パパLOVE

卯月青澄

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「ママ、片付け出来なくてごめん。寝ちゃってた」

「いいわよ。それよりお風呂入っちゃえば」

「ママは?」

「香澄が寝てる間に入っちゃった」

ママの近くに行くと、シャンプーの良い香りが漂ってきた。

「良い匂いする。何のシャンプー使ってるの?」

「香澄と同じのでしょ」

確かにうちには何種類もシャンプーがある訳じゃなかった。

私も他の人には、こんなに良い香りがしてるってことなのかな?

舞香は私は良い匂いがするって言ってくれるけど、自分ではわからない。

それがシャンプーの匂いのことを言ってるのか、それとも私の元々の体の匂いなのかはわからない。

私もママみたいな良い香りがしたい。

ママは風呂上がりじゃなくても良い匂いがする。

香水を使っている訳ではない。

だとすると、それはママの香りであって、フェロモンに近いものなのかもしれない。

お風呂から出て、ベッドに横になると直ぐにパパにメールを送った。

時刻は20時過ぎで、パパが仕事から帰ってきてもいい時間帯だった。

《パパ、いま何してるの?》

《リビングでお酒を飲みながら映画を観てたよ》

《電話していい?》

パパからの返信を待たずに電話をしていた。

『何の映画観てたの?』

『THE有頂天ホテルって言う映画だよ』

『聞いたことないなぁ』

『香澄が生まれる前の映画だからね。三谷監督の作品で、これから何作も大ヒットを続けていくんだ。当時、三谷監督の作品は映画館に行って観たものさ』

『どんな映画なの?』

『コメディ要素が強いかな。普通に嗤笑っちゃうよ』

『今度、一緒に観たいな』

『そうだね。パパも香澄に見せてあげたいよ』

『やりぃ。ちなみに映画館は1人で行ったの?』

『いや、それは…』

珍しくパパが言葉をつまらせていた。

もしかして、その相手って…

『ごめん、変なこと聞いて』

『ママとだよ』

『そっか…』

パパにとってママと一緒に観に行った映画は嫌な思い出ではなく、懐かしい良い思い出として残っているのかもしれない。

そうじゃなきゃ、わざわざ昔の映画の作品を今更見る必要なんてない。

『香澄は観たい映画はないの?』

『何個かあるかな』

『今度、パパが休みの日に一緒に映画館なんかどう?』


『誘ってくれてるの?』

『香澄が嫌じゃなければ』

『行く。行きたい。何があっても行く』

『じゃあ今度行こう』

『うん』

それから1時間近く話をして電話を切った。

喉が渇いたのでキッチンに行くと、リビングの明かりがついていることに気づいた。

中を覗くと、ママは趣味の刺繍をしていた。 
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