、今にも涙が溢れそうな顔をしていたので私は静かに頷いた。

「気を付けて帰って」

彼はそう言ったにも関わらず、私の握った手を離そうとしなかった。

彼の気持が痛いようにわかって苦しくなった。

ふと顔をあげると彼の目から涙が頬を伝って流れ落ちた。

と思った直後、私は彼に抱きしめられていた。

私も彼の腰に腕を回して抱きついた。

離れたくない…

離れたくないよ…。

それから私と彼は改札の前で別れた…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...