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お嬢様は謙虚堅実!?
第29話 ラシェールの目的 A
しおりを挟む「フィリス様、明日ルドルおじ様を貸して下さいませ────!」
私の誕生日パーティーから五日後、ラシェールがそんなお願いをしてきた。
場所はライドロース家の、屋敷の中庭──
午後のお茶会の時だった。
彼女はヤト皇国の辺境伯から、お預かりしている令嬢である。
ラシェールの身に、万一の事があってはならない。
ライドロース家としても、護衛にルドルを付けるのは当然だ。
「────それは、構わないけれど、また下町に出かけるの?」
私はラシェールと随分と打ち解けて、今ではすっかり砕けた口調で話すようになっている。
彼女のお嬢様言葉は相変わらずだが、そこはラシェールの個性なのだろう。
「ええ、そうですの。────職人のスカウトですわ!!」
彼女はライドロース家に連なる者、という『設定』でこの屋敷に滞在している。
だが、ヤト皇国の辺境伯の娘という立場は秘密にして、私以外の帝国貴族とは付き合おうとはしない。
ラシェールが私と一緒に、帝都に行くと聞いた時には、聖ガルドルム帝国の貴族と交友を深めたいのだと思っていたが……。
そうではなかったようだ。
彼女は毎日、私と一緒にお勉強したり、戦闘訓練したり、ルドルの創り出した異空間で魔法の訓練をしたりしている。大陸東部の言語は彼女から学んでいるので、私も助かっている。
たまに外出する先は、金や銀を用いた細工を作る職人の所だ。
彼女は目を付けた優秀な職人や、職人見習いに、オーダーメイドで商品作りを依頼し、関係を深めている。
そして帝都から移住しないかと、職人に持ち掛けていた。
つまり、彼女のやっていることは、人材の引き抜きである。
帝国貴族の私としては看過できないし、止めなければならないが……。
「職人の皆様────、なかなか首を縦に、振っては下さいませんわ。……せっかくライドロース領に移住先を確保しておりますのに、帝都から離れたくないようで……」
ライドロース家も一枚噛んでいる様なので、私は静観している。
「────帝都は、暮らしやすいからね」
千年以上前から定期的に──
ヤコムーンが聖女を通じて、便利な魔道具を人間に提供してきた。
その大半は、帝都にしか設置されていない。
帝都暮らしが長い者ほど、地方に移り住みたくは無いだろう。
「ですが、お金は教会に搾取されていますわ! 教会に強要される寄付と税金で、収入の八十パーセントを搾取されるなど、信じられませんわ!!」
それは、私も驚いた。
帝都でもっとも搾取される職業は、職人と商人だ。
「本当なら、ヤト皇国まで移住して頂きたいのですが、言葉の通じない外国では、最初から交渉にはなりません。────そこで、ライドロース領で妥協しているのですが、それでも色よい返事は貰えませんの……。フィリス様からも、頼んでみてくださいませ」
そう言われても──
私には職人に移住を進める、理由が無いもの。
「────手伝えないわ。そもそも、なんで職人なのよ」
疑問に思ったので、聞いてみた。
「理由は単純ですわ。────この帝都は滅びるのですから、それまでに、この都市で一番価値のあるものを、確保しておきたいのですわ」
……。
…………え?
私は軽くお喋りしていただけなのに、物騒な話が出て来た。
あの男は『最悪の場合』、この帝都を滅ぼすことを視野に入れているらしい。
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