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レトナーク平原の決戦

第78話 開戦 B

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 騒がしい戦場の喧騒が、時が一瞬止まったように――
 周囲から消えた。


 敵兵もあまりの出来事に、暫し呆然としていた。
 しかし、それも数秒のこと――


 我に返った敵の指揮官が、攻撃命令を出す。
 命令を受けて反射的に動き出した敵兵が、襲い掛かって来た。
 
 前後左右から、一斉に剣と槍で攻撃される。

 しかし、邪竜王の鱗で作った防具は、その全てを防いでくれた。
 攻撃を通さない。

 打撃の衝撃は伝わってくるが、微々たるものだ。


 俺は攻撃のお返しに、剣を振るって敵を斬る。

 一振りで二、三人が一度に宙を舞う。





 敵軍は西から東へと押し寄せてくる。

 中央の布陣は、主力の三万の部隊、その左右にいるそれぞれ二万の部隊が、リーズラグド連合の中央軍を包囲するように押し寄せる。

 北方向の山のケンドリッジとルーズベリルの陣地には、敵の二万と一万の部隊が攻め、南のダルフォルネとゾポンドートの陣には、こちらも二万と一万の敵軍が迫る。

 その南の中小国家の連合軍の陣には、敵の一万の軍が抑えに入って、身動きの取れない様にしている。

 現在戦闘中の敵軍は十一万。

 これだけでもこちらより数が多い上に、敵軍は後方に予備軍として四万の兵を温存している。



 前世で見たラグビーの試合を思い出す。
 この中央と北と南で、それぞれの部隊がスクラムを組んで押し合いをしている様なものだ。

 押し合いに勝って相手の陣形を崩し、敵を突き破るのが当面の目標だ。




 俺はただ一人で敵軍の中に飛び込んで、周囲にいた敵を片っ端から蹴散す、敵の腕やら首やら上半身が宙を舞う。いつのまにか、敵で埋め尽くされていたこの場所に、ぽっかりと無人の空間が出来ていた。


 周囲の敵は気圧されて、迂闊に攻撃してこなくなった。
 後ろの敵には構わずに、歩いて西へと前進を開始する。


 敵軍は向かっては来ないが、引き下がりもしない。

 敵の中から強そうなのが何人か現れる。


 俺はそれを剣で、片っ端から斬り飛ばしていった。
 俺の進む先では、敵兵が弾かれたように宙を舞う。







 山麓ではリーズラグド連合軍が、押し寄せる敵の猛攻を受けている。
 前線の兵士たちは構築した防御陣地で、持ち堪えていた。


 押し寄せる敵の様子に変化が現れる。
 どこか浮足立ってきた。

 俺が敵軍に入り込み暴れた影響が、最前線にも及んだようだ。


 盾を構えて密集する敵陣に突進すると、数名の敵がまるでボーリングのピンのように吹き飛ぶ。

 それを目印に、後方の味方の部隊も動き出した。
 攻め寄せる敵軍を押し返して、前進を開始した。





 この決戦は、全ての戦場で敵軍の方が多い。
 有利な地形と防御陣地で持ち堪えているが、押し寄せてくる敵の方が勢いがある。

 ただ一点。
 中央の戦場の一部だけ、リーズラグド連合軍が押し返している


 俺は部隊の先頭に立ち、錐もみで穴をあけるように包囲する敵軍を抉っていく――
 俺が開けた穴を、後ろから追従する味方の部隊が拡大していく。


 俺は部隊の先頭に立って、味方の前進に合わせて進撃を続ける。






 決戦が始まったのは、この日の早朝――

 太陽が真上に輝く頃に、俺は一番分厚かった敵軍の中央を抜いた。
 視界が開けて、広大な平原が見渡せるようになる。




 西からこちらに向かってくる、敵の騎馬隊が見えた。

 数は千騎。

 
 前衛を抜いたこちらの出鼻を挫くのが目的だろう。
 あれが襲い掛かってくれば、この周囲で混乱している敵兵も巻き添えを喰らうだろうが、お構いなしに突っ込んでくる。



 
 敵の後詰、三万の部隊。
 包囲の穴を塞ぐように、部隊を展開して待ち構えている。
 
 ――あれをまた、抜かなければならない。
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