70 / 126
聖女暗殺事件
第56話 リーナの諦観 2 A
しおりを挟む
私はこの国の第一王子、アレス様の首にクナイをあてがっている。
そして、珍しく滝のように、冷や汗をかいている。
しまった、どうしよう――
守るべき対象の王子様に、刃を向けるとは――
だが――
元はと言えば、アレス様が悪い。
私の背後から不意に、尻に手を伸ばしてきたのだから……。
自分の意思でこうしているのではなく、反射的に体が動いてしまったのだ。
攻撃を受けた際には、反射で相手に反撃するように訓練されているのだ。
むしろ、反撃を寸止めした私を、誉めて欲しい。
しかし、そんな言い訳は通用しない。
王族に刃を向けてしまったのだ、死罪は免れないだろう。
会ったこともない両親よ。
先立つ不孝を、許してくれ――
「ん? いや、今回のことは全面的に俺が悪いのだから、死刑になどするわけがないだろう。気にするな。――そんなことよりも、リーナの尻をさわらせてくれないか?」
アレス王子は、キリッとした凛々しい表情で、寛大で最低なセリフを吐いた。
――まだ、触りたいのか?
殺されそうになったばかりだというのに……。
反射で殺してしまうかもしれないから、頼むからやめて欲しいと、半泣きで懇願して、やっと諦めてくれた。
「見るだけなら、いいか?」
――と言って、鑑賞されたりはしたが……。
「アレス様……そんなにじっくり見られると、少し恥ずかしい」
私がそう言うと、アレス様は『じゃあ、リーナの顔を見せてくれ』と言って、私のことを見つめてくる。
――ものすごく、恥ずかしい。
「頼む! 見るなら、やはり尻にしてくれ」
一流の暗殺者の私を、見つめるだけでここまで狼狽させるとは――
きっとこのお方は将来、とんでもない英雄か――
『大うつけ』のどちらかになるだろう。
その後――
邪竜王を倒し飛躍的に強くなってからは、私の尻を触りたいだけさわれるようになり、無邪気に喜んでいた。
どうやら『大うつけ』の方だったらしい。
――私の貧相な尻をさわって、何がそんなに嬉しいのだろうか?
数多くの魅力的な女性に囲まれているのだから、私などに構わなくてもいいだろうに…………。
だが、アレス様に求められるのは、悪い気はしない。
――内緒だが、ちょっと楽しみにもなっている。
不思議なものだ。
ピレンゾルで、五度目の暗殺騒ぎがあった翌日。
外交交渉はすでに、大筋で合意に達していた。
後は正式に調印するだけ、という段階だ。
期日までに交渉を取りまとめることが出来て、空き時間がある。
その自由時間を利用して――
アレス様は少数の護衛を引き連れ、この国のスラム街に視察に出ていた。
そして、珍しく滝のように、冷や汗をかいている。
しまった、どうしよう――
守るべき対象の王子様に、刃を向けるとは――
だが――
元はと言えば、アレス様が悪い。
私の背後から不意に、尻に手を伸ばしてきたのだから……。
自分の意思でこうしているのではなく、反射的に体が動いてしまったのだ。
攻撃を受けた際には、反射で相手に反撃するように訓練されているのだ。
むしろ、反撃を寸止めした私を、誉めて欲しい。
しかし、そんな言い訳は通用しない。
王族に刃を向けてしまったのだ、死罪は免れないだろう。
会ったこともない両親よ。
先立つ不孝を、許してくれ――
「ん? いや、今回のことは全面的に俺が悪いのだから、死刑になどするわけがないだろう。気にするな。――そんなことよりも、リーナの尻をさわらせてくれないか?」
アレス王子は、キリッとした凛々しい表情で、寛大で最低なセリフを吐いた。
――まだ、触りたいのか?
殺されそうになったばかりだというのに……。
反射で殺してしまうかもしれないから、頼むからやめて欲しいと、半泣きで懇願して、やっと諦めてくれた。
「見るだけなら、いいか?」
――と言って、鑑賞されたりはしたが……。
「アレス様……そんなにじっくり見られると、少し恥ずかしい」
私がそう言うと、アレス様は『じゃあ、リーナの顔を見せてくれ』と言って、私のことを見つめてくる。
――ものすごく、恥ずかしい。
「頼む! 見るなら、やはり尻にしてくれ」
一流の暗殺者の私を、見つめるだけでここまで狼狽させるとは――
きっとこのお方は将来、とんでもない英雄か――
『大うつけ』のどちらかになるだろう。
その後――
邪竜王を倒し飛躍的に強くなってからは、私の尻を触りたいだけさわれるようになり、無邪気に喜んでいた。
どうやら『大うつけ』の方だったらしい。
――私の貧相な尻をさわって、何がそんなに嬉しいのだろうか?
数多くの魅力的な女性に囲まれているのだから、私などに構わなくてもいいだろうに…………。
だが、アレス様に求められるのは、悪い気はしない。
――内緒だが、ちょっと楽しみにもなっている。
不思議なものだ。
ピレンゾルで、五度目の暗殺騒ぎがあった翌日。
外交交渉はすでに、大筋で合意に達していた。
後は正式に調印するだけ、という段階だ。
期日までに交渉を取りまとめることが出来て、空き時間がある。
その自由時間を利用して――
アレス様は少数の護衛を引き連れ、この国のスラム街に視察に出ていた。
12
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR
ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。
だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。
無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。
人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。
だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。
自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。
殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる