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続・追放された聖女の物語
第81話 悪夢 B
しおりを挟むレトナーク平原の決戦は、リーズラグドの圧勝だった。
決戦で勝敗が明確についた以上は、チャルズコート側の上層部も敗北を受け入れて、リーズラグド側も寛大な条件を出し、講和に入った。
戦争の原因である『聖女暗殺事件』の黒幕はチャルズコートの最高司祭チェルズスカルの仕業であったと公表されて、チェルズスカルは市中引き回しのうえで、公開処刑された。
俺を追放した絶対権力者の哀れな末路を聞いて、胸の透く様な、けれど、心が空しく寂しいような、そんな複雑な心持になった。
その後、チャルズコートはリーズラグド連合軍に参加した各国に賠償金を支払い、それでこの騒動は手打ちとなり、戦争参加国は関係の正常化を進めている。
一時はこの敗戦で国が傾くと言われていたが、一年前に新たな聖女が発見されて、この国は再び持ち直してきている。
聖女と聞くと、俺の胸は痛んだ。
――いや、もう過去のことだ。
俺の出身国のピレンゾルは、チャルズコート側で参戦していた為、賠償金の恩恵には預かれずに、無駄に出費を重ねただけに終わった。
しかも国王に即位したばかりの、ピレール陛下が自ら前線で戦い、あっけなく『戦死』したらしい。
その影響で後継者争いの内乱が勃発し、一年後には国家そのものが空中分解して、今では複数の勢力が、それぞれの支配地域を治める小国家群に成り下がっている。
年中争いが絶えずに、常に小競り合いをくり返す地域と化して、魔物の出現も頻発するようになったそうだ。
時期にあの辺りは、人の住めぬ土地になるかもしれないと言われている。
すでに故郷を捨てた俺には関係のない話だが、それでも無性に寂しさ感じる。
俺はこの村での暮らしに、満足している。
このままここに定住して、根を下ろしてもいいと思っている。
俺の剣術道場にも門下生が増えたし、村長の娘を嫁にと打診されてもいる。
俺はこのままこの村で、平凡で退屈な人生を送ることになるだろう。
だが、しかし――
懸念が無いわけではない。
俺はその懸念があるから、村長の娘との結婚を躊躇っている。
半年前から、おかしな夢を見る。
月に二度の割合で、あの夢を――
夢の中で、ある美しい女に誘惑される。
俺はいつもその誘惑に負けて、そいつを貪る。
一晩中、夢の中で――
理性を失い、女を求め続ける。
そして、明け方――
俺が目を覚ます寸前に、夢の中のその女の顔がハエになっているのだ。
あの悪魔、ベルゼブブのように――
俺は絶叫して、目を覚ます。
目を覚ました時には、眠ったにもかかわらず、酷く疲れている。
まるで、生命力をごっそりと抜き取られたように……。
この悪夢を定期的に見ているせいで、俺は所帯を持つ決心が出来ずにいる。
そして、俺のその懸念は、最悪の形で現れる。
例の悪夢を見た朝、目覚めたら老人の姿になっていた。
そして目の前に――
いつも夢の中で現れる、例のハエ頭の女が立っていた。
「これでようやく、戦力が揃ったわ。これだけあれば『聖女』を殺せる。――私を差し置いて、聖女に選ばれた不届き者に、裁きを与えられるわ。うふふふふっ。楽しみだわ。――当然あなたも、協力するのよ? 付いてきなさい。シュドナイ」
そいつは、俺の本名を口にした。
もしかして、とは思っていた。
だが、信じたくは無かった。
けれどもう、認めないわけにはいかない。
いつも夢に出てきた、目の前のそれは――
悪魔となったローゼリアだった。
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