19 / 70
お嬢様は謙虚堅実!?
第10話 魔境 B
しおりを挟む犬の頭をなでながら、『あなたの名前はリンちゃんよ』と言って、名前を付けてあげた。
リンちゃんは嬉しそうに『わぉおお~~~ん』と、遠吠えをあげる。
家に連れて帰ろうかと思ったけれど、フィーちゃんの背中に乗せるスペースがないのよね。
フィーちゃんが足で摘まむか、口に咥えれば連れて行くことは出来る。
……けど、それはあんまりよね。
残念だけれど、家には連れて帰れない。
────仕方ない。
この子も、放し飼いにすることにした。
フィーちゃんに乗って、ここに会いに来ましょう。
「……また、来るからね」
そう言って、私達は家に帰った。
────数日後。
屋敷が大騒ぎになった。
庭にでっかい犬が、ちょこんと立っていたからだ。
犬は屋敷よりも大きく、立派な毛並みをなびかせている。
…………。
……。
私はその騒ぎを聞いて、庭に飛び出した。
大きな犬の傍らには、私の従魔のリンちゃんがいた。
私は魔力で繋がったリンちゃんと、意思疎通が出来る。
事情を聴いてみた。
…………。
……。
どうやらこの大きな犬は、リンちゃんのお母さんらしい。
リンちゃんと友達になった私に、挨拶しに来たようだ。
『……なるほどな。娘をよろしく頼む────人の子よ』
……。
何が『なるほど』なのか分からないけれど、私も挨拶を返す。
手を胸に当て、スカートを摘まんで軽く足を引いて、お辞儀をする。
「こっちこそ、よろしくね」
リンちゃんのお母さんは、私の匂いを嗅いでいる。
暫くそうしていて満足したのか、リンちゃんを連れて魔境に帰っていた。
後で聞いた話では、リンちゃんは犬では無くて『フェンリル』という魔物らしい────
フェンリルは上位クラスの魔物で、滅多に人前に現れないそうだ。
私は氷竜に続き、フェンリルを従魔にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
フィリス・ライドロースが誕生し、一年と半年が経過した頃────
ライル商隊の護衛として、ルドル・ガリュードが再び、ライドロース領に訪れていた時の話だ。
辺境伯領の城の一室に、一年前と同じ四名が集っていた。
ライドロース辺境伯が、念を押す様に確認を取る。
「……間違いは、無いのか?」
「あくまで、この『グレイゴールの書』に記されていた情報が正しければ……という前提の話だが────」
「……歴史上もっとも高潔で、聡明な知将が残した書物です。我々に疑う余地はありません」
ルドル・ガリュードの答えに、ジェフリーが肯定的に頷き、同意する。
「……一年前、超魔人に襲われて、氷魔法を行使した直後の、あの子の瞳は赤く、髪は黒だった。────恐らく、本領を発揮するときに、黒く変色するのだろう……」
「では、やはりあの娘は……」
緊張した面持ちで確認するケイティに、ルドルが答えた。
「────ああ、あの子はこの世界で、『吸血鬼』と呼ばれる存在のようだ」
……。
…………。
ルドル・ガリュードは『グレイゴールの書』を読み、そこから得た知識から、フィリス・ライドロースが『吸血鬼』と呼ばれる存在だと知る。
そして、それをライドロース家に伝えた。
知らされた彼らは……。
…………。
「となると、やはり我らは……」
「聖ガルドルム帝国のその上、神ヤコムーンを敵に回すしかあるまい────」
誰一人迷うことなく、神と敵対する道を選んだ。
そして────
「……ルドル殿、貴殿は?」
その情報をライドロース家にもたらした男は……。
「────俺はもとより、奴の敵だからな」
自信に満ちた笑みで、ライドロースの味方をすると宣言した。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる