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渡り鳥と竜使い

第8話 迷子になったら大変だ。

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 デルドセフ商会、それが――
 母の実家の商会の名前で、主に海運業を営んでいる。

 その親戚筋の商会の倉庫を間借りして、魔石と魔法陣の商用利用と、飛空船の開発を行っている。


 僕がこの世界に転生して、最初に作り上げようとしてきたものは――

 飛空船。
 船を空に浮かべて、飛行できるようにする。

 それが当面の目標だった。




 デルドセフ商会の会長は、僕の祖父だ。
 けれど、それだけで大規模なプロジェクトに乗って貰えるわけではない。

 一つ一つ実績を積み重ねていくしかない。 


 その為に、実験と検証をくり返し、小さな成功を積み重ねてきた。 

 魔力の無い者でも魔石と魔法陣を駆使すれば、安定して魔法の恩恵を享受できる。

 それは、魔法文明の始まりになる。



 
 実現のためには、資金も人手も大量に必要だ。

 僕が魔法知識と技術、そして前世の記憶を元にしたアイデアとビジョンを提供して、商会には必要な物資や人材を提供して貰っている。

 企業内ベンチャーのようなものだ。




 もうすでに、実用化されているアイデアもある。

 荷運びに使う為の、パレットとコンテナを考案した。
 前世の記憶があったので、その辺りの有用な道具はすぐに思いつく。

 ただそのまま形にしても、この世界では使い物にならない。


 この世界にはフォークリフトもハンドリフトもクレーンもない。
 それらを作るのは、僕には無理だ。

 そこでパレットやコンテナに浮遊石を組み込み、その石に従業員が魔力供給を行う為の魔法陣を刻印した。





 運送業に従事しているのは平民だ。

 浮遊魔法を扱える貴族が荷運びを行えば、もっと楽に仕事をこなせるだろう。


 しかし――
 貴族の魔法は他国との戦争や、魔物との戦いに使われるものだ。

 何事にも優先順位がある。
 人口の一パーセントしかいない、貴族の魔力の使い道は選ばなければならない。

 荷運びに使う余裕はない。




 魔法を使えるのは貴族だけだ。

 しかし、保有量は少ないが、平民にも魔力はある。


 彼らの持つ少量の魔力でも、魔石と魔法陣の補助があれば、荷物を積載したコンテナを、宙に浮かすことは可能だった。


 パレットやコンテナに刻印した魔力供給用の魔法陣から、線で繋がった浮遊魔石に魔力が流れ込む仕組みになっている。

 荷物を宙に浮かせれば、荷運びが格段に楽になる。

 荷物を押し出す係と、ブレーキ係、それと魔力供給係に別れて荷物を運んでいる。


 使い慣れていない魔力を消費するので、魔力量の少ない者だとすぐにバテるのが難点だ。

 役割を交代しながら使用している。



 重さを軽くする魔法には、浮遊以外にも『反重力』がある。
 そちらの方がコンテナの移動も、より制御しやすかった。

 しかし、物体の重量を軽減する『反重力の魔石』は消費魔力が大きすぎて、平民の従業員では扱えない。

 開発初期に、反重力の魔石を用いることは断念した。
 


 浮遊石は、飛行タイプの魔物からよく取れる。
 この辺りでは市場に出回る数も多く、価格も安い。

 浮遊石を用いたパレットやコンテナは、すぐに量産されて商会内で使われている。






 貴族は荷運びのような仕事はしないし、平民は魔力操作も魔法技術にも詳しくない――


 火や水や風の魔石は生活用品として使われてはいるが、使うのは魔力量の多い貴族だけだ。

 だが、工夫次第で平民でも魔石は使える。

 チート能力のない凡人の僕が、この世界に対して付け入る隙があるとすれば、そこを発展させるしかない。


 役に立つアイデアを提供したことで、商会内での評価が上がり、僕の開発している飛空船の製造にも便宜が図られて、予算も提供された。








 僕は製造中の飛空船の、内装をチェックする。

 元々は引退寸前の船を貰い受けたものだ。

 船室や外装のメンテナンスやリフォームはしているが、再び海に浮かべることは考えていない。


 空海両用の船というのも、夢があって憧れるが、そこまで多機能にする予算も必要性もない。

 欲を言えば、一から船体の設計をして貰いたかったが、設計図から作るとなると、お金と時間がそれ相応にかかる。


 まずはこの初号機で交易を成功させて――
 きっちりと利益を生み出す。

 そして、稼いだお金を軍資金にして、さらなる事業の拡大を図っていきたい。

 



 

 船は交易船として運用する予定なので、船の腹の片方を開閉式にして、荷運びをしやすいようにした。

 この船は元々、三本マストの大型帆船だった。
 マストは風を受けやすいように、そのままにしてある。


 自然の風を利用して推進力にすることは想定して無いが、風を魔力に分解して利用する予定なので、魔法陣を描けて風を受けやすい帆は利用価値がある。
 
 船を陸上で安定させるために、補助輪のような固定具を取り付けてある。
 

 船を空に浮かび上がらせるのは『浮遊石』を使う。

 反重力の魔石は、重さが無くなるデメリットが大きすぎて使うのが怖い。魔力消費も大きいので、使用は断念した。

 重さが無ければ、少ないエネルギーで移動できるようになる。
 メリットが大きいように思うが、強風に煽られれば制御不能になるデメリットも大きい。

 糸の切れた凧を思い浮かべて貰えれば分かるだろう。

 空中で船体を安定させる為にも、重量は欲しい。
 

 


 船を動かすための魔力は、風と水と光を魔法陣で魔力へと変換して、それを貯蓄用の魔石に貯めて利用する。

 魔法陣は、僕が船体に刻印している。

 魔法陣をイメージしてそれを船体の要所に、魔力で焼き印のように押し付けていくだけなので、慣れれば一つの魔法陣につき数秒で出来る。

 刻印する数が多いので、手間はかかった。


 魔法陣が作り出した魔力は、船に刻印した魔力誘導線で、無属性の貯蓄用魔石へと誘導し貯めておく。


 改造を続けていくうちに、この船自体が巨大な魔法陣のようになっていく。




 シャリーシャは、ここに初めて来た。
 この船も初めて見る。

 彼女は船を見るや否や、内部に入り船内をパトロールする。

 危険がないかを、念入りに確認している。
 彼女は好奇心と警戒心が強いのだ。


 案内する僕よりも先を歩こうとするので、何度か迷子になりかけた。

 迷子になったら大変だ。
 僕は彼女の手を握って、歩くことにした。
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