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レトナーク平原の決戦

第78話 開戦 A

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 ここは、レトナーク平原。
 リーズラグド寄りに位置する、小高い山の頂上。


 俺はリーズラグド連合軍の本陣から、景色を見渡した。

 この山から北方向の山にケンドリッジとルーズベリル軍が陣地を構築し駐留している。南の山にはダルフォルネとゾポンドート、さらに南の山に、こちら側で参加してくれた中小国家の軍隊が陣地を構築し、敵を待ち構えている。




 目の前に広がる平原を挟んだ向かい側――

 ここから西方向にも山がいくつかあり、そこにチャルズコート連合軍の面々が駐屯している。

 向こうも陣地を構築し、こっちが攻め込むことを待っている。

 敵に攻め込ませた方が有利に戦えるので、お互い相手を待ち構えていて、睨み合っている状態だ。


 この睨み合いは、恐らくこちらが勝つだろう。
 敵はこちらよりも数が多い為、食料の消費も増える。
 
 ここはレトナーク平原の中でもリーズラグド寄りの場所で、敵の方がこちらよりも補給線が長い。

 敵にこれ以上動きが無ければ、騎馬隊を率いて後方を脅かしてやるところだが、敵もそれは分かっている。

 このまま、睨み合いを続けると不利になる。
 ――となれば、攻めてくるだろう。


 敵はこちらよりも数が多い。
 多少不利でも構わずに、強気で攻めてくるはずだ。 





 時刻は、夜明け前。
 少し肌寒く、僅かに霧が立ち込めている。

「動いたな……」

 離れていても気配でわかる。
 敵は十万を超える大軍だ。
 
 そいつらがこちらに、向かって来ている。

 



 斥候が敵を補足して、報せを届ける。
 敵の動きを察知した、約三万の兵が戦闘準備を始めている。

 山頂にあるリーズラグド連合中央軍の本陣にも報告が入る。


 山頂の本陣には、千の兵士が駐留。
 残りは山の中腹から裾にかけて陣地を構築し、敵が動くのを待っていた。

 俺は鎧を着込んで、本陣から出る。
 敵が攻めてきた場合の対処は、事前に共有してある。

 総司令官の将軍に一声かけてから、目的の場所に移動する。





 これからチャルズコートとの決戦が始まり、雌雄を決することになる。

 戦前の勝敗予想では、圧倒的にチャルズコートの勝利を予想する者が多いだろう。


 十五万対八万三千だ。
 兵数に約二倍の開きがある。

 こっちが勝つとは誰も思わない。

 例えば、サッカーという競技を、十一人対六人で行ったとしよう。
 どちらが勝つかと聞かれれば、誰もが十一人のチームが勝つと言うだろう。



 戦いは数で決まる。

 チャルズコートは事前に準備を重ねて、数を揃えている。
 こちらは完全に、出遅れてしまっていた。

 相手を上回るどころか、互角の兵数さえ用意できなかった。

 では、この少ない兵力で、どう戦うか?


 方針を決める作戦会議では、守りを固めて戦うという意見が大勢を占めた。
 それしかないだろう。




 数の多い敵軍が、こちらを包囲殲滅しようと迫って来る。
 このまま陣地に籠っていれば、有利な高所から押し寄せる敵を迎撃できる。

 多勢を相手に持ち堪えることは出来るだろうが、守ってばかりいても勝てない。
 数の多い敵に包囲されて、押し潰される。

 敵の攻撃を持ち堪えても、兵糧攻めをされれば終わりだ。


 敵の攻撃を受けるばかりではなく、押し返して逆に敵陣を突破しなければ勝てない。――それをするのが、俺の役割だ。

 転生特典は使い切っているが、これまでの戦いで積み重ねた戦闘経験がある。
 常人を遥かに超える戦闘能力で、暴れてやろう。






 全身を邪竜王の鱗で作った鎧で覆う。
 真っ黒なフルアーマー、右手には剣を、左手には大盾を装備している。

 防御重視の装備構成だ。
 その姿で山の中の、切り立った崖になっている場所まで来た。

 ここは天然の要塞になっていて、押し寄せる敵も簡単には上れない。
 味方の兵士は、ここから矢を射っている。


 敵も整列してこちらに矢を放っているが、やはり高所の方が有利だ。
 弓の撃ち合いでは、こちらに分がある。


 だが数の多い敵は、崖をよじ登り出した。

 すぐにここまで辿り着ける訳ではないし、犠牲も多く出るだろうが、いずれは上まで登られて、この陣地を占領されるだろう。

 何しろ数が多い。
 いつの間にか、崖の下は敵兵で埋め尽くされている。





 さて、やるか――
 俺は助走をつけて走り出し、そのまま勢いに任せて跳躍した。


 盾を構えた俺は、押し寄せる敵の真っただ中に、砲弾のごとく飛び込んだ。


 ドゴゥッオオオオオンンンンん!!!!!


 飛び込んだ俺と衝突した敵兵は、面白いように吹っ飛んだ。

 半径五メートルには、誰もいない。
 盾の下敷きになった敵は、ミンチになっている。


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