聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう

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聖女暗殺事件

第63話 破滅へと至る道筋 3 A

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 外交交渉を取りまとめたアレス王子が、リーズラグドへと帰国。

 ――それから、数か月が経った。



 僕はローゼリアの陰に、怯えながら暮らしている。

 常に奴を意識しているわけではないが、無意識に心理的な警戒が続き、知らぬ間に少しずつ疲労が蓄積している。

 あの女の存在が、心にこびり付いている。
 得も言われぬ、憂鬱な日々を過ごす。



 そんな、ある日――
 西の大国チャルズコートから、使節団がやって来た。
 
 使者はリーズラグドへの、出兵の要請と共に――
 とある重大事件の、情報をもたらした。
 


 チャルズコートの聖女――
 『ローゼレミー』が殺害されたというのだ。

 犯人は、僕の悩みの種になっている――
 この国を追放された、元聖女ローゼリア。
 
 現在チャルズコートの大神殿が、聖女暗殺の実行犯として捕獲している、元聖女ローゼリアは、リーズラグド王子アレスの命を受けて、聖女ローゼレミーを殺害したと自供しているらしい。

 
 なんということだ!!

 あの女が、聖女様を……。

 前々から、何か仕出かすのではと思っていたが――
 とうとう、やってしまったか。


 聖女を殺害されたチャルズコートは、リーズラグドとの戦争に踏み切るつもりだ。
 着々と戦争準備を進めているらしい。

 そして、リーズラグドは、受けて立つべく――
 こちらも戦争の準備を進めている。

 どちらも、引く気はないらしい……。
 もはや、激突は避けられない情勢だ。

 ――とんでもないことになった。




 そして、チャルズコートの使者が、我が国に出した出兵要請――
 チャルズコートに味方して、自分たちと同時にリーズラグドへと、攻め入るように促しに来たのだ。

 我が国ピレンゾルと、チャルズコート……。

 国同士の力関係は、圧倒的にチャルズコートの方が上だ。
 上位国からの要請は、事実上の命令になる。

 この要請は、断れまい。
 



 僕は第一王子として、国の方針を決める会議に出席している。
 議題はチャルズコートからの要請に対し、どう対応するか――

 この国の実権は、事実上軍部が握っている。
 彼らはリーズラグドに攻め入るべしと主張する。
 
 西のチャルズコートとリーズラグドがぶつかれば、南は手薄になるだろう。
 その隙に攻撃してしまえというのが、彼らの主張だ。

 
 僕はお飾りで出席しているだけなので、発言権などない。
 ぼんやりと会議を見つめている。

 ぼんやりしながら、別のことを考えていた。
 




 ――ローゼリアが、聖女様を殺害した。
 アレス王子の命令で……。

 だが、彼女はアレス王子によって、国外追放されたはずだ。
 ……あの二人は、繋がっていたのか?

 いつから、どこで??

 いや……。
 ――最初からか!!


 そういえば、ローゼリアからの不審な手紙――
 今にして思えば、あれは疫病の発生を予告したものだったのか。

 僕の中で線と線が繋がり、一つの絵が出来上がっていく。


 ローゼリアがアレス王子の命令で、この国の娼婦を買収し――
 何らかの方法で、病を蔓延させていたのではないだろうか。

 今にして思えば奴は、疫病の発生源がどうのとか、やけに詳しく知っていたり、娼婦は冤罪だとか言って、病気の原因から僕の目を逸らそうとしていた。

 ――不自然だ。



 そうか!!
 僕の推測が正しければ……。

 アレス王子が娼婦を連れて、この国を出たのは――
 証拠の隠滅が、目的だったことになる。

 ……ありえる。

 娼婦を自分の側室にするなどという、突拍子もない奇行も――
 恐らくフェイクだろう。

 自らの犯行を覆い隠すための、カモフラージュだと考えれば得心がいく。



 すべては繋がった!
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