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ゴブリンの巣穴

第58話 僕たちは、名前で呼び合った。 B

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 現実世界で目を覚ました僕は、学校へ行き、昼休みに冷泉から呼び出された。
 
 彼女は自分が紹介した人と、僕が上手くやれているか、気になっていたようだ。


「どうだった? 心愛さんとは、上手く行ってる? 気さくな、お姉さんだから、大丈夫だとは思うけど……」

「あっ、うん、ココアさんとは────その、大丈夫。上手く行ってるよ。……けど、その……もう一人の人とは、ちょっと、その────」

 あの人とは、馬が合わなかった。

 それを、紹介してくれた冷泉には言いにくい……。



「ああ、心愛さんのクラスメイトの……、私はその人と、会ったことないんだけど、……駄目だった?」

 冷泉が心配そうに聞いてくる。


「うん、戦闘中に、逃げちゃって……」

「えっ? そうなの! なんか、ごめんね……」

 ────申し訳なさそうな顔で、謝られた。

 彼女に悲しい顔をさせておきたくなくて、僕は強引に話題を変える。



「でも! 心愛さんとは、上手く行ってるから」

「えっ、ふーん……、……、ところでさ、田中は心愛さんの事……もう、名前呼び、なんだ……?」

 …………あれ?

「えっ? あっ、うん。そう呼んでって、言われて……」

 よく分からないが、冷泉は若干、怒っているようだ。


「へぇー、そうなんだ。じゃあさ、私の事も『レイリ』って、名前で呼んで────私も田中の事、『ジロー』って呼ぶから」

 唐突に、そんな提案をしてきた。



「えっと、でも、教室の中だと……」

 きっと嫉妬した男から、睨まれてしまうだろう。


「じゃあ、二人きりの時だけ、名前で呼ぶようにしよう。────よし、決定!!」

「あっ、うん、……わかった」

 僕の承諾前に、すでに決定されていた。

 反対は出来ない。


 反対する理由もないが……。



 ────二人だけの時なら、良いだろう。


「それにしても、酷い人を紹介しちゃって、ごめんね。ジロー」

 冷泉は早速、僕の事を名前で呼んできた。

 ……ああ、そうだ。
 僕も『怜悧』と、呼び方を代えなければ……。


「その、レイリは悪くないよ。荷物持ちでも良いからって、そう言ったのは、僕だし……」

 寺下さんは荷物持ちとしても、役には立たなかったが……。


 ……ああっ、そういえば!!

 僕は彼に関して、懸念していることがあったんだ。
 ここで名前が出るまで、すっかり、あの人の事を忘れていた。



「ただ、『パーティから追放された』あの人が、これから事ある毎に『もう遅い』とか言いながら、復讐しにくるんじゃないかって、心配ではある。……気を付けないと」

 きっと、パーティから追放された寺下さんは──
 リベンジに燃えていることだろう。


 超絶パワーアップして、再登場するかもしれない。


「復讐って……、えっと、よく分からないけれど……その人は、ジローから追放されたんじゃなくて、自分から出て行ったんでしょ? ────だったら、平気なんじゃない?」


 ……そうか!

 怜悧の言う通りだ。

 そう言われると、大丈夫な気がしてきた。


 寺下さんは自分の意思で、出て行ったのだ。

 彼は『追放されたキャラ』ではない。


 僕を恨んで復讐しようとしても、プロットが彼に味方することはないだろう。
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