パパLOVE

卯月青澄

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「いつもありがとう」

私は静かにただ頷いた。

「明日は最終公演です。チケットは買えましたか?」

彼のその質問に私は首を横に振り俯いた。

彼の最後の貴重な公演なのにチケットを手に入れられなくて、とても申し訳ない気持ちになった。

「やっぱり買えなかったんですね?」

心の中で「ごめんなさいと」何度も何度も唱えながら私は頷いた。

「あっ‥あの…これ良かったらどうぞ」

彼から何かを差し出されたので、恐る恐る受け取った。

それに目を向けると、それは…明日の最終公演のチケットであることがわかった。

「明日のチケットです。これで明日も見に来て下さい」

とんでもないことだった。

舞台俳優さん自らチケットを受け取るなんてこと、あってはならないことだった。

私以外にも、明日のチケットを手に入れられなかったファンの人は沢山いるはず。

それなのに私だけ、私だけ特別扱いをされてチケットをもらうなんて許されない。

私は何度も首を横に振ったあと、彼にチケットを返そうとした。

「いつもいつも応援して下さってありがとうございます。これは僕からのプレゼントです。安心して受け取って下さい」

彼はそう言うと、チケットを持つ私の手を優しく包みこんでくれた。

「さあ、早くしまっちゃって下さい。マネージャーに見られると怒られてしまいますから」

嬉しくて嬉しくて一気に目に涙が溜まって今にも溢れ出しそうだった。

私は両手で顔を押さえつけて、涙が流れるのを止めようとした。

でも、そんなことは不可能で、押さえつけた指の間から涙が次々に流れ落ちていった。

「だっ‥大丈夫ですか?泣かないで下さい」

彼のその優しい言葉を聞いた途端、足腰に力が入らなくなり、膝から崩れ落ちた。

「ありがとう」

彼はそう言うと、私を優しく抱きしめてくれた。

少しの時間、私は彼の腕の中で抱きしめられていた。

しばらくて私が泣きやんだ頃、彼は私を起き上がらせてくれて「もう泣かないで」と言いながら髪を撫でてくれた。

私は黙って彼を見つめていた。

「あなたが好き」と心の中で叫んでいた。

決して届くことのない私の声…。
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