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聖女暗殺事件

第54話 シーネの気苦労 B

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 ――最初の頃は、只の困ったエロガキだったのになぁ……。

 弓を教えて欲しいというから、手本を見せていたら後ろに回り込んでスカートをめくってきたクソガキだった。

 弓の練習も真面目にするから、すぐに上達して𠮟るに叱れなかった。
 

 野営の訓練をしたいと言い出して、私の所属する傭兵団の野営訓練に加わったこともある。

 その時は、身分を隠して加わった。
 騎士団や傭兵団は、男女別に分かれて組織されている。


 貴族の三男坊くらいだと思われたアレス様は、皆からイケナイ悪戯をされる。

 そういうことが無いように傭兵団や騎士団は、男女別に分かれているのだから、女戦士の集団に、顔の整った男の子が入ればそうなる。

 アレス様は訓練の後で、年上のお姉さんたちに弄ばれてみたかったとか言って、満足げだった。 

 おスケベが過ぎます……。

 
 そんな手の付けられない困ったエロガキも、魔物を一緒に討伐するようになってから、徐々に見方が変わっていった。

 私以外の皆も、少しづつアレス様を好きになっていったと思う。
 

 そして反乱を武力で収めたり、邪竜王を倒したり、復活した破壊神を退治したりで、すっかりこの国の英雄になった。

 だからこそ、アレス様の正妻には、みんな厳しい目を向ける。
 相応しいかどうかを、見極めようとする。

 今のところソフィ様を、不合格とする者は多い。


 ――だが、ソフィ様はアレス王子が選んだお方だ。

 人を引き付ける魅力はきっとある。

 
 人と人は、すぐに分かり合えるものでもない。
 でも、分かり合える日もきっとくる。

 その時までに、及ばずながらこの私が、ソフィ様と戦士団の皆を取り持とう。


 私が決意を新たにした時に、王都が見えてきた。




 王都ではまず、国王夫妻へ挨拶に伺うことになる。


 私は謁見の間に向かう、ソフィ様を見送りながら――

 ソフィ様、ちゃんと出来るかしら?
 セリフを間違えないかな、マナーは大丈夫か、途中で転んじゃわないかしら?

 などど、心配していた――



 私の心配をよそにソフィ様は、何事もなく挨拶を終えた。
 慎ましやかでありながらも、堂々とした立ち居振る舞いだった。

 皆の見る目も、少し変わったように思う。


 次の日からは、四大貴族を筆頭に上位貴族の方々と、順に挨拶をして回った。

 そこでも私は心配し通しだったが、ソフィ様は立派に役目を終えられた。
 
「挨拶は、得意なのです」

 ――といって、ちょっと威張っていた。
 
 

 挨拶を済ませてからは観光がてら、ライザさんおすすめの美味しいお店巡りをして数日を過ごした。

 あいさつ回りの時とは違い、気を抜いているからなのか、何もないところでよく転びそうになっていた。
 その度に私やライザさんが抱きかかえて、転ぶのを未然に防いでいた。

「しっかりして下さい」
 
 と、苦言を呈するが――

 幸せそうにご飯を食べる姿を見ると、可愛らしいとつい思ってしまう。

 ――捉えどころのないお人だ。




 そして――
 最高司祭からの招待に応じて、神殿へと赴く。

 私達の護衛の任務もここまで……。
 神殿の中は、神殿騎士の領分だ。

 護衛の任務は、彼らが引き継ぐ。



 ――いやな予感がする。

 今からでも引き留めよう。
 神殿からの招待は、急病ということにして断りましょうと、ソフィ様に進言する。

 だが、ソフィ様は自信満々な顔で――


「大丈夫だから、心配しないで。お祈りは得意なの!」
 と言って、優しく微笑んだ。
 

 私はソフィ様が――
 何もないところで、何度も転びそうになったことを思い出す。

 ……まったく、安心できなかった。
 心配で仕方がない。

 私は神様に、ソフィ様の無事をお祈りした。
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