聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう

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レトナーク平原の決戦

第79話 逃走 A

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 チャルズコート連合軍の総司令部。

 夜明け前で、辺りはまだ暗い。
 かがり火がいくつも焚かれている中で、最後の軍議が行われている。


 隣の席に、お飾りの将軍は一応いるが――
 十五万にも及ぶ大軍の事実上のトップは、中央神殿の最高司祭であるこの私だ。


 軍議と言っても、今から新しく決めることなど何もない。
 やることはもう決まっている。

 大軍で敵を包囲して、殲滅する。
 これだけだ。

 後は現場の指揮官に任せるだけ――

「勝ちの決まっている戦だ。各々存分に武功を上げよ!!」

「おおっ!!!」

 私の激励に、それぞれ一万以上の大軍を率いる将が、鬨の声を上げて答えた。





 私は専用のテントの前で、椅子に腰を下ろす。
 山頂の本陣から前方を見渡すと、東の山にもかがり火の灯りが見える。


 我らの陣取るこの西の山と、敵軍のいる東の山、その中央に広がる平原を我が軍が前進する。

 敵に動きは無く、山に籠り待ち構えている。

 それならば、遠慮なく包囲して殲滅するまでだ。
 しぶとく耐えたとしても、兵糧攻めにすれば終わりだ。




 日が昇ればここからでも、向かいの山の戦況を見渡せるようになるだろう。

 私はこの高みから、戦況を見て部隊を指揮することになる。
 そばには軍師が控えているが、この者の出番はないであろう。


 敵国の王子アレスは、騎馬隊を用いた姑息な奇襲を得意とするようだが、この私のいる司令部は山の頂にある。奇策を用いて付け入る隙などない。


 私が直接戦うことは無いが、鎧を着込んでいる。
 立場上、格好をつけておかねばならないが、重いので早く脱ぎたい。

「まあ早ければ、今日中に決着がつく」

 それまでの辛抱だ。
 
 朝日が昇る。
 我が軍の威容が日に照らされて、輝いて見える。

 目標はリーズラグド連合軍。

 我が軍は数が多いだけではなく、精強な兵士も揃えている。
 烏合の衆など、軽く蹴散らしてくれる。





 敵軍は自陣から出ずに待ち構えて、こちらを迎撃している。
 予想された展開だ。


「臆病者どもめ」

 私がそう呟くと、側に控えていた軍師が――

「兵数に差がありますからな。まず我が軍の敗北は無いでしょうが、油断は禁物ですぞ」

 などと、頼んでもいない解説と忠告をしてくる。
 余計なお世話だ。

 お前に話しかけたのではないわ!!



「敵軍の王子アレスは武勇に優れ、知略に長ける人物と聞きます。幼少の頃より兵を率いて魔物と戦い、内乱を収めた経験は侮れません」

 ふん、バカバカしい!!

 どれだけ武勇に優れようが、一人で何が出来る。
 奴が用いるという騎馬隊も、それほど大規模なものでは無いだろう。

 騎馬隊で狙うとして、どこを狙う?
 中央軍の背後か?
 
 確かに打撃を与えられるだろうが、その後ろには後詰の三万の兵が控えているのだ。挟み撃ちに遭い、囲まれて殲滅されるのがオチだ。

 では、私の首を狙うか?

 私が居るのは、山の山頂だ。
 騎馬隊では奇襲のしようがない。

 この山の入り口には、一万の兵が布陣している。
 さらに山の周囲の要所にも、見張りは配置済みだ。
 
 万が一にも不覚を取られぬように、手は打ってある。
 
 敵の情報は入手済みだ。
 対策は万全を期している。

 この私に手抜かりは無い。




 この戦いの勝敗など、始める前から決まっているのだ。
 それよりも、私の気がかりはローゼリアだ。

 突然、姿を消してしまった。
 どうやって牢から出たのか、どこへ行ったのか、いまだに分かっていない。


 リーズラグドを占領した暁には、新国王となる私の正妻として迎える約束をしていたというのに――

 私の前から姿を消した……。



 もしや、あのアレスとかいう男の元へと、戻ったのではあるまいな。

 だとすれば、許さぬぞ!! 
 敵将アレスよ。

 殺すだけでは飽き足らん!!
 早く殺してくれと、泣き叫ぶような目に遭わせてくれる。


 例え奴の元にいなくとも、何かしらの手がかりや、行先に心当たりはあるはずだ。
 生け捕りにして、拷問して吐かせねばなるまい。





 私がそんなことを考えていると、戦場にある変化が起こった。

 全軍の中心、中央軍の前線。


 そこで人が宙を舞っている。
 次々に兵士が弾き飛ばされるように、吹き飛んでいる。

 私は詳細を確かめるために、双眼鏡を覗き込んだ。


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