聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう

文字の大きさ
上 下
89 / 126
リーズラグドの叡智

第67話 悪役令嬢とお目付けメイド 4 A

しおりを挟む
 ソフィ様と正妻の座をかけた決闘を行うために、スザンヌにお茶会の準備を命じてから数日が経過しました。

 仕事の速いスザンヌですが、まだ準備が整っていません。


 ――珍しいですわね?

 私が訝しんで、探りを入れると――
 なんとお父様と、ソフィ様の会談が先行して行われていました。
 
 それで、私の方が後回しになっていたのですか、まあ、それでは仕方がありませんわね。楽しみは後に取っておくと致しましょう。

 ――ただ、お父様がソフィ様と何をお話になったのか、気になりますわ。

 お父様は野心に満ちた、危険なお方です。
 どのような思惑があるか、分かったものではありません。

 

 ――嫌な予感がします。
 私はスザンヌに、会談の内容を確認いたしました。

 すると――
 私の悪い予感は、的中してしまいました。

 なんとお父様は、我がルーズベリル領にソフィ様をお招きして、防衛戦争を戦った兵士たちを慰問して欲しいと、そう要請したというではないですか!!


 なんということでしょう――
 お父様は、ソフィ様を殺害なさるおつもりですわ!!




*************************




「ソフィ様……。わたくしのお父様は、ソフィ様を我が領地に誘い込んで、事故を装い、殺害するつもりなのですわ!!」

「なっ、ななっ……なんですって!!」




 ソフィ様をお招きしてのお茶会。
 リィクララ様が突然、可笑しなことを言い立てて――
 
 ソフィ様のお付きのメイドが、慌てふためいています。
 ノリのいい方ですね。
 
 ――いえ、そんな呑気なことを、考えている場合ではありません。


 私の認識が、甘かったようです。
 リィクララ様は悪役令嬢ごっこを、まだ続ける気です。

 娘を溺愛しているだけの公爵様を悪者に仕立てて、事実無根の『悪の陰謀』をでっち上げてしまいました。
 



 これは……。
 どういたしましょう?

 ここで私が慌てて、リィクララ様の戯言を否定してしまえば、本当に暗殺計画があるような印象を、相手方に与えてしまいます。
 
 ――かといって何も言わずにいると、公爵様の冤罪が確定してしまいます。



 まさか――
 このような事態を引き起こすとは、おのれ悪役令嬢!!
 

 私がもっときつく、尻を叩いてお諫めしていれば――
 悔やまれてなりませんが、今は反省よりも誤解を解く方が先です。





 しかし、私が姫様をお諫めする前に――

「――えっと、先日会談したルーズベルリ公爵様からは、微塵も悪意を感じませんでした。そのような計画をお持ちだとは、到底思えません。――リィクララ様の勘違いなのではないでしょうか?」

 ソフィ様がリィクララ様に、疑問を呈します。
 流石はソフィ様。
 
 彼女は、『リーズラグドの叡智』ローレイン様に匹敵する、頭脳の持ち主です。
 うちの姫様の戯言には、耳を貸しませんでした。



「勘違いなどではありませんわ!! お父様は狡猾なお人なのです。野心と野望を心の内に隠すことなど造作もありません。――お人よしのソフィ様が見抜けなかっただけですわ!!」

 戯言を相手にされなかったリィクララ様が、しつこく食い下がります。

 早くこの馬鹿を止めたいのですが、無理に止めると逆に怪しい状況です。
 ――私も暫く静観するしかないでしょう。



 それに、ソフィ様は聡明なお方――。

 このような証拠もない子供の戯言を、相手になどなさらないでしょう。


 そもそも公爵様は、リィクララ様をアレス様の側室に送り込む以上のことを、望んでなどいません。

 今回ソフィ様を領地にお招きしたのも、純粋に王家との関係強化の為です。



 
 次期王妃になられるソフィ様が慰問に来るとなれば、兵士たちも光栄に思うでしょうし、領民も喜びます。

 ソフィ様も公務を行うことで、次期王妃としての実績を積むことが出来ます。
 これはアレス様にとっても、プラスになる話です。


 さらに――
 ソフィ様に公務をして頂いて王家に借りを作り、そのお礼をすればアレス様も悪い気はしないでしょう。

 敢えて借りを作ることで、相手の懐に入りやすくなるわけです。
 

 貸しではなく借りを作り、関係を構築する。

 そんな政治手法を好む公爵様が――
 暗殺などという、博打に手を出すはずがありません。

 
 ――しかも、自分の領内で暗殺ですか?
 すぐに犯人と疑われるような手を打つなど、ありえないでしょう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...