113 / 126
レトナーク平原の決戦
第79話 逃走 A
しおりを挟む
チャルズコート連合軍の総司令部。
夜明け前で、辺りはまだ暗い。
かがり火がいくつも焚かれている中で、最後の軍議が行われている。
隣の席に、お飾りの将軍は一応いるが――
十五万にも及ぶ大軍の事実上のトップは、中央神殿の最高司祭であるこの私だ。
軍議と言っても、今から新しく決めることなど何もない。
やることはもう決まっている。
大軍で敵を包囲して、殲滅する。
これだけだ。
後は現場の指揮官に任せるだけ――
「勝ちの決まっている戦だ。各々存分に武功を上げよ!!」
「おおっ!!!」
私の激励に、それぞれ一万以上の大軍を率いる将が、鬨の声を上げて答えた。
私は専用のテントの前で、椅子に腰を下ろす。
山頂の本陣から前方を見渡すと、東の山にもかがり火の灯りが見える。
我らの陣取るこの西の山と、敵軍のいる東の山、その中央に広がる平原を我が軍が前進する。
敵に動きは無く、山に籠り待ち構えている。
それならば、遠慮なく包囲して殲滅するまでだ。
しぶとく耐えたとしても、兵糧攻めにすれば終わりだ。
日が昇ればここからでも、向かいの山の戦況を見渡せるようになるだろう。
私はこの高みから、戦況を見て部隊を指揮することになる。
そばには軍師が控えているが、この者の出番はないであろう。
敵国の王子アレスは、騎馬隊を用いた姑息な奇襲を得意とするようだが、この私のいる司令部は山の頂にある。奇策を用いて付け入る隙などない。
私が直接戦うことは無いが、鎧を着込んでいる。
立場上、格好をつけておかねばならないが、重いので早く脱ぎたい。
「まあ早ければ、今日中に決着がつく」
それまでの辛抱だ。
朝日が昇る。
我が軍の威容が日に照らされて、輝いて見える。
目標はリーズラグド連合軍。
我が軍は数が多いだけではなく、精強な兵士も揃えている。
烏合の衆など、軽く蹴散らしてくれる。
敵軍は自陣から出ずに待ち構えて、こちらを迎撃している。
予想された展開だ。
「臆病者どもめ」
私がそう呟くと、側に控えていた軍師が――
「兵数に差がありますからな。まず我が軍の敗北は無いでしょうが、油断は禁物ですぞ」
などと、頼んでもいない解説と忠告をしてくる。
余計なお世話だ。
お前に話しかけたのではないわ!!
「敵軍の王子アレスは武勇に優れ、知略に長ける人物と聞きます。幼少の頃より兵を率いて魔物と戦い、内乱を収めた経験は侮れません」
ふん、バカバカしい!!
どれだけ武勇に優れようが、一人で何が出来る。
奴が用いるという騎馬隊も、それほど大規模なものでは無いだろう。
騎馬隊で狙うとして、どこを狙う?
中央軍の背後か?
確かに打撃を与えられるだろうが、その後ろには後詰の三万の兵が控えているのだ。挟み撃ちに遭い、囲まれて殲滅されるのがオチだ。
では、私の首を狙うか?
私が居るのは、山の山頂だ。
騎馬隊では奇襲のしようがない。
この山の入り口には、一万の兵が布陣している。
さらに山の周囲の要所にも、見張りは配置済みだ。
万が一にも不覚を取られぬように、手は打ってある。
敵の情報は入手済みだ。
対策は万全を期している。
この私に手抜かりは無い。
この戦いの勝敗など、始める前から決まっているのだ。
それよりも、私の気がかりはローゼリアだ。
突然、姿を消してしまった。
どうやって牢から出たのか、どこへ行ったのか、いまだに分かっていない。
リーズラグドを占領した暁には、新国王となる私の正妻として迎える約束をしていたというのに――
私の前から姿を消した……。
もしや、あのアレスとかいう男の元へと、戻ったのではあるまいな。
だとすれば、許さぬぞ!!
敵将アレスよ。
殺すだけでは飽き足らん!!
早く殺してくれと、泣き叫ぶような目に遭わせてくれる。
例え奴の元にいなくとも、何かしらの手がかりや、行先に心当たりはあるはずだ。
生け捕りにして、拷問して吐かせねばなるまい。
私がそんなことを考えていると、戦場にある変化が起こった。
全軍の中心、中央軍の前線。
そこで人が宙を舞っている。
次々に兵士が弾き飛ばされるように、吹き飛んでいる。
私は詳細を確かめるために、双眼鏡を覗き込んだ。
夜明け前で、辺りはまだ暗い。
かがり火がいくつも焚かれている中で、最後の軍議が行われている。
隣の席に、お飾りの将軍は一応いるが――
十五万にも及ぶ大軍の事実上のトップは、中央神殿の最高司祭であるこの私だ。
軍議と言っても、今から新しく決めることなど何もない。
やることはもう決まっている。
大軍で敵を包囲して、殲滅する。
これだけだ。
後は現場の指揮官に任せるだけ――
「勝ちの決まっている戦だ。各々存分に武功を上げよ!!」
「おおっ!!!」
私の激励に、それぞれ一万以上の大軍を率いる将が、鬨の声を上げて答えた。
私は専用のテントの前で、椅子に腰を下ろす。
山頂の本陣から前方を見渡すと、東の山にもかがり火の灯りが見える。
我らの陣取るこの西の山と、敵軍のいる東の山、その中央に広がる平原を我が軍が前進する。
敵に動きは無く、山に籠り待ち構えている。
それならば、遠慮なく包囲して殲滅するまでだ。
しぶとく耐えたとしても、兵糧攻めにすれば終わりだ。
日が昇ればここからでも、向かいの山の戦況を見渡せるようになるだろう。
私はこの高みから、戦況を見て部隊を指揮することになる。
そばには軍師が控えているが、この者の出番はないであろう。
敵国の王子アレスは、騎馬隊を用いた姑息な奇襲を得意とするようだが、この私のいる司令部は山の頂にある。奇策を用いて付け入る隙などない。
私が直接戦うことは無いが、鎧を着込んでいる。
立場上、格好をつけておかねばならないが、重いので早く脱ぎたい。
「まあ早ければ、今日中に決着がつく」
それまでの辛抱だ。
朝日が昇る。
我が軍の威容が日に照らされて、輝いて見える。
目標はリーズラグド連合軍。
我が軍は数が多いだけではなく、精強な兵士も揃えている。
烏合の衆など、軽く蹴散らしてくれる。
敵軍は自陣から出ずに待ち構えて、こちらを迎撃している。
予想された展開だ。
「臆病者どもめ」
私がそう呟くと、側に控えていた軍師が――
「兵数に差がありますからな。まず我が軍の敗北は無いでしょうが、油断は禁物ですぞ」
などと、頼んでもいない解説と忠告をしてくる。
余計なお世話だ。
お前に話しかけたのではないわ!!
「敵軍の王子アレスは武勇に優れ、知略に長ける人物と聞きます。幼少の頃より兵を率いて魔物と戦い、内乱を収めた経験は侮れません」
ふん、バカバカしい!!
どれだけ武勇に優れようが、一人で何が出来る。
奴が用いるという騎馬隊も、それほど大規模なものでは無いだろう。
騎馬隊で狙うとして、どこを狙う?
中央軍の背後か?
確かに打撃を与えられるだろうが、その後ろには後詰の三万の兵が控えているのだ。挟み撃ちに遭い、囲まれて殲滅されるのがオチだ。
では、私の首を狙うか?
私が居るのは、山の山頂だ。
騎馬隊では奇襲のしようがない。
この山の入り口には、一万の兵が布陣している。
さらに山の周囲の要所にも、見張りは配置済みだ。
万が一にも不覚を取られぬように、手は打ってある。
敵の情報は入手済みだ。
対策は万全を期している。
この私に手抜かりは無い。
この戦いの勝敗など、始める前から決まっているのだ。
それよりも、私の気がかりはローゼリアだ。
突然、姿を消してしまった。
どうやって牢から出たのか、どこへ行ったのか、いまだに分かっていない。
リーズラグドを占領した暁には、新国王となる私の正妻として迎える約束をしていたというのに――
私の前から姿を消した……。
もしや、あのアレスとかいう男の元へと、戻ったのではあるまいな。
だとすれば、許さぬぞ!!
敵将アレスよ。
殺すだけでは飽き足らん!!
早く殺してくれと、泣き叫ぶような目に遭わせてくれる。
例え奴の元にいなくとも、何かしらの手がかりや、行先に心当たりはあるはずだ。
生け捕りにして、拷問して吐かせねばなるまい。
私がそんなことを考えていると、戦場にある変化が起こった。
全軍の中心、中央軍の前線。
そこで人が宙を舞っている。
次々に兵士が弾き飛ばされるように、吹き飛んでいる。
私は詳細を確かめるために、双眼鏡を覗き込んだ。
2
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる