聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう

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追放された聖女の物語

第73話 悪魔へと至る道程 6 A

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 私たちは狙い通りに、聖女ローゼレミーを殺した。

 私が消耗させて聖女の力で回復する余力を奪ってから、ベルゼブブが隙を作り、シュドナイが止めを刺した。

 あのババアの胸に、剣を突き刺して確かに殺した。



 そう、聖女殺害には成功したのだが――

 私が再び、聖女の力を取り戻すことはなかった。
 




 そして私は、チャルズコートの中央神殿の牢屋に監禁されている。


「どういう……ことよ?」

 聖女選出には、タイムラグがある。
 聖女が死んでから、次の聖女が誕生するまで、時間が空くのはよくあることだ。

 それは、聞いている。

 だから、最高司祭のチェルズスカルも、まだ様子を見ている。
 ――まだ、殺されてはいない。

 それどころか、この部屋の調度品は高級品で揃えられているし、提供される料理も豪華なものだった。

 牢屋に入れられているといっても、扱いは悪くない。


 私が再び聖女となる可能性は、まだある。

 この美貌と身体を失うのは、惜しいというのもあるだろう。
 その証拠に、あの男は毎晩のように、ここを訪れる。

 当面の身の安全は保障されている、と考えていいだろう。





 聖女殺害の事実は、まだチャルズコートの上層部しか知らない。
 この事件をどう扱うのかで、揉めているそうだ。

 リーズラグドとの全面戦争を主張する勢力が半数――
 首謀者の王子アレスの首で、事を収めようという勢力が半数。

 病死という事で事を収めようという、臆病者もいたようだが少数派だ。



 私と接触する前からリーズラグドへ進行したがっていたチェルズスカルは、当然主戦派だ。自ら軍を率いて敵国を制圧すると息巻いている。

 チェルズスカルは聖女を早死にさせるために、用意していた策を変更した。
 大型モンスターを発生させて聖女の結界にぶつける、そのために発生させたモンスターの群れをリーズラグド方面へと誘導し、敵の力を削ぐ手筈を整えている。


 
 チャルズコートは、属国の数も多い。
 北の大国とも事前に話を付けて、援軍を派遣して貰う密約も取り付けてある。

 チェルズスカルの見立てでは、決戦時の両勢力の動員兵力には、二倍ほどの差が出るだろうと自慢していた。
 戦争は数の多いほうが勝つ。

 この兵力差なら、確実にリーズラグドに勝てるらしい。



 チェルズスカルは私を抱きしめながら、夢を語る。
 リーズラグドを占領し、新たなる王として君臨すると豪語し、自分が新国王となった暁には、私を王妃として迎え入れると言っている。


 そして、人質となっている(設定の)私の家族を解放し、皆で暮らそうと言ってきた。

「ありがとうございます。チェルズスカル様。ローゼリア、嬉しい!!」

 精一杯媚びまくって、好感度を上げておく。


 私は感動して、泣いているふりをしながら――
 両親を始末する計画を立てる。

 リーズラグドを占領してから調べられれば、私の家族が人質になどされていないことがバレるだろう(まだ生きていればだが)その前に口を封じる。

 そうだわ!
 シュドナイに始末させましょう。



 私はシュドナイと連絡を取りたいと、チェルズスカルにお願いした。

 するとチェルズスカルは、あからさまに不機嫌な顔をして――

「奴は、もうここにはいない。――この神殿から追い払った」

 そう言った。


 まさかもう、殺されているのか?
 あいつに死なれるのは困る。

 便利な手駒が、一つ減ってしまう。


 生きているのであれば、手元に戻したいが――
 けれどここで、チェルズスカルの機嫌を損ねる方が、損失は大きい……。


 瞬時にそう計算した私は、すかさず――

「そうですか、それは助かります。あの男は、しつこくて……正直困っておりましたの。追い払って下さり、感謝しておりますわ」

 私はそう言って、チェルズスカルの機嫌を取った。

 奴は満更でもなさそうな、得意げな顔で私をきつく抱きしめる。

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