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お嬢様は謙虚堅実!?

第7話 神託 B

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 私は二歳くらいから、2,3の単語を用いて話し始めていた。


 親の機嫌を取るのは、それで十分だった。

 簡単なことだわ。



 沢山の言葉や、難しい文章はいらない。

「お父様、大好き!!」

「お母様、綺麗!!」


 ────これで十分。

 両親は大喜びだ。
 

 
 その頃の私は、何度も鏡で自分の姿を確認していた。
 自分で言うのもなんだが、私の容姿はかなり可愛いい────

 両親も、セレナも、他の使用人たちも、こぞって私の事を『世界一可愛い』と言ってくれた。
 
 身内贔屓だとしても単純に嬉しかったが、同時に不安でもあった。

 可愛くなければ──
 私はまた前世のように、誰からも愛されない存在になるのではないかと……。

 だから、不安に駆られて、鏡を見るのが習慣になってしまった。




 ──── ── 

 ──────── ──── ──
 ──────── ──── ──── ──
 ────────────────  ──── ──── ────────



 私はフィリス・ライドロース────
 三歳になった。

 このくらいになればもう、普通に喋っても良いだろう。
 両親とも、コミュニケーションを取り始める。

「お父様────あの、我が家の財政は、大丈夫でしょうか────?」

 そんな『こまっしゃくれた』ことを、言ったりする子供になった。


 前世では、お金に困った貧乏暮らしをしていた。
 その時のことを思い出し、不安になって、ライドロース家の財務状況を確かめたり、節約を進めたりした。




 頻繁に鏡を見ていた習慣は、三歳になった頃には鳴りを潜めている。

 人は慣れる生き物である。

 両親だけではなく、使用人も、領主であるお爺様も、帝都から帰ってきたお兄様も、お兄様の婚約者になった隣の領地のご令嬢も────

 皆が私の事を可愛いと言って、可愛がってくれる。
 私の事を、好きでいてくれる。

 それが実感できて、安心して生活できるようになった。

 …………。

 ……。

 
 ────いつか、『世の中、そんなに甘くない』という状況に陥ってしまうかもしれない。

 だが、今は── 
 甘えることの許される幼子の今だけは、存分に周囲に甘えておこうと思う。

 私は家族に甘え、甘やかされて育った。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 聖ガルドルム帝国・帝都ガルドールムの大神殿で、神に祈りを捧げていた教皇、
ニヤコルム・ヤコームル十五世に神の神託が下った。


 『フィリス・ライドロースを始末せよ』


「おお!! 神が語り掛けて下さるとは……」

 ニヤコルムは、感動で打ち震える。
 彼は暫く、そのまま見悶えていた。

 その後で、神から与えられた使命を遂行する為の思案に入る。
 

「『ライドロース』といえば……あの辺境伯か、やはり、神の敵であったか……それにしても、はて……?」

 辺境伯は潜在的に、神の敵である。

 神殿では代々、そう目されてきた。


 『始末するように』との神託が下ったとしても、不思議はない。

 ニヤコルムが訝しんでいるのは、『フィリス』という『個人』を、神が特別に指定したことだ。


「────余程の、罰当たりに違いない」


 ニヤコルムは直ちに、北方を統括する神殿に、『フィリス・ライドロース』を始末するようにとの書簡を出した。


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