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渡り鳥と竜使い
第11話 全部食べたのか?
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ひゅっごぉぉぉおおおおおおおお!!!!
寒風吹き荒ぶ、荒野の大地。
僕が運航する飛空船は、そこに着陸し停泊している。
これから、大陸を分断する大山脈を超える予定だ。
魔石に魔力の溜めながら、天気の回復を待っている。。
この辺りに、人里はない。
茶色に染まった、大地と岩。
疎らに点在する緑。
もうすぐこの辺りにも雪が降り、 大地を白一色に染めるだろう。
「う~ん――」
もう少し手前で見かけた町の近くに着陸しておけば、食料を買い込めた……。
そこまで戻るか?
――いや、ここでエネルギーを溜めているのは、念入りに準備しているだけで、魔力の補充はほとんど完了している。
次の停泊地までの分の、食料の備蓄も十分にある。
僕達『ライル商隊』が、ヤト皇国を出発したのは二週間前――
島国のヤト皇国から、僕とシャリーシャが留学していたフリュードル王国のある『フォーン大陸』へと移動する。
ヤト皇国の西にあるフォーン大陸は、大陸中央にあるズスタロス大山脈が左右に分断している。
大陸の東がフォール地域――。
西がダルード地域と呼ばれている。
ライル商隊が目指しているのは、ダルード地域の北部にある辺境伯領だ。
大陸の西部への移動は、標高の高い山脈を超えて向かう――
この旅で、一番の難所だ。
大陸中央のズスタロス大山脈を越える前に、魔石に魔力を蓄積させている。
念のためではあるが、準備に万全を尽くす。
ここまで来るまでに、地上へと着陸したのは四回――。
町の近くに降りて、魔力の補充を兼ねて補給と休息を行う。
ヤト皇国から運んでいる商品は、東側のフォール地域で売っても十分儲けは出るが、目的地のダルード地域の方が、高値で売れる。
実際の商品の販売価格は、現地に行くまで分からない。
それでも大体の相場は決まっている。
希少品は高く売れるし、市場に沢山ある物は安く買える。
ダルード地域へ行けば、この船に積んである農産品や工芸品は高く売れるだろう。
デルドセフ商会は、ダルード地域にも支店がある。
海運業を営む商会には、相場関連の情報も集まってくる。
彼らからのアドバイスを元に、商品を選んで運んでいる。
間違いは無いだろう。
目的地までは海路なら半年はかかるが、空を進むこの船なら一か月で辿り着ける。
飛空船が大量生産されれば、この世界の流通は一変する。
でも、それと同時に、戦争も増えるか――
このまま独占しておいた方が良いかな……。
そんなことを思案していると、甲板の上で見張りをしていた冒険者チームに、緊張が増す。
彼らはさりげなく、臨戦態勢に入る。
この船に向かって、百人規模の集団が近付いてくる。
十数の荷馬車を引き連れた、商隊のようだ。
彼らはこちらに近づく。
『この船は一体何か』と尋ねて来た。
彼らの問いかけに対応しているのは、デルドセフ商会から派遣された、交渉担当の従業員だ。
交渉担当は、中年の男と女が一人ずつ、この船に同乗してくれている。
この試験飛行では、世界各地を回る予定なので、交渉担当も得意言語の異なる者が二人いる。
交渉する相手が貴族なら僕が対応するが、相手が商人なら対応は彼らに任せた方がいい。
話を聞いていると、どうやら相手の商隊は、自分たちの交易ルートに見慣れぬ船が設置してあったので、正体を見極めに来たらしい。
こんな内陸に船がポツンとあれば、不思議に思うのは当然だ。
安全確認は、商人の基本である。
盗賊の類では無かったか――
相手が行商隊なら、警戒する必要はない。
僕は少し緊張を解いたが、交渉を担当している従業員は、背中の後ろに回した手で、『戦闘になるかもしれない』と、ハンドサインで知らせて来た。
よく見ると相手の商隊の面々は、身構えながらこちらを観察している。
僕らを襲うかどうかを、吟味している最中の様だ。
こっちの護衛も敵意を感じ取り、顔が強張る。
向こうには馬に乗った戦闘員が、五十以上は控えている。
魔法の杖を持った者も、十名以上……。
僕は貿易業を始める前に、デルドセフ商会のベテラン商人から受けた、レクチャーを思い出す。
商隊は商品の売り買いを、移動しながら繰り返す。
そして、盗賊に襲われるリスクを考慮して、自衛の為に武装する。
目的地が同じ商隊は協力関係を結んだり、情報交換も行うので仲良くするのが基本だが、人気のないような交易ルートで遭遇した場合は事情が異なる。
町の外で、移動中に別の商隊と出会えば――
まずはお互いに、相手の戦力を確認する。
相手の力量を見定めた後は、積み荷の価値を値踏みする。
それから戦って、勝てるかどうかを見積もる。
勝てると踏めば、次は――
戦って失う損失と、相手から奪える積み荷の価値を天秤にかける。
得られる利益が高いと判断すれば、略奪が開始される。
相手の商隊のリーダーが、手を空に掲げる。
その腕を下ろすのが、戦闘開始の合図……。
いつのまにか相手の商隊の戦闘員が、左右に展開している。
お互いが、武器を構えて身構える。
僕は武闘派ではないが――
これから殺し合いが始まる緊張感が辺りを包んでいるのが分かる。
こちらの交渉担当二人は、後ろに引きさがる。
相手の弓兵が、弓を構え矢を番える。
だが――
殺し合いは起こらなかった。
バッサ、バッサ、バッサ、バッサ……。
上空からの響いてくる豪快な羽音が、殺気立った空気を霧散させる。
空の上から、ドラゴンが下りてくる。
現れたのは、風竜だった。
シャリーシャとシャーリは、この荒野に着陸するや否や、獲物を求めて空を飛んでいった。
シャーリの分の保存食もちゃんと積んであるが、新鮮な魔物の肉の方が好みのようで、狩りに行く時間があれば、すぐに飛んで行って獲物を取ってくる。
食費の節約にもなる。
さらにこの船に乗っていたワイバーン使い二人も、食料になる魔物を求めて空を飛んでいった。
シャーリは巨大な芋虫の魔物を咥えて、空を舞ってきた。
地上に降り立つと、その芋虫を夢中で貪る。
食べながら、器用に魔石を取り出して横に除ける。
魔石は金になるので、仕留めた獲物をわざわざ、ここまで運んでから食べている。
風竜は、空の王者と呼ばれている。
魔物の頂点に立つ、竜の一種。
その威容は、他の生物を圧倒する。
相手の商隊の戦意は、すでに霧散している。
さらにワイバーン二匹が、連れ立って帰還した。
僕たちを襲おうと身構えていた彼らは、顔面を蒼白にしている。
僕達ライル商隊の交渉担当の商人が、再び前に出て交渉を再開する。
商隊が交易ルートで鉢合わせた場合、お互いの積み荷を売り買いすることもある。
僕たちの商隊は、相手の商隊の荷物の中から、上質な毛皮を大量に仕入れることになった。
――かなり格安で売って貰えた。
『悪いかな』と少し思ったが、今回のケースでは妥当な取引だろう。
ムシャムシャ、ムシャムシャ。
シャーリが美味しそうに、芋虫の魔物の肉を食べきった。
自分と同じくらいの体積の魔物だったはずだが――
全部食べたのか?
毛皮を格安で差し出す彼らは、それを見て脂汗を浮かべている。
顔は恐怖で引き攣っていた。
寒風吹き荒ぶ、荒野の大地。
僕が運航する飛空船は、そこに着陸し停泊している。
これから、大陸を分断する大山脈を超える予定だ。
魔石に魔力の溜めながら、天気の回復を待っている。。
この辺りに、人里はない。
茶色に染まった、大地と岩。
疎らに点在する緑。
もうすぐこの辺りにも雪が降り、 大地を白一色に染めるだろう。
「う~ん――」
もう少し手前で見かけた町の近くに着陸しておけば、食料を買い込めた……。
そこまで戻るか?
――いや、ここでエネルギーを溜めているのは、念入りに準備しているだけで、魔力の補充はほとんど完了している。
次の停泊地までの分の、食料の備蓄も十分にある。
僕達『ライル商隊』が、ヤト皇国を出発したのは二週間前――
島国のヤト皇国から、僕とシャリーシャが留学していたフリュードル王国のある『フォーン大陸』へと移動する。
ヤト皇国の西にあるフォーン大陸は、大陸中央にあるズスタロス大山脈が左右に分断している。
大陸の東がフォール地域――。
西がダルード地域と呼ばれている。
ライル商隊が目指しているのは、ダルード地域の北部にある辺境伯領だ。
大陸の西部への移動は、標高の高い山脈を超えて向かう――
この旅で、一番の難所だ。
大陸中央のズスタロス大山脈を越える前に、魔石に魔力を蓄積させている。
念のためではあるが、準備に万全を尽くす。
ここまで来るまでに、地上へと着陸したのは四回――。
町の近くに降りて、魔力の補充を兼ねて補給と休息を行う。
ヤト皇国から運んでいる商品は、東側のフォール地域で売っても十分儲けは出るが、目的地のダルード地域の方が、高値で売れる。
実際の商品の販売価格は、現地に行くまで分からない。
それでも大体の相場は決まっている。
希少品は高く売れるし、市場に沢山ある物は安く買える。
ダルード地域へ行けば、この船に積んである農産品や工芸品は高く売れるだろう。
デルドセフ商会は、ダルード地域にも支店がある。
海運業を営む商会には、相場関連の情報も集まってくる。
彼らからのアドバイスを元に、商品を選んで運んでいる。
間違いは無いだろう。
目的地までは海路なら半年はかかるが、空を進むこの船なら一か月で辿り着ける。
飛空船が大量生産されれば、この世界の流通は一変する。
でも、それと同時に、戦争も増えるか――
このまま独占しておいた方が良いかな……。
そんなことを思案していると、甲板の上で見張りをしていた冒険者チームに、緊張が増す。
彼らはさりげなく、臨戦態勢に入る。
この船に向かって、百人規模の集団が近付いてくる。
十数の荷馬車を引き連れた、商隊のようだ。
彼らはこちらに近づく。
『この船は一体何か』と尋ねて来た。
彼らの問いかけに対応しているのは、デルドセフ商会から派遣された、交渉担当の従業員だ。
交渉担当は、中年の男と女が一人ずつ、この船に同乗してくれている。
この試験飛行では、世界各地を回る予定なので、交渉担当も得意言語の異なる者が二人いる。
交渉する相手が貴族なら僕が対応するが、相手が商人なら対応は彼らに任せた方がいい。
話を聞いていると、どうやら相手の商隊は、自分たちの交易ルートに見慣れぬ船が設置してあったので、正体を見極めに来たらしい。
こんな内陸に船がポツンとあれば、不思議に思うのは当然だ。
安全確認は、商人の基本である。
盗賊の類では無かったか――
相手が行商隊なら、警戒する必要はない。
僕は少し緊張を解いたが、交渉を担当している従業員は、背中の後ろに回した手で、『戦闘になるかもしれない』と、ハンドサインで知らせて来た。
よく見ると相手の商隊の面々は、身構えながらこちらを観察している。
僕らを襲うかどうかを、吟味している最中の様だ。
こっちの護衛も敵意を感じ取り、顔が強張る。
向こうには馬に乗った戦闘員が、五十以上は控えている。
魔法の杖を持った者も、十名以上……。
僕は貿易業を始める前に、デルドセフ商会のベテラン商人から受けた、レクチャーを思い出す。
商隊は商品の売り買いを、移動しながら繰り返す。
そして、盗賊に襲われるリスクを考慮して、自衛の為に武装する。
目的地が同じ商隊は協力関係を結んだり、情報交換も行うので仲良くするのが基本だが、人気のないような交易ルートで遭遇した場合は事情が異なる。
町の外で、移動中に別の商隊と出会えば――
まずはお互いに、相手の戦力を確認する。
相手の力量を見定めた後は、積み荷の価値を値踏みする。
それから戦って、勝てるかどうかを見積もる。
勝てると踏めば、次は――
戦って失う損失と、相手から奪える積み荷の価値を天秤にかける。
得られる利益が高いと判断すれば、略奪が開始される。
相手の商隊のリーダーが、手を空に掲げる。
その腕を下ろすのが、戦闘開始の合図……。
いつのまにか相手の商隊の戦闘員が、左右に展開している。
お互いが、武器を構えて身構える。
僕は武闘派ではないが――
これから殺し合いが始まる緊張感が辺りを包んでいるのが分かる。
こちらの交渉担当二人は、後ろに引きさがる。
相手の弓兵が、弓を構え矢を番える。
だが――
殺し合いは起こらなかった。
バッサ、バッサ、バッサ、バッサ……。
上空からの響いてくる豪快な羽音が、殺気立った空気を霧散させる。
空の上から、ドラゴンが下りてくる。
現れたのは、風竜だった。
シャリーシャとシャーリは、この荒野に着陸するや否や、獲物を求めて空を飛んでいった。
シャーリの分の保存食もちゃんと積んであるが、新鮮な魔物の肉の方が好みのようで、狩りに行く時間があれば、すぐに飛んで行って獲物を取ってくる。
食費の節約にもなる。
さらにこの船に乗っていたワイバーン使い二人も、食料になる魔物を求めて空を飛んでいった。
シャーリは巨大な芋虫の魔物を咥えて、空を舞ってきた。
地上に降り立つと、その芋虫を夢中で貪る。
食べながら、器用に魔石を取り出して横に除ける。
魔石は金になるので、仕留めた獲物をわざわざ、ここまで運んでから食べている。
風竜は、空の王者と呼ばれている。
魔物の頂点に立つ、竜の一種。
その威容は、他の生物を圧倒する。
相手の商隊の戦意は、すでに霧散している。
さらにワイバーン二匹が、連れ立って帰還した。
僕たちを襲おうと身構えていた彼らは、顔面を蒼白にしている。
僕達ライル商隊の交渉担当の商人が、再び前に出て交渉を再開する。
商隊が交易ルートで鉢合わせた場合、お互いの積み荷を売り買いすることもある。
僕たちの商隊は、相手の商隊の荷物の中から、上質な毛皮を大量に仕入れることになった。
――かなり格安で売って貰えた。
『悪いかな』と少し思ったが、今回のケースでは妥当な取引だろう。
ムシャムシャ、ムシャムシャ。
シャーリが美味しそうに、芋虫の魔物の肉を食べきった。
自分と同じくらいの体積の魔物だったはずだが――
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