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リーズラグドの叡智

第68話 一秒先の未来 1 A

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 リーズラグド王都の郊外――

 とある町の寂れた教会に、三名の侵入者が現れる。

 その気配を察知した吾輩は、潜んでいた地下室から抜け穴を通って、地上へと脱出することにした。

 地下室から伸びる横穴を進み、縦穴の梯子を上って地上へ――
 地上の出口は祠になっていて、そこから出れば教会の裏の林に出られる。

 吾輩は扉を開けて祠を出ようとし、そこで一度立ち止まる。
 目の前を、敵の投げつけたクナイが通り過ぎた。



 続けて別方向から飛んでくるクナイを、扉を閉めて防ぐ。
 一拍時間を置き、勢いよく扉を開け林の中を走る。

 しつこく飛んでくるクナイを、走りながら剣で弾く。
 林の中の敵は、二人――

 男が一人に、女が一人。
 吾輩は敵との距離を詰め、一人ずつ順番に首を刎ねた。

 教会に入った敵は三人。
 男が二人に、女が一人――


 教会内の協力者は、もう殺されているだろう……。

 このまま逃げるか、三人の襲撃者を始末するか――
 暫し迷ってから、敵の数を減らすために殺しておくことにした。




 吾輩には、一秒先の未来が見える。
 クロノスという、神の加護だ。


 大方の人間にとって――
 そのような加護を授かったところで、何の意味もない。

 一秒先の未来など見えたところで、何の役にも立たない。

 あってもなくても変わらないような、役に立たない神の加護の一つだが、この吾輩が使うことで、無類の強さを発揮する最強の加護へと変わる。


 どのような力も、それを扱う者しだいで大きく化ける。
 
 大国チャルズコートの中央神殿の最高司祭様が、開催した武術大会がある。 
 その大会の剣術部門で、優勝した吾輩が――

 この『一秒先を見ることのできる』能力を得た。 
 ――吾輩は、無敵となった。





 手練れの暗殺者三人を同時に相手にして、負った傷は僅かに六つ。
 それもすべて、浅く入った掠り傷だ。

 切り傷から毒が入ったが、多少は耐性がある。
 敵が持っていた毒消しを見つけたので、それを服用する。


 ――さて、これからどうするか?

 潜伏していたこの場を、探り当てられたのは誤算だった。

 決行の日まで、この国の神殿の大司教の所で世話になるか――
 吾輩は王都へと、居を移すこととした。




「ここに来られるのは、マズいのだが……」

 この国の神殿を訪ねた吾輩に、大司教は不満そうな顔を隠さずにそう言った。
 言外に、早く出ていって欲しいと言っている。
 
「なに、仕事を終えれば、国へ帰るさ」


 吾輩は寝っ転びながら、適当に返事をする。

「人に見られては、困るのだが……」

 大司教はオドオドしながら、まだ俺を追い出そうとする。
 ――気の小さい奴め。

「大丈夫だ。そなたらと吾輩たちの繋がりを示す証拠は、ちゃんとここに持っている。吾輩が不覚を取ることが無ければ、バレはせんよ」

 吾輩はそう言いながら、胸元をポンポン叩いた。
 こいつらとのやり取りは、証拠として残してある。

「そ、そんなもの、まだ持っているのか? 不用心だろう。早く焼き捨てろ!!」

 大司教は大慌てで、証拠の隠滅を命令するが――
 吾輩がそれに、応じてやる理由は無い。

「そうもいかん、そなたらが我らを裏切らぬように、これは大切に持っておかねば――偽聖女を始末した後で、無事にこの国を出るまでは、これは大切に持っておく」
 

 

 その後も大司教が五月蠅く小言を言い続けるので、神殿を後にした。
 ――ゆっくり休めん。

 その代わり、偽聖女の居場所を聞き出してきた。
 なにも式典の日まで、待つこともない。


 今からでも、殺してしまえばいいのだ。

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