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リーズラグドの叡智
第64話 悪役令嬢とお目付けメイド 1 A
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――リーズラグド王国。
わたくしの現在の住まいは、王都の王宮にある上級妃専用の個室。
時間は、昼下がりの午後――
私は優雅にお茶を嗜み、執務の疲れを癒しています。
「――それで、スザンヌ。何か変わったことは、あったかしら?」
スザンヌというのは、私の専用メイドですわ。
――そう、私『専用』に、特別に用意された人材ですの。
彼女は単なる、給仕ではありません。
西の大貴族『ルーズベリル家』の姫であり、近頃ではその優秀さから、『リーズラグドの叡智』と称される、この私へと情報を提供する。
――そんな重要な役割も、担っておりますの。
私のように、優秀で有能な令嬢は――
この休息の時間さえも利用して、情報の更新を致します。
世界は常に、動き続けていますからね。
わたくしはアレス王子の、将来の正妻として――
常に最新の情報を、頭に入れておく必要があるのですわ。
「――変わったことは、特には……ああ、そうです。ダルフォルネ領のソフィ様が近々王都にいらっしゃるそうですよ、リィクララ様。――なんでも神殿の大司教様に、直々に招かれたとかで……」
「……ブファ、グッ、――ッ、ゴホゴホッ……、なっ、な、な――」
スザンヌの報告に驚愕した私は、思わずむせて、せき込んでしまいました。
お茶が変なところに、入ってしまったのですわ。
「……ああ、姫様。そんなにせき込んで、――駄目ですよ。お茶はゆっくり優雅に嗜むものです。慌てて召し上がるから、そうなるのですよ」
この馬鹿メイドは、何を悠長な――
いえ……。
スザンヌは優秀過ぎる私に、お父様が付けたお目付け役でもあるのでしたわ。
このような重大情報を、報告しなかったのは……
わざと、ですわね。
聖女の加護の無くなったこの国では、人心は女神ガイア様から離れています。
大司教の所属するガイア派への寄進も、減少の一途をたどっていると聞き及んでいますわ。
代わりに寄進を伸ばしているのは、アレス様に加護をお与えくださった戦神様を崇める宗派――
集金能力の衰えたガイア派は、アレス様の婚約者のソフィ様を公衆の面前で吊るし上げて、憂さ晴らしをしたいのでしょう。
なんと、卑劣な――
あなた方のその下劣な計画はこの『リーズラグドの叡智』が、優雅に未然に防いで差し上げますわ。
…………別に。
ソフィ様がどうなろうと、私の知ったことではありませんが――
恋敵のことを、可哀そうとか思ったりしませんが――
でも……
中央政治を管理する、私がついて居ながら――
ソフィ様がそんな目に遭わされたとなれば、アレス様の私への評価が下がってしまうかもしれません。
――そうです、これは私の為ですわ。
「スザンヌ。今すぐにダルフォルネ領へと使いを出しなさい。この度の神殿の要請は、お断りするようにと……」
「――いえ、姫様。ソフィ様はすでに王都に向けて出発されていて、今日にも到着なさいます。そして、明日は国王ご夫妻にご挨拶に向かわれるはずです。――姫様ともお茶会の予定がありますので、準備を進めております」
「……聞いていませんわよ」
「言っておりませんでしたので――」
…………。
……お父様ですわね。
私が神殿の狙いを未然に、潰すことを予期して――
スザンヌに予め、口止めをしていたのでしょう。
ソフィ様が衆目の中で何か、失敗をやらかして評価が下がれば――
私をアレス様の正妻へと、押し上げる余地が生まれます。
アレス様の正妻になりたい私ですが、他人を卑劣な手段で蹴落としてまで、なりたいとは思いません――
それでは駄目なのです。
ソフィ様とは正々堂々と、勝負したいのですわ。
ですから――
大司教様の意地悪計画を、何とか止めたいのですが――
今からでは、予定の変更は難しいでしょうね。
わたくしの現在の住まいは、王都の王宮にある上級妃専用の個室。
時間は、昼下がりの午後――
私は優雅にお茶を嗜み、執務の疲れを癒しています。
「――それで、スザンヌ。何か変わったことは、あったかしら?」
スザンヌというのは、私の専用メイドですわ。
――そう、私『専用』に、特別に用意された人材ですの。
彼女は単なる、給仕ではありません。
西の大貴族『ルーズベリル家』の姫であり、近頃ではその優秀さから、『リーズラグドの叡智』と称される、この私へと情報を提供する。
――そんな重要な役割も、担っておりますの。
私のように、優秀で有能な令嬢は――
この休息の時間さえも利用して、情報の更新を致します。
世界は常に、動き続けていますからね。
わたくしはアレス王子の、将来の正妻として――
常に最新の情報を、頭に入れておく必要があるのですわ。
「――変わったことは、特には……ああ、そうです。ダルフォルネ領のソフィ様が近々王都にいらっしゃるそうですよ、リィクララ様。――なんでも神殿の大司教様に、直々に招かれたとかで……」
「……ブファ、グッ、――ッ、ゴホゴホッ……、なっ、な、な――」
スザンヌの報告に驚愕した私は、思わずむせて、せき込んでしまいました。
お茶が変なところに、入ってしまったのですわ。
「……ああ、姫様。そんなにせき込んで、――駄目ですよ。お茶はゆっくり優雅に嗜むものです。慌てて召し上がるから、そうなるのですよ」
この馬鹿メイドは、何を悠長な――
いえ……。
スザンヌは優秀過ぎる私に、お父様が付けたお目付け役でもあるのでしたわ。
このような重大情報を、報告しなかったのは……
わざと、ですわね。
聖女の加護の無くなったこの国では、人心は女神ガイア様から離れています。
大司教の所属するガイア派への寄進も、減少の一途をたどっていると聞き及んでいますわ。
代わりに寄進を伸ばしているのは、アレス様に加護をお与えくださった戦神様を崇める宗派――
集金能力の衰えたガイア派は、アレス様の婚約者のソフィ様を公衆の面前で吊るし上げて、憂さ晴らしをしたいのでしょう。
なんと、卑劣な――
あなた方のその下劣な計画はこの『リーズラグドの叡智』が、優雅に未然に防いで差し上げますわ。
…………別に。
ソフィ様がどうなろうと、私の知ったことではありませんが――
恋敵のことを、可哀そうとか思ったりしませんが――
でも……
中央政治を管理する、私がついて居ながら――
ソフィ様がそんな目に遭わされたとなれば、アレス様の私への評価が下がってしまうかもしれません。
――そうです、これは私の為ですわ。
「スザンヌ。今すぐにダルフォルネ領へと使いを出しなさい。この度の神殿の要請は、お断りするようにと……」
「――いえ、姫様。ソフィ様はすでに王都に向けて出発されていて、今日にも到着なさいます。そして、明日は国王ご夫妻にご挨拶に向かわれるはずです。――姫様ともお茶会の予定がありますので、準備を進めております」
「……聞いていませんわよ」
「言っておりませんでしたので――」
…………。
……お父様ですわね。
私が神殿の狙いを未然に、潰すことを予期して――
スザンヌに予め、口止めをしていたのでしょう。
ソフィ様が衆目の中で何か、失敗をやらかして評価が下がれば――
私をアレス様の正妻へと、押し上げる余地が生まれます。
アレス様の正妻になりたい私ですが、他人を卑劣な手段で蹴落としてまで、なりたいとは思いません――
それでは駄目なのです。
ソフィ様とは正々堂々と、勝負したいのですわ。
ですから――
大司教様の意地悪計画を、何とか止めたいのですが――
今からでは、予定の変更は難しいでしょうね。
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