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リーズラグドの叡智

第71話 無敵 A

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 俺はソフィを抱えて、宙を飛んでいる。

 大蛇に飲まれそうになっていた彼女を、抱きかかえて離脱。
 ――ギリギリだが、間に合った。

 ソフィが魔物を退治しに、国境の壁の外へと単身向かったと聞いて、鎧も着けずに剣だけ持って、駆けつけた甲斐があった。

 着地と同時に襲い来る大蛇たちを、片腕で剣を振るって両断する。
 
 俺がソフィに無事を確認すると、短く『はい』とだけ言って、俺の胸に顔を押し付ける。それから、『無茶をして、ごめんなさい』と小さく謝った。


「確かに無茶だったけど、間違ってはないさ。神様から特別な力を授かった者は、その力を、誰かを守るために使うべきだと――俺も思うよ」

 ソフィは皆を、守ろうとしたんだろ?
 俺がそう言うと――


「でも、失敗しました――」

 と言って、少し落ち込んでいた。
 俺は彼女に――

「誰だって失敗はするよ。正解ばかりを選べる人間なんていないんだ。失敗したと思ったら、次からは気を付ければいい。それに、ソフィには失敗してもフォローしてくれる人が周りに沢山いる。――俺も、こうして駆けつけた」

 慰めだか、励ましだか、わからない言葉をかける。
 でも、それで彼女は少し、元気を取り戻したようで――


「そう、ですね。戦いは性に合わないと解りました。一つ賢くなれた気がします。――もう、戦場はこりごりです」

 俺を見て、そう言って笑い――
 

「――ですが、あれは倒さないと、いけません」

 少し表情を引き締めて、俺たちの先にいる、巨大なモンスターを見て言った。

 下半身と髪の毛が蛇で出来た、十メートルを超える巨体――

 メデゥーサ。

 広域魔物災害に指定される、大型モンスターだ。

「一度決めたこと、だからな」
「……はい」

「俺たち二人で、やっつけよう」
「……はいっ!!」

 俺はソフィと話しながらも、迫りくる大蛇たちを、剣で斬り殺していく。


 俺は一旦彼女を地面に下ろして、蛇の迎撃に専念している。


 蛇の群れは――
 森の暗がりから狙いを定めて、飛びかかって来る。
 
 一匹を囮にして、時間差で別の個体が死角を狙ってきたり、一斉に襲い掛かってきたりと、蛇なりに工夫を凝らしてくるが、俺はその全てを、蹴散らしていく。


 暫くそうして敵の数を減らしていると、敵の攻撃が止んだ。
 まだ数は随分、残っているはずだが――


 俺が訝しんでいると、離れた場所から嫌な視線を感じる。
 恐らくはメデゥーサが使うという、石化の呪い。


 ソフィを抱えて、急いでここを離れようとするが――

「任せて下さい!!」
 
 と彼女が言ったので、任せることにする。


 人を石へと変える、呪いの力。
 それは俺へと届く前に、反射するように跳ね返されて――

 離れたところにいた大蛇が数匹、石に変わっている。






 メデゥーサの恐ろしさは、その巨体ではない。
 真に恐ろしいのは、その瞳に宿る呪いの力だ。

 見た者を石に変える、呪いの能力――
 その力はメデゥーサ本体だけではなく、眷族の大蛇たちも有しているようだった。
 

 ――強力な力だ。
 この世界の力には、代償がつきまとう。

 使用回数に制限があったり、発動に時間がかかったりするのだろう。

 どんな制約があるかは、わからないが――
 無制限に行使できるような能力ではないはずだ。



 蛇の群れは、俺に近づいても斬り殺されるだけだと学習したようで、遠距離から石化の呪いを使用した。

 奴らにとっては、切り札だろう。
 
 しかし、その攻撃をソフィが跳ね返している。
 遠くに石像の群れが、出来上がる。


 ソフィの能力は、悪意のあるあらゆる攻撃を跳ね返す。

 それは毒などを飲まされた場合でも発動し、自分の体内の毒をそのまま、相手に転移させてしまえる。

 呪いによる攻撃も同様だ。




 だが、相応のエネルギーも使う。 

「――無理はしなくていいぞ」

 俺が側についているんだ。

 おそらく、あの蛇の呪いよりも、邪竜王の呪いの方が強い。
 ――何とかなる気がする。


「大丈夫です。呪いを跳ね返すのは、そんなに疲れませんから……それに、こうしてアレス様の側にいると、力が湧いてくるんです。私はたぶん、無敵です」

 ソフィはそう言ってから、顔を伏せる。
 ――ちょっと照れているのか?



 まあいい――

 本人が大丈夫というなら、信じよう。
 二人で倒すと、約束したしな。


 蛇の群れは、向かって来て斬り殺されるか、遠くで石になるかだ。
 俺達に敵う奴は、いなかった。





 薄暗い、森の中――
 俺の背後からソフィを狙って、巨大な腕が伸びてきた。

 メデゥーサの攻撃だ。

 あれだけの巨体にもかかわらず、気配を消して森を移動し――
 俺の背後を取った。

 蛇の魔物だけに、隠密行動は得意なようだ。




 俺はソフィを抱きかかえて、その攻撃を躱し――
 走って逃げる。


 地面を蹴り跳躍し、太い木の幹を蹴って、森の中を駆け巡る。

 メドゥーサは、俺達を追いかけてくる。


 敵の残党も、ここぞとばかりに攻撃に参加してきた。
 四方から木を縫うように迫る蛇を、剣で迎撃しながら森の中を走る。

 メデゥーサの攻撃を躱しながら、森を走り――
 襲い来る蛇を、返り討ちにする。  




 俺は森を走り、メデゥーサから逃げながら――
 メデゥーサ以外の敵を、殲滅した。

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