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お嬢様は謙虚堅実!?

第10話 魔境 B

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 犬の頭をなでながら、『あなたの名前はリンちゃんよ』と言って、名前を付けてあげた。

 リンちゃんは嬉しそうに『わぉおお~~~ん』と、遠吠えをあげる。


 家に連れて帰ろうかと思ったけれど、フィーちゃんの背中に乗せるスペースがないのよね。

 フィーちゃんが足で摘まむか、口に咥えれば連れて行くことは出来る。
 ……けど、それはあんまりよね。
  


 残念だけれど、家には連れて帰れない。

 ────仕方ない。
 この子も、放し飼いにすることにした。

 フィーちゃんに乗って、ここに会いに来ましょう。 


「……また、来るからね」

 そう言って、私達は家に帰った。





 ────数日後。

 屋敷が大騒ぎになった。

 庭にでっかい犬が、ちょこんと立っていたからだ。


 犬は屋敷よりも大きく、立派な毛並みをなびかせている。



 
 …………。

 ……。

 私はその騒ぎを聞いて、庭に飛び出した。

  
 大きな犬の傍らには、私の従魔のリンちゃんがいた。

 私は魔力で繋がったリンちゃんと、意思疎通が出来る。


 事情を聴いてみた。



 …………。

 ……。

 どうやらこの大きな犬は、リンちゃんのお母さんらしい。
 リンちゃんと友達になった私に、挨拶しに来たようだ。

 『……なるほどな。娘をよろしく頼む────人の子よ』


 ……。

 何が『なるほど』なのか分からないけれど、私も挨拶を返す。
 手を胸に当て、スカートを摘まんで軽く足を引いて、お辞儀をする。


「こっちこそ、よろしくね」

 リンちゃんのお母さんは、私の匂いを嗅いでいる。
 暫くそうしていて満足したのか、リンちゃんを連れて魔境に帰っていた。



 後で聞いた話では、リンちゃんは犬では無くて『フェンリル』という魔物らしい────

 フェンリルは上位クラスの魔物で、滅多に人前に現れないそうだ。

 私は氷竜に続き、フェンリルを従魔にした。
 


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 フィリス・ライドロースが誕生し、一年と半年が経過した頃────

 ライル商隊の護衛として、ルドル・ガリュードが再び、ライドロース領に訪れていた時の話だ。
 
 辺境伯領の城の一室に、一年前と同じ四名が集っていた。



 ライドロース辺境伯が、念を押す様に確認を取る。

「……間違いは、無いのか?」



「あくまで、この『グレイゴールの書』に記されていた情報が正しければ……という前提の話だが────」

「……歴史上もっとも高潔で、聡明な知将が残した書物です。我々に疑う余地はありません」

 ルドル・ガリュードの答えに、ジェフリーが肯定的に頷き、同意する。





「……一年前、超魔人に襲われて、氷魔法を行使した直後の、あの子の瞳は赤く、髪は黒だった。────恐らく、本領を発揮するときに、黒く変色するのだろう……」

「では、やはりあの娘は……」


 緊張した面持ちで確認するケイティに、ルドルが答えた。

「────ああ、あの子はこの世界で、『吸血鬼』と呼ばれる存在のようだ」





 ……。

 …………。

 ルドル・ガリュードは『グレイゴールの書』を読み、そこから得た知識から、フィリス・ライドロースが『吸血鬼』と呼ばれる存在だと知る。


 そして、それをライドロース家に伝えた。

 知らされた彼らは……。

 …………。


「となると、やはり我らは……」

「聖ガルドルム帝国のその上、神ヤコムーンを敵に回すしかあるまい────」



 誰一人迷うことなく、神と敵対する道を選んだ。

 そして────


「……ルドル殿、貴殿は?」
 
 その情報をライドロース家にもたらした男は……。



「────俺はもとより、奴の敵だからな」

 自信に満ちた笑みで、ライドロースの味方をすると宣言した。

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