1 / 70
お嬢様は謙虚堅実!?
第1話 最悪の人生と、その終焉
しおりを挟む私は、諦めていた。
小学校に入る前から、自分に自信が持てないでいた。
成長するに従い、人から大切にされることを諦め、平等に扱われることを諦め、人に好かれることを諦め、人を好きになることを諦め、幸せになることを諦め、そして……。
────人生を、諦めた。
改めて、自分の生涯を思い返してみる。
……涙が溢れて、止まらない。
もっと何とか、ならなかったのかな────?
そう、思わないでもない。
でも……。
どうしようもない……。
どうにも、出来なかった。
────結局は、それが結論だ。
私は母親と二人で、ボロボロの安アパートで暮らしていた。
父親は私が物心つく前に、珍しい事故で死んだらしい。
だから私は、父親を見たことがない。
場末のバーで働いている母親は、育児放棄気味だった。
ほとんど家に居ることは無い。
一応、食費は置いてくれていたので、それで何かを買って食べることは出来た。
だが時々、置き忘れていることがあり、そんな時は空腹を我慢して過ごした。
学校には行きたくなかったが、給食を食べる為だけに通っていた。
母親は、私の事が嫌いだったと思う。
自分によく似た不細工な私の顔を、とても嫌っていた。
そう────
私はとても、不細工だった。
通っていた学校のクラスで、常に一番のブスだった。
周りの人間は皆、私のことを見下していた。
あいつらは、私の事を馬鹿にしながら────
自分よりも『下の』、劣った存在がいることに安心していたのだ。
小学校の時のあだ名は、『ゲロ子』だった。
────クラスの男子が、勝手に付けた名前だ。
私にそのあだ名をつけた男子は、お調子者で、教室でよく騒いでいた。
騒いでいたそいつが、机に座っていた私にぶつかってきた事があった。
そいつは『きったね~! ゲロ子に触っちまった』とか言って、大騒ぎした。
私は居た堪れない気持ちで、俯いているしかなかった。
高校性の時のあだ名は、『ブス子』だった。
────クラスで二番目にブスだった女が、私に付けた名前だ。
私にそのあだ名をつけた女は、どうやら家族から『溺愛』されて育ったらしい。
親兄弟から世界一可愛いと言われて、育ったようだ。
本人もその気で、自分が可愛いと信じ込んでいた。
だが高校にもなると、自分の認識と周囲の認識の差に気付きだす。
……だからだろう。
その鬱憤を晴らす様に──
奴は私の事を、執拗に苛めるようになった。
自分では手を下さずに、自分の手下たちに私を苛めさせていた。
あいつは大人しい奴や何かしら劣った奴を自分の手下にしていて、私に嫌がらせをして遊んでいた。
私はやり返さなかった。
下手にやり返せば、自分の方が悪者にされると分かっていたからだ。
教師は当てにならない。
私の為に、親身になってくれるような大人はいない。
そんな奇特な存在は、いないのだ。
そう思って、毎日嫌がらせを我慢していた。
そして、病気になる。
朝目覚めて起きようとしても、上手く立てなかった。
高熱で身体に力が入らない────
風邪だった。
風邪と言っても、症状はピンキリだ。
苛められてストレスが溜まった私は、免疫力が低下していたのだろう。
中々、熱が下がらない。
学校に行けなくなった。
風邪を引いてから、二週間が経過した。
意識は朦朧としている。
何とか起き上がり、水を飲んだり、薬を服用したりした。
だが、一向に熱は下がらない。
食事もほとんど取っていない。
このままでは、死ぬだろう。
私の部屋の外で、物音がしている。
仕事に出かける前の様だ。
身支度をしている。
…………。
……。
ふすまを開ければ、母親がいる。
『助けて』と声を上げれば、流石に助けてくれるだろう。
でも、声は出なかった。
……もう、いい。
そう思った。
私の人生は、苛められて、蔑まれるのが常だった。
だが、例外はある。
それは中学生の時──
子供が一番多感になる時期にもかかわらず、中学の時だけは、イジメに遭うことは無かった。
陰で悪く言われたり、心の中で馬鹿にされてはいただろうが、少なくとも、表立って苛められる事は無かった。
三年間、一緒のクラスだったリーダー格の『あの男』が、そういうことが嫌いだったからだ。
だから、だろう────
私は迂闊にも……。
そいつに、恋心を抱いてしまった。
絶対に報われることなどないと、解っているのに……。
私はその『みっともない』恋心を、押し殺して無かったことにした。
だから────
私はその人生で、一度も恋をすることなく死んだ。
今にして思えば、私はプライドが高かったのだと思う。
私の母親は、こうではない────
私の事は嫌っていたが、人付き合いは上手かった。
私とよく似た不細工な顔だったが、むしろそれを武器にして笑いを取り、人の懐に入るのが得意なのだ。
愛嬌があって、好かれやすい……。
そんな人だった。
私には到底できない、生き方だ。
容姿で人の扱いに差が出ることを、理不尽と感じていた。
私はそれを受け入れることも受け流すことも、母のように利用することも出来ずに、世の中を恨んでいた。
────そんな私の生き辛い人生も、ようやく終わった。
私は死んだ。
死んで、そして────
女神に出会った。
……。
…………。
転生の女神。
女神は直視することの出来ないほどの、光り輝く美貌を振りまいている。
美しすぎて、人がはっきりと認識することの出来ない存在だった。
何故だか知らないけれど、私はその女神様に出会い──
只々、感謝していた。
……。
…………。
きっと、平等になったからだと思う。
圧倒的な美貌を持つ女神様の前では、人間の微かな美醜など無いに等しい。
この神様を前にすれば、どんな美人も私と大差ない……。
────神の前では、人は平等なのだ。
女神様は、私に平等をもたらしてくれた。
────だから、心から感謝した。
女神様は私のことを、異世界に転生させると言った。
ちょっとだけ、特別扱いをしてくれるそうだ。
────なんでも、ある男から頼まれたと言っていた。
誰に頼まれたかは知らないが、優遇してくれるのであれば受けておこう。
私は生まれてから死ぬまで、一度も幸せだったことが無かった。
生まれ変わった先で、少しくらい優遇されても良いだろう。
転生が始まる。
私の意識が、薄れていく────
……。
…………。
次こそは、まともな人生を歩めますように……。
そんな願いを込めながら、ゆっくりと────
私は眠りについた。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる