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一番最初の反逆者
第17話 この花を、君に──
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フロールス王国とガルドルム帝国の軍勢が、平地を切り裂き、流れる川を挟んで、対峙している。
最終決戦が始まる寸前──
両軍ともに、一触即発の状態にある。
フロールス王国軍は、その領土の大半を失い、残すはグレイゴール辺境伯領のみとなっている状態だ。
これから始まる決戦は、滅びる寸前のフロールス王国にとって、最後の戦いになる…………。
フロールス王国軍の最高指揮官デリル・グレイゴールが、軍議の際に突拍子もないことを言い出した。
「……戦を始める前に、最後の和平交渉を行いたい────私の命と引き換えに、王族の助命を取り付ける。それで──長きに渡って続いた、この戦を終わらそう」
彼のこの提案には、『無茶だ』『無謀だ』『──相手が了承しないでしょう』などの反対意見が出た。しかし、総指揮官であるデリルが、自分の命を懸けて戦いを終わらせようとしているのだから、好きにさせようということで話がまとまった。
──こんな提案を相手が飲むわけはないので、デリルはただ無意味に殺されて、結局は戦になる。お飾りの総指揮官が死ぬだけだ。
将兵の多くはそう思い、デリル・グレイゴールを送り出した。
そして彼らの予想通りに交渉は決裂し、最後の決戦が始る。
デリルは処刑されたが、ガルドルム帝国はそこで矛を収めることはせずに、フロールス王国軍に向け、散発的に魔法を撃ち込み挑発する。
──対するフロールス王国軍も、魔法で応戦し、両軍が動き出す。
数の多いガルドルム帝国軍が奴隷兵部隊を前面に押し出し、積極的に川を渡り、フロールス軍へと攻め込んだ。
──フロールス軍は川岸で応戦して、敵軍に多大な損耗を強要した。
しかし、多勢に無勢──
徐々に劣勢になり、死闘の末に敗れ去った。
グレイゴール領に潜伏していた王族や高位貴族は、残らず捕らえられて、全員処刑された。
長きにわたった戦い果てに、フロールス王国は滅亡し──
北部地域の反帝国勢力は一掃された。
これまでフロールス王国が治めていた北部地域は、ガルドルム帝国の統治下に置かれるようになった。
帝国の統治下で、『天主創世教』または、単に『ヤコムーン教』と言われる宗教の布教が進められることになる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
軍議の結果──
俺は敵軍との、最後の和平交渉に臨むこととなった。
俺はレキを共に、白旗を立てて川を渡っている。
歩いて渡れる浅瀬を選んで、向こう岸を目指す。
白旗を掲げているのは使者として赴くからだが、実態としては降伏しに行くようなものだ。せめて、王族だけは見逃して下さいと、お願いしに行くのだ。
──まあ、降伏させては貰えないだろうが、ダメもとで打診してみる。
川の向こうでは、敵軍が大勢待ち構えていて、殺気立った目でこっちを見ている。
敵側の『聖女』とは話が付いているので、襲われることは無いだろう。
大丈夫だとは思うが──
強面の集団に囲まれて、注目の的になるのは心臓に悪い。
こんな茶番は、早いところ終わらせたいものだ。
俺はラブ・アローを、聖女に撃ち込むことに成功している。
それからすぐに逃げ帰ったので、聖女の顔は見ていない。だが、彼女は間違いなく、俺の魅了魔法の影響下にある。
俺の従者となった聖女とは、スキル・テレパシーで意思疎通が出来る。
今後のことは、聖女と打ち合わせが済んでいる。
後は、予定通りに行動するだけだ。
俺とレキは聖女専用の天幕に、案内されて、その中に入る。
天幕の中にいるのは、聖女一人────
いや聖女だけではない。彼女と、その傍らに男が一人いる……。
男は顔を布袋で覆われて、身体を縄で簀巻きにされ、転がされていた。
「お待ちしておりました、デリル様──」
聖女は俺を見るなり、跪いて出迎える。
「うむ、其方もご苦労であった。褒めて遣わす」
俺は偉そうに、聖女を誉めた。
「ああ、勿体なきお言葉──身に余る光栄でございます」
褒められた聖女は、嬉しそうに身を震わせる。
──よし、この様子なら、罠では無いだろう。
『聖女』は完全に、俺に心酔している。
神『ヤコムーン』とやらにではなく、この俺に……。
そして、『聖女』を魅了魔法で支配しているにもかかわらず、『天使』も『神』も動く気配がない──
「くっくっくっ……やはり、そうか──」
俺は聖女を、魔法で魅了している。
彼女と俺は、魔力のパスで繋がっている状態にある。
俺は聖女を中継して、神を名乗る『ヤコムーン』という存在をハッキングし、奴の情報をかなり抜き出すことに成功していた。
現在、ヤコムーンは冬眠中で──
天使は指示されている行動範囲内でしか、動かない……。
ヤコムーンも、その配下の天使も、『聖女』のことを特別視はしていない。
──奴らにとって聖女というのは、自分たちの魔法の影響下に置きやすい、『波長の合う人間』というだけだ。
だから、他の人間同様に、『家畜』くらいにしか見ていない。
自分たちの都合の良いように、人間社会を管理し、コントロールする為の『パシリ』程度の存在だ。
────便利に使える駒ではある。
だから、俺の『予定表』のような、未来予知系のスキルで、聖女の死を感知した時にだけ、天使が守りに来る。
天使はそうプログラムされている。
だが、それだけだ。
最初に指示を出した時以外は放置して、監視も管理もしていない。
──だから、俺がこうして付け入り、支配を乗っ取ることが出来ている。
俺がヤコムーンの代わりに、『聖女』を使ってやることにした。
ヤコムーンというやつは、結構頭が悪い。
一度失敗して、ループしてやり直している。
今はスリープモードに入っていて、一度目には発生しなかったイレギュラー──
俺という、転生者の存在に気付いていない。
「これなら、乗り切れるな……」
俺は肉体変化で、子供の姿に変わる。
聖女の傍らに転がっていた身代わりの男が、デリルとして処刑場へと連行された。
デリルに背格好がよく似ていた哀れな男は、俺の代わりに処刑された。川を挟んで睨み合っていた両軍が、それを合図に戦いを開始する。
俺の命と引き換えに、争いを終結させる交渉は破談した。
──ガルドルム軍は、降伏を認めなかった。
そして、フロールス軍は、戦って死にたかったのだ。
俺(身代わり)の死で、終わって欲しかったんだけどな──
ここまで来たら、双方、戦って決着を付けたかったようだ。
人間とは、そういうものらしい。
──こればかりは、どうしようもない。
戦いは聖ガルドルム帝国の勝利で終わった。
聖女は俺と一緒に天幕に引き籠ったままだったので、天使の降臨は無かったが、兵力に三倍の開きがある。
──順当に、数の多いほうが勝って終った。
それから帝国は、残党狩りに入った。
グレイゴール領をくまなく捜索して、王族や高位貴族の生き残りを探し処刑する。
潜伏場所は、俺が知っている。
聖女の直轄部隊に発見させて、彼らを保護し、生き残らせることに成功した。
公式記録では、死んだことになっているが、実際は生きている。
『神』の意向では、旧支配者は皆殺しだったが、聖女は神以上に俺を敬愛している。……聖女の意向でも戦争は止められなかったが、このくらいの無理は通せた。
直轄部隊は素直でいい──
これで、神ヤコムーンに対して、反旗を翻す芽を残すことが出来る。
……。
…………。
デリル・グレイゴールは死んだ。
戦争を止めようと、その身を犠牲にしたが、願いは叶わずに処刑されて死んだ。
表の歴史では、そういうことになっている。
よって、俺は戦後──
『グレイ』としてのみ、生きることになる。
戦後処理が終了すると、聖女は帝都の大神殿に帰っていった。
彼女と会うことはもう無かったが、テレパシーを使って連絡を頻繁に取り合うことになる。
俺に協力し神を欺き、ヤコムーンに対する反逆の芽を、各地に残す事に尽力してくれた。
テレサブードや、彼女の脱出に協力したシルヴィア達は、全員生存している。
城塞都市ベリルブルグからの脱出に、成功し生き延びることが出来た。
城塞都市を囲む包囲網は、薄く広く張られている。
──破るのは一点で良い。
シルヴィアとミリーナが、包囲網を襲撃して暴れまわった。
敵軍に混乱を引き起こす。
その動きに呼応した都市内の籠城兵が一斉に打って出て、包囲を突破──
かなりの犠牲を出したが、全滅は避けられた。
俺がおっさんの姿で、ラブ・アローを使った三人──
エレーヌ、クロエ、テレサブードには手紙を残した。
俺には『グレイ』という名の隠し子がいるから、面倒を見てやってくれと頼んでおいた。
こうしておけば、彼女たちはこれから──
グレイとして生きる俺の、面倒を見てくれるだろう。
戦争は終結した────
グレイゴール領は、聖ガルドルム帝国に統治されることとなった。
だが、俺たちはまだ生きている。
聖女に命じて、ライドロース領の統治者には、フロールス王家の生き残りを据えるように調整した。
俺は聖女を除く従者たちと、ライドロース領で合流して、その地で冒険者として第二の人生を送ることになる。
俺は相変わらず弱っちかったが、シルヴィアやミリーナは元々高ランク冒険者だし、ンーゴ達元盗賊組は、冒険者として役立つ知識を豊富に持っていた。
テレサブードは、部隊の指揮に長けている。
レキは情報収集が得意だ。
魔物との戦闘でも、敵の急所をついて、一撃で仕留めるのが上手かった。
俺以外は、みんな優秀な冒険者だ。
『グレイとゆかいな仲間たち』は、Sランクチームの冒険者パーティーとして、その名を轟かせることになった。
戦争終結から、五十三年後──
伴侶として、連れ添っていたレキが死んだ。
俺は彼女が天寿を全うしてから、一つのスキルを取得する。
俺に与えられていた転生特典は100ポイントで、スキル一つ取るのに10ポイントずつ消費されていた。
取ったスキルは九つだから、あと一つ取れたのだ。
俺は残る10ポイントを使って、スキル・封印を取得する。
スキルを覚えてから、ライドロース辺境伯の居城へと向かう。
ライドロース辺境伯は、フロールス王家の生き残りだ。
──彼らが素性を隠し名を変えて、その地位に就いている。
彼らは自分たちの命を助けた『デリルの息子』に、何かと便宜を図ってくれる。
俺は城の一室を借り受けて、本を書いた。
俺がハッキングして知り得た、ヤコムーンに関する情報を書き記す。
書き終わった後で──
持参した俺の日記と共に、本に『封印』を施して書棚に入れておいた。
スキル『封印』を施したこの本は、俺以上の魔力の持ち主でなければ、開けることが出来ないし、燃やしたり破壊したりできない。
俺以上の魔力の持ち主など、この世界に誕生するかは分からない────
それは分からない。
だが最悪、この処置が無駄になっても構わない。
俺が生きた証のようなものを、残すことはできた。
天主ヤコムーン──
奴の最大の武器は、永遠の命。
無限ともいえる時を、生き続けることが出来ることだ。
俺のスキル・魔力変換を使い続ければ──
理論上それに対抗できるのだろうが、使う気にはなれなかった。
…………。
俺は『グレイゴールの書』に封印を施すと、城を出て自分の屋敷へと帰宅する。
その途中で路上の花売りから、小さな、可愛らしい花を買った。
その足で墓所に立ち寄り、レキの墓に花を添える。
「──お前と過ごした思い出を失ってまで、永遠に生きようとは思わない」
彼女や仲間たちと過ごした冒険の日々を──
俺は失いたくは無かった。
俺がそう言うと──
少しだけ雨が降ってきて、頬に当たる。
青空が広がっているのに、雨が降ってきた……。
天気雨か──
俺は彼女が、見守ってくれているように感じた。
嬉し涙だったらいいなぁ──
空を見上げながら、そう思った。
━END━
最終決戦が始まる寸前──
両軍ともに、一触即発の状態にある。
フロールス王国軍は、その領土の大半を失い、残すはグレイゴール辺境伯領のみとなっている状態だ。
これから始まる決戦は、滅びる寸前のフロールス王国にとって、最後の戦いになる…………。
フロールス王国軍の最高指揮官デリル・グレイゴールが、軍議の際に突拍子もないことを言い出した。
「……戦を始める前に、最後の和平交渉を行いたい────私の命と引き換えに、王族の助命を取り付ける。それで──長きに渡って続いた、この戦を終わらそう」
彼のこの提案には、『無茶だ』『無謀だ』『──相手が了承しないでしょう』などの反対意見が出た。しかし、総指揮官であるデリルが、自分の命を懸けて戦いを終わらせようとしているのだから、好きにさせようということで話がまとまった。
──こんな提案を相手が飲むわけはないので、デリルはただ無意味に殺されて、結局は戦になる。お飾りの総指揮官が死ぬだけだ。
将兵の多くはそう思い、デリル・グレイゴールを送り出した。
そして彼らの予想通りに交渉は決裂し、最後の決戦が始る。
デリルは処刑されたが、ガルドルム帝国はそこで矛を収めることはせずに、フロールス王国軍に向け、散発的に魔法を撃ち込み挑発する。
──対するフロールス王国軍も、魔法で応戦し、両軍が動き出す。
数の多いガルドルム帝国軍が奴隷兵部隊を前面に押し出し、積極的に川を渡り、フロールス軍へと攻め込んだ。
──フロールス軍は川岸で応戦して、敵軍に多大な損耗を強要した。
しかし、多勢に無勢──
徐々に劣勢になり、死闘の末に敗れ去った。
グレイゴール領に潜伏していた王族や高位貴族は、残らず捕らえられて、全員処刑された。
長きにわたった戦い果てに、フロールス王国は滅亡し──
北部地域の反帝国勢力は一掃された。
これまでフロールス王国が治めていた北部地域は、ガルドルム帝国の統治下に置かれるようになった。
帝国の統治下で、『天主創世教』または、単に『ヤコムーン教』と言われる宗教の布教が進められることになる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
軍議の結果──
俺は敵軍との、最後の和平交渉に臨むこととなった。
俺はレキを共に、白旗を立てて川を渡っている。
歩いて渡れる浅瀬を選んで、向こう岸を目指す。
白旗を掲げているのは使者として赴くからだが、実態としては降伏しに行くようなものだ。せめて、王族だけは見逃して下さいと、お願いしに行くのだ。
──まあ、降伏させては貰えないだろうが、ダメもとで打診してみる。
川の向こうでは、敵軍が大勢待ち構えていて、殺気立った目でこっちを見ている。
敵側の『聖女』とは話が付いているので、襲われることは無いだろう。
大丈夫だとは思うが──
強面の集団に囲まれて、注目の的になるのは心臓に悪い。
こんな茶番は、早いところ終わらせたいものだ。
俺はラブ・アローを、聖女に撃ち込むことに成功している。
それからすぐに逃げ帰ったので、聖女の顔は見ていない。だが、彼女は間違いなく、俺の魅了魔法の影響下にある。
俺の従者となった聖女とは、スキル・テレパシーで意思疎通が出来る。
今後のことは、聖女と打ち合わせが済んでいる。
後は、予定通りに行動するだけだ。
俺とレキは聖女専用の天幕に、案内されて、その中に入る。
天幕の中にいるのは、聖女一人────
いや聖女だけではない。彼女と、その傍らに男が一人いる……。
男は顔を布袋で覆われて、身体を縄で簀巻きにされ、転がされていた。
「お待ちしておりました、デリル様──」
聖女は俺を見るなり、跪いて出迎える。
「うむ、其方もご苦労であった。褒めて遣わす」
俺は偉そうに、聖女を誉めた。
「ああ、勿体なきお言葉──身に余る光栄でございます」
褒められた聖女は、嬉しそうに身を震わせる。
──よし、この様子なら、罠では無いだろう。
『聖女』は完全に、俺に心酔している。
神『ヤコムーン』とやらにではなく、この俺に……。
そして、『聖女』を魅了魔法で支配しているにもかかわらず、『天使』も『神』も動く気配がない──
「くっくっくっ……やはり、そうか──」
俺は聖女を、魔法で魅了している。
彼女と俺は、魔力のパスで繋がっている状態にある。
俺は聖女を中継して、神を名乗る『ヤコムーン』という存在をハッキングし、奴の情報をかなり抜き出すことに成功していた。
現在、ヤコムーンは冬眠中で──
天使は指示されている行動範囲内でしか、動かない……。
ヤコムーンも、その配下の天使も、『聖女』のことを特別視はしていない。
──奴らにとって聖女というのは、自分たちの魔法の影響下に置きやすい、『波長の合う人間』というだけだ。
だから、他の人間同様に、『家畜』くらいにしか見ていない。
自分たちの都合の良いように、人間社会を管理し、コントロールする為の『パシリ』程度の存在だ。
────便利に使える駒ではある。
だから、俺の『予定表』のような、未来予知系のスキルで、聖女の死を感知した時にだけ、天使が守りに来る。
天使はそうプログラムされている。
だが、それだけだ。
最初に指示を出した時以外は放置して、監視も管理もしていない。
──だから、俺がこうして付け入り、支配を乗っ取ることが出来ている。
俺がヤコムーンの代わりに、『聖女』を使ってやることにした。
ヤコムーンというやつは、結構頭が悪い。
一度失敗して、ループしてやり直している。
今はスリープモードに入っていて、一度目には発生しなかったイレギュラー──
俺という、転生者の存在に気付いていない。
「これなら、乗り切れるな……」
俺は肉体変化で、子供の姿に変わる。
聖女の傍らに転がっていた身代わりの男が、デリルとして処刑場へと連行された。
デリルに背格好がよく似ていた哀れな男は、俺の代わりに処刑された。川を挟んで睨み合っていた両軍が、それを合図に戦いを開始する。
俺の命と引き換えに、争いを終結させる交渉は破談した。
──ガルドルム軍は、降伏を認めなかった。
そして、フロールス軍は、戦って死にたかったのだ。
俺(身代わり)の死で、終わって欲しかったんだけどな──
ここまで来たら、双方、戦って決着を付けたかったようだ。
人間とは、そういうものらしい。
──こればかりは、どうしようもない。
戦いは聖ガルドルム帝国の勝利で終わった。
聖女は俺と一緒に天幕に引き籠ったままだったので、天使の降臨は無かったが、兵力に三倍の開きがある。
──順当に、数の多いほうが勝って終った。
それから帝国は、残党狩りに入った。
グレイゴール領をくまなく捜索して、王族や高位貴族の生き残りを探し処刑する。
潜伏場所は、俺が知っている。
聖女の直轄部隊に発見させて、彼らを保護し、生き残らせることに成功した。
公式記録では、死んだことになっているが、実際は生きている。
『神』の意向では、旧支配者は皆殺しだったが、聖女は神以上に俺を敬愛している。……聖女の意向でも戦争は止められなかったが、このくらいの無理は通せた。
直轄部隊は素直でいい──
これで、神ヤコムーンに対して、反旗を翻す芽を残すことが出来る。
……。
…………。
デリル・グレイゴールは死んだ。
戦争を止めようと、その身を犠牲にしたが、願いは叶わずに処刑されて死んだ。
表の歴史では、そういうことになっている。
よって、俺は戦後──
『グレイ』としてのみ、生きることになる。
戦後処理が終了すると、聖女は帝都の大神殿に帰っていった。
彼女と会うことはもう無かったが、テレパシーを使って連絡を頻繁に取り合うことになる。
俺に協力し神を欺き、ヤコムーンに対する反逆の芽を、各地に残す事に尽力してくれた。
テレサブードや、彼女の脱出に協力したシルヴィア達は、全員生存している。
城塞都市ベリルブルグからの脱出に、成功し生き延びることが出来た。
城塞都市を囲む包囲網は、薄く広く張られている。
──破るのは一点で良い。
シルヴィアとミリーナが、包囲網を襲撃して暴れまわった。
敵軍に混乱を引き起こす。
その動きに呼応した都市内の籠城兵が一斉に打って出て、包囲を突破──
かなりの犠牲を出したが、全滅は避けられた。
俺がおっさんの姿で、ラブ・アローを使った三人──
エレーヌ、クロエ、テレサブードには手紙を残した。
俺には『グレイ』という名の隠し子がいるから、面倒を見てやってくれと頼んでおいた。
こうしておけば、彼女たちはこれから──
グレイとして生きる俺の、面倒を見てくれるだろう。
戦争は終結した────
グレイゴール領は、聖ガルドルム帝国に統治されることとなった。
だが、俺たちはまだ生きている。
聖女に命じて、ライドロース領の統治者には、フロールス王家の生き残りを据えるように調整した。
俺は聖女を除く従者たちと、ライドロース領で合流して、その地で冒険者として第二の人生を送ることになる。
俺は相変わらず弱っちかったが、シルヴィアやミリーナは元々高ランク冒険者だし、ンーゴ達元盗賊組は、冒険者として役立つ知識を豊富に持っていた。
テレサブードは、部隊の指揮に長けている。
レキは情報収集が得意だ。
魔物との戦闘でも、敵の急所をついて、一撃で仕留めるのが上手かった。
俺以外は、みんな優秀な冒険者だ。
『グレイとゆかいな仲間たち』は、Sランクチームの冒険者パーティーとして、その名を轟かせることになった。
戦争終結から、五十三年後──
伴侶として、連れ添っていたレキが死んだ。
俺は彼女が天寿を全うしてから、一つのスキルを取得する。
俺に与えられていた転生特典は100ポイントで、スキル一つ取るのに10ポイントずつ消費されていた。
取ったスキルは九つだから、あと一つ取れたのだ。
俺は残る10ポイントを使って、スキル・封印を取得する。
スキルを覚えてから、ライドロース辺境伯の居城へと向かう。
ライドロース辺境伯は、フロールス王家の生き残りだ。
──彼らが素性を隠し名を変えて、その地位に就いている。
彼らは自分たちの命を助けた『デリルの息子』に、何かと便宜を図ってくれる。
俺は城の一室を借り受けて、本を書いた。
俺がハッキングして知り得た、ヤコムーンに関する情報を書き記す。
書き終わった後で──
持参した俺の日記と共に、本に『封印』を施して書棚に入れておいた。
スキル『封印』を施したこの本は、俺以上の魔力の持ち主でなければ、開けることが出来ないし、燃やしたり破壊したりできない。
俺以上の魔力の持ち主など、この世界に誕生するかは分からない────
それは分からない。
だが最悪、この処置が無駄になっても構わない。
俺が生きた証のようなものを、残すことはできた。
天主ヤコムーン──
奴の最大の武器は、永遠の命。
無限ともいえる時を、生き続けることが出来ることだ。
俺のスキル・魔力変換を使い続ければ──
理論上それに対抗できるのだろうが、使う気にはなれなかった。
…………。
俺は『グレイゴールの書』に封印を施すと、城を出て自分の屋敷へと帰宅する。
その途中で路上の花売りから、小さな、可愛らしい花を買った。
その足で墓所に立ち寄り、レキの墓に花を添える。
「──お前と過ごした思い出を失ってまで、永遠に生きようとは思わない」
彼女や仲間たちと過ごした冒険の日々を──
俺は失いたくは無かった。
俺がそう言うと──
少しだけ雨が降ってきて、頬に当たる。
青空が広がっているのに、雨が降ってきた……。
天気雨か──
俺は彼女が、見守ってくれているように感じた。
嬉し涙だったらいいなぁ──
空を見上げながら、そう思った。
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