聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう

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聖女暗殺事件

第62話 破滅へと至る道筋 2 B

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 今回の視察団にも、複数のパートナーを連れてきている。

 よくそんなことが出来るなと驚いた。


 もちろん僕も、この国の第一王子だ。
 複数の女性を妾にして、その相手をしなければいけなくなるだろう。

 ――だがそれは、王子としての義務から『仕方なく』だ。
 彼のように自ら進んで、複数の女性に触れたいとは思わない。


 ステファ相手であれば、まだ我慢できると思うが、彼女以外の女性の肌に直接触り、抱くことを想像すると……

 はっきり言って、気持ちが悪い。

 性行為などというグロテスクなことを、進んでしたいとは欠片も思わない。

 それどころか、できるなら――
 全力で拒否したい。




 アレス王子――
 彼は恐らく『悪食』なのだろう。

 料理の食材でも、なぜそんなものを食べるのかと、疑問に思うような珍味を好む者がいる。アレス王子はそれなのだ。

 僕はそんなふうに、彼のことを捉えていた。







 外交交渉が終わり、アレス王子が国に帰る直前に――
 僕は自分の間違いに気づかされる。


 彼はなんと、スラム街にいる娼婦どもを保護して、自分の国に連れ帰ると言い出したそうだ。

 さらに、その薄汚い娼婦の内の一人を、自分の後宮に入れるつもりだそうだ。


 ――意味が解らない。

 奴らは、この国を震撼させていた、疫病の発生源なのだぞ。
 それが、専門家の見解だ。

 それでなくとも、娼婦というのは不特定の男と交わっていた奴だ。
 汚い、不浄、不潔、下賤、汚らわしいことこの上ない。


 だというのに――
 
 そいつらを国に連れて行く?
 自分の側室として、後宮に――?

 どういうつもりなのだろう?

 病気が怖くは無いのか?
 汚いとは思わないのか?




 彼は帰る前に、僕の所に最後のあいさつに来た。
 少し探りを入れてみよう。

 ――アレス王子曰く

「そもそも、この国の疫病の発生は、北西のチャルズコートとの国境付近です。彼女たちを悪者にしていますが、それは違いますよ」

 何故、そんな事が言える。
 君は専門家なのか――?

 口から出かかった、言葉を飲み込む。
 この手のタイプとの議論は意味が無い。

 それに、短気なこの男を、怒らせるマネはしたくなかった。


 外交交渉の席で、野蛮にも凄んでいたことを思い出す。
 口では勝てないから、暴力に訴え出ようとしていた。

 ――そういう奴だ。


 
 それにしても……

 疫病の発生源――?
 僕でも知らないような情報を、なぜ彼が――


 …………。
 僕は彼のことを、不気味な奴だと思った。

 得体の知れない怖さを感じた。



 そういえば、僕がローゼリアと出会う前――
 軍隊に入り、辺境を巡回していた時に、魔物と戦ったことが何度かある。

 恐ろしい魔物と、対峙した時に感じた威圧感――
 それと似たような――

 いや、もっと強力な圧力を、この男から感じる。
 


 『魔物のような威圧感を持ち、好んで女とまぐわう、不気味な男』

 それが僕の――
 最終的なアレス王子の人物評になった。
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