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お嬢様は謙虚堅実!?

第6話 妖精 B

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 『そんなに心配しなくても大丈夫よ。────神様っていっても、ヤコムーンって奴がそう自称しているだけで、本物の神じゃないわ。それに────あんたのことは、ルドルが護るって決めたから、どんな敵が来たって平気よ』

 
 ────そう、なんだ。
 あの剣士が護ってくれると聞いて、私はちょっと安堵する。


 でもまだ、不安要素は残っている。
 もうちょっと、敵について聞いておきましょう。


「ねえベル……。偽物とはいえ────ヤコムーンっていうのは、あの化け物を従えることが出来るほど、強いのよね────?」


 『う~ん。私やルドルも会ったことがないから、ヤコムーンがどれくらい強いのかは分からないわ。……けれど、そいつがどれだけ強くても、それ以上に強くなればいいだけよ。簡単な話ね! ────問題ないわ!!』


 ベルは可愛らしい見た目に反して、脳筋だった。
 大丈夫かしら、ほんとに……?

 ……。

 私の不安は、増大した。



 あの化け物に屈強な大人の護衛が、為す術もなく瞬殺されるのを見ているのだ。
 
 ────不安にならない訳がない。

 …………。

 ……。

「あっ、そうだわ。大事なことを聞いてない! お父様とお母様は、ご無事なのかしら────?」



 お父様やお母様が死んでしまっていたら────

 そう考えると、胸が苦しくなる。



 『────ん? ああ、その二人なら無事よ。────あんたの母親の方は傷もほとんどなかったし、父親の方の傷は回復魔法で治したから、今はもう平気よ』
 

 二人が無事だと聞いて、ホッとする。
 それにしても、回復魔法というのもあるのね。


「私も回復魔法を使えるようになりたいわ。教えて貰えないかしら? ヤコムーンというのから、狙われている訳だし──少しでも強くならないと……」

 まだ赤ん坊だから、肉体を鍛えるのは無理だけど、魔法なら────

 あっ! でも、セレナがダメって言ってたわね……。

 
 『止めておいた方が良いと思うわ。────魔力も『力』ですからね。人間が無理して鍛えると、体を壊すことになるのよ。……あんたの場合は、どうか分からないけれど────』


 ベルもダメだって言うし、止めておいた方が良さそうね。

 前世でも、練習しすぎたアスリートが、身体を壊してしまったり、調子を落としてしまったりすることがあると聞いたことがある。

 魔法というのは、身体を使って行使するものだ。

 無理は止めておこう。



 『ルドルが護っているのだから、今から無理をする必要はないわ。────それよりも、身体をしっかりと成長させなさい。強くなるのはそれからよ』


 そう言われると、そんな気もする。


「ふぁあ……」

 ベルとお喋りをしていたら、眠くなってきた。
 瞼が重くなってくる。

 私はゆっくりと、眠りに入る。

 ────無理は良くない。
 赤ん坊の使命は、良く寝て良く食べて、身体を成長させることだ。
 

 『あら、もう御眠なの? ────おやすみ、フィリス』

 ベルの声を聴きながら、私は眠りに就いた。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 超魔人の襲撃を退けたルドル・ガリュードは、ライドロース夫妻の招きに応じて、領主の居城を訪れている。

 その城の一室に、ライドロース辺境伯とフィリスの父ジェフリー、母ケイティ、そしてルドル・ガリュードの四人が集っていた。



「天使に狙われていたのは、あの子なのか……?」

「あんなに可愛い子が、どうして…………??」

 我が子が天使から狙われていたと知り、ジェフリーとケイティが愕然とする。


「はっきりとした理由は、解らない。────恐らくヤコムーンは、『人類を進化させ過ぎない様に、調整している』のだとは思うが……。────娘さんは人の領域を超えた魔法を、あの年で操った逸材だ。────これからも同様の襲撃があるかもしれない。……皆さんの手に余るようでしたら、こちらで引き取っても……」


「あの子を、手放す気はありません!!」

 ルドル・ガリュードの提案を、母親のケイティが即座に拒否する。


「申し出は有り難いのですが、あの子は私達の大事な子供です。────できうる限り、自分たちの手で……」

 父親のジェフリーもそれに続いた。


「────分かりました。では、彼女の危機に駆けつけられるように、護衛を付けることとします。よろしいですね? ────それと、『天使』の方はそれでいいとして……帝国との関係は────?」

 聖ガルドルム帝国は、『ヤコムーン教』を国教としている。
 フィリス・ライドロースが神の敵と知られれば、帝国が黙ってはいない。

 ……。

 ……暫しの静寂の後、ライドロース辺境伯が重い口を開く。

「決まっておろう。────我らは、フロールス王家の血を受け継ぐ者…………帝国とは、いずれ決別する運命にあった。……ワシの代で、その時が来ただけの事よ」


 敵が帝国であろうとも、迎え撃つのみ────

 ライドロース辺境伯は、厳かに宣言した。
 

 ……。
 
 …………。

 四者による協議の結果────

 帝国に反旗を翻す覚悟を持ち、力を蓄えつつ、敵の出方を待つ。
 ライドロース家の方針が決まった。
 
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