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お嬢様は謙虚堅実!?

第32話 追放イベントの始まり B

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 私はパーティー用のドレスに着替えて、王宮へと向かう。

 馬車の御者はジャックが担当し、護衛はルドルが務める。

 
 この男は相変わらず、布で目隠しをしている。
 護衛の時は、いつもこの格好だ。

 そして上着の中の腰の後ろに、白い棒を携帯している。

 ライドロース家の護衛は刃物の所持が禁止なので、その代わりの武器がそれになる。

  
 護衛の武器が棒一本なんて頼りないと思うかもしれないが、この男は素手でも十分強いので問題は無い。
 

 それにこの男の持つ白い棒は、竜の爪を素材にして作った代物らしいのだ。
 竜の爪は、超高級品────

 帝国の国家予算の十分の一くらいの、法外な値が付くこともある。
 そんな素材を惜しげもなく使い、魔法で凝縮して拵えたそうだ。


 見た目は何の変哲もないただの棒なのに、超高級品……。

 こいつらしい武器だ。



 


 王宮に着いた私達は、ダンスパーティーの会場の大広間に移動する。

 会場に入ると早速、私の周囲に人だかりが出来る。
 
 男が群がってくるのはいつものことで、おなじみの光景だ。



 応じきれないダンスの誘い……。

 沢山の誘いの中から、初めて会った相手をピックアップする。

 その中から、一番身分の高い相手をパートナーに選ぶ。

 ダンスの相手は、一人一曲ずつ──
 偏らない様に、バランスよく誘いを受けて行く方針だ。





 オーケストラの演奏が始まり、舞踏会が幕を開ける。

 …………。

 ……。



 私は曲に合わせて、ダンスを踊る。


 立て続けに、これで四曲目……。 

 一曲ごとにパートナーを入れかえているので、これで四人目だ。
 ────流石に、ちょっと疲れたわね。

 現在のパートナーは、伯爵家の子息。

 社交は貴族の義務であり、仕事だ。

 今日の仕事は、これで最後──
 私は気を抜かずに、笑顔で踊り続ける。



 荘厳な装飾に彩られた壁の前には、沢山のギャラリーが並んでいる。
 音楽に合わせてダンスを披露しているのは、十五組のペア。

 その中で────
 私は一番、目立っている。

 男女を問わず、視線を集める。
 持ち前の美貌と華やかなダンスで、見る者を魅了する。






 今の相手とダンスを踊るのは、初めてだ。


 彼は上気した顔で、夢見心地になっている。

 音楽が終わり、彼は目を覚ます。


 ……。

 ……あら?

 手を放してくれないわ。



 珍しいことでは無い。
 私と踊った相手は、大体こうなる。


 私の事を、じっと見つめている。


「フィリス……僕と────」

 何か言おうとする彼を、私はやんわりと拒絶する。


「ごめんなさい。次の約束があるの……」

 私は特定の誰かと、深く付き合う気は無いのだ。


 休憩を取るため、別室へと移動した。







 用意された軽食の中から、アイスクリームを選んで食べる。

 傍らには、護衛のルドルが控えている。


 私は氷菓を食べて、ダンスで火照った体を冷ます。




 私が休息を取っている最中に────

 大広間の方から、ざわめきが聞こえてきた。


 ……? 

 何か、あったのかしら────?

 私と同様にここで軽食を取り、休憩していた舞踏会の参加者たちが、騒ぎに誘われ、ぞろぞろと大広間の方へと移動していく……。

 
 ……。

 …………。
 

「────私達も、参りましょう」
 
 私はルドルに声をかけ、一緒に大広間へと向かった。


 火事と喧嘩は江戸の華────
 騒ぎがあれば引き寄せられるのが、人の性というものだ。

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