上 下
56 / 96
お嬢様は謙虚堅実!?

第29話 ラシェールの目的 A

しおりを挟む

「フィリス様、明日ルドルおじ様を貸して下さいませ────!」

 私の誕生日パーティーから五日後、ラシェールがそんなお願いをしてきた。

 場所はライドロース家の、屋敷の中庭──
 午後のお茶会の時だった。


 彼女はヤト皇国の辺境伯から、お預かりしている令嬢である。
 ラシェールの身に、万一の事があってはならない。

 ライドロース家としても、護衛にルドルを付けるのは当然だ。


「────それは、構わないけれど、また下町に出かけるの?」

 私はラシェールと随分と打ち解けて、今ではすっかり砕けた口調で話すようになっている。

 彼女のお嬢様言葉は相変わらずだが、そこはラシェールの個性なのだろう。

 

「ええ、そうですの。────職人のスカウトですわ!!」 
 
 彼女はライドロース家に連なる者、という『設定』でこの屋敷に滞在している。

 だが、ヤト皇国の辺境伯の娘という立場は秘密にして、私以外の帝国貴族とは付き合おうとはしない。



 ラシェールが私と一緒に、帝都に行くと聞いた時には、聖ガルドルム帝国の貴族と交友を深めたいのだと思っていたが……。

 そうではなかったようだ。



 彼女は毎日、私と一緒にお勉強したり、戦闘訓練したり、ルドルの創り出した異空間で魔法の訓練をしたりしている。大陸東部の言語は彼女から学んでいるので、私も助かっている。
 
 たまに外出する先は、金や銀を用いた細工を作る職人の所だ。

 
 彼女は目を付けた優秀な職人や、職人見習いに、オーダーメイドで商品作りを依頼し、関係を深めている。

 そして帝都から移住しないかと、職人に持ち掛けていた。


 つまり、彼女のやっていることは、人材の引き抜きである。

 帝国貴族の私としては看過できないし、止めなければならないが……。


「職人の皆様────、なかなか首を縦に、振っては下さいませんわ。……せっかくライドロース領に移住先を確保しておりますのに、帝都から離れたくないようで……」

 ライドロース家も一枚噛んでいる様なので、私は静観している。


「────帝都は、暮らしやすいからね」

 千年以上前から定期的に──
 ヤコムーンが聖女を通じて、便利な魔道具を人間に提供してきた。

 その大半は、帝都にしか設置されていない。


 帝都暮らしが長い者ほど、地方に移り住みたくは無いだろう。

「ですが、お金は教会に搾取されていますわ! 教会に強要される寄付と税金で、収入の八十パーセントを搾取されるなど、信じられませんわ!!」



 それは、私も驚いた。
 帝都でもっとも搾取される職業は、職人と商人だ。

「本当なら、ヤト皇国まで移住して頂きたいのですが、言葉の通じない外国では、最初から交渉にはなりません。────そこで、ライドロース領で妥協しているのですが、それでも色よい返事は貰えませんの……。フィリス様からも、頼んでみてくださいませ」


 そう言われても──
 私には職人に移住を進める、理由が無いもの。

「────手伝えないわ。そもそも、なんで職人なのよ」

 疑問に思ったので、聞いてみた。


「理由は単純ですわ。────この帝都は滅びるのですから、それまでに、この都市で一番価値のあるものを、確保しておきたいのですわ」

 
 ……。

 …………え?

 私は軽くお喋りしていただけなのに、物騒な話が出て来た。
 
 あの男は『最悪の場合』、この帝都を滅ぼすことを視野に入れているらしい。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。 17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。 その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。 その本こそ、『真魔術式総覧』。 かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。 伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、 自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。 彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。 魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。 【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...