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聖女暗殺事件

第60話 悪魔へと至る道程 3 B

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「もうすでに、あなたはご存じのはずだ。私の名前はベルゼブブ、その魔導書に封じられていた悪魔ですよ」

 魔導書から現れた美青年は、やはり悪魔ベルゼブブで間違いないようだ。

 だが悪魔でも、美形なら問題ないわ。
 契約しちゃいましょう。

「ベルゼ様とおっしゃるのですね。それで、その……対価のこと、なのですけれど」

 私はシュドナイを無視して、話を進める。



「あなたの願いを叶える、そのお手伝いをするために必要な代償です。婚約者の命、もしくは――契約者の肉体と生命力を、提供して頂きます」

 婚約者の命か、肉体……。

「わかりました。では、ピレールの命を差し上げますわ。どうぞ、お好きになさって下さいませ」

「……ピレールという者は、すでにあなとの婚約を解消しています。それに、婚約者の命を対価にする場合は、『自分の手で相手の命を奪う』必要があるのです」


 ……じゃあ、どのみち無理か――

 ピレールは腐ってもピレンゾルの第一王子、私が今から殺せるわけがない。

 ――誰か適当な男と婚約して、そいつを殺すのはどうだ?
 面倒だし、私の細腕で男を殺すのは骨が折れる。

 失敗し反撃されるリスクもある。

 現実的ではない。



 となれば、わたしの身体をベルゼ様に差し出すというのが、もっとも理に適った選択という事になるだろう。

「仕方がありませんわね。では、わたしの身体を提供させて頂きます。」

「ま、待つんだ! ローゼリア!! 馬鹿な真似は止せッ! 相手は悪魔なんだぞ」



 シュドナイは、私が他の男――
 超絶美形のベルゼ様に抱かれることに、危機感と嫉妬心を抱いているようだ。

 私の身体と心が、他の男に奪われてしまうことを恐れている。

 本当に、小さな男だこと――

「シュドナイ様、これは仕方のない事なのです。私たちはベルゼ様のお力をお借りしなくては、これから何もできません。私が犠牲になるしかないのです――けれど、心配なさらないで、たとえ体は汚されたとしても、私の心はあなた様の物ですわ」


 私は心にもないことを言って、シュドナイの気持ちを弄んだ。

 悪魔の力を借りるしか、この先やっていけない。
 それはシュドナイもわかっている。

 ――だからこれ以上、反対は出来ない。

「今から私は、この身体をベルゼ様に捧げます。けれど恥ずかしいので、――シュドナイ様はご覧にならないで下さい」

 そう言って私は、シュドナイを部屋から追い出した。


 この宿の他の部屋は、もう埋まっている。
 シュドナイは部屋の外のドアの前で、一晩過ごすことになるだろう。

 そこで――
 私が他の男と甘い一夜を過ごすのを、指をくわえて待っていればいいわ。

 ふふふっ、なんて楽しいのかしら。
 人の気持ちを、恋心を、愛を、弄んで踏みにじるのは――

 とっても、いい気分だわ。




 その夜、私は夢のような一時を、ベルゼ様と過ごした。
 めくるめく――
 ときめきに満ちた、大人の遊園地。

 ベルゼ様は前ではなく、後ろを使用されたけれど、些細な問題だわ。

 イケメンは多少特殊な性癖を持っていても、許されるのよ。




 チュン、チュン、ちゅん――

 窓の外で、スズメが鳴いている。
 朝日が昇ったようね。
 
 私は眠い目をこすりながら、上体を起こす。

 隣には、人の温もりがある。
 昨日愛し合った、愛しい人の温もりが――


 私は精一杯可愛い仕草で、ベルゼ様に朝の挨拶をする。

「おはようございます。ベルゼ様、起きて下さいませ、良い朝ですわよ……えっ?」


 私の横には、誰かが寝ていた。
 それは確かだ。

 しかし、なんだこいつは?
 この、醜悪な生き物は――??

 いつの間に、入り込んだ???


 私の横には――
 人の体にハエの頭を生やした生物が、気持ち良さそうに眠っていた。


「~~~~~~~~ッ!!!!!!」

 私は声にならない、叫び声をあげた。
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