66 / 87
聖女暗殺事件
第53話 ロザリアの信頼 2 B
しおりを挟む――とまあ、そんなことがあった。
そして、俺はロザリアのオナラの音を、ここ数年聞いていない。
そのことに思い至ったので、尋ねた訳だ。
――俺は彼女からの信頼を、失ったのだろうか?
俺はロザリアの見解を聞こうと、彼女を見る。
ロザリアは枕に顔をうずめて、見悶えていた。
そして――
「わ、私そんな事してないもん。そんなの、捏造だし。言ってないし――くッ、……なんでそんなこと、覚えてるのよ。アレス様のバカ、アホ、おたんこなす! てゆーか何よ。信頼の音色って、無駄に詩的な言い回ししないでよ。余計恥ずかしくなるじゃん。バカッ!!」
信頼の音色は、そっちが言い出したことなんだが――
いや、止そう。
誰にでも、思い出したくない過去はある。
親しき仲にも礼儀ありだ。
俺はロザリアの信頼の音色の記憶を、心の禁書庫に仕舞う。
――封印完了。
「そうだな、よく考えたら俺の記憶違いだった」
俺はそう言って、ロザリアの頭を撫でて機嫌を取った。
数日後――
俺はピレンゾルへと出発する。
一向に進まないピレンゾルとの外交交渉。
ローゼリア事件の始末を付けるために、全権大使に任命されたからだ。
面倒だが、捕らえている捕虜の管理にも費用は掛かり、負担になっている。
さっさと、返還したいので、直接言って話を付けてくる。
隣国へと旅立つ俺を、ソフィ達が見送りに来てくれた。
そして俺も、王都へと旅立つソフィを見送る。
王都にある神殿から、『聖女ソフィ』に招待状が届いた。
『ぜひ聖女であるソフィ様に、神殿で祈りを捧げて欲しい』という要請だ。
――そう、公式にソフィはまだ聖女という肩書のままなのだ。
その建前があるからこそ、彼女は俺の婚約者でいられる。
それを崩すわけにはいかない。
神殿側も、ソフィが聖女ではないことは、すでに分かっているはずだ。
おそらく、神殿内の権力闘争と政治的な駆け引きから、建前を利用してソフィを引っ張り出そうとしている。
具体的な狙いは判らないが――
きな臭い匂いがする。
今回の神殿からの要請は、病気という事にして断った方が良いだろう。
しかし俺は、その判断をソフィに委ねた。
ソフィはローゼリア事件後に目を覚ましてから、療養のためこれまでずっと後宮で暮らしてきた。
しかし、彼女は将来――
この国の、王妃になる。
いつまでも、外界から隔離して護る訳にもいかない。
世話をする者や、護衛も付けた。
死神からもたらされた情報も、信憑性がある。
いざとなれば彼女は、自分の身は自分で護れる。
――そんな事態にならない方が良いのだが、これから何をどう判断し行動するのかを、彼女自身が判断して、動いていかなければいけない。
「今回の王都行は危険だと思うが……どうするかは、君に決めて欲しい」
「心配はいりません。それに――お祈りは得意なんです!!」
そう言って、ソフィは朗らかに笑った。
そして――
「アレス様も、お体に気を付けて下さい」
逆に、俺の身を案じてくれる。
「ああ、しばらく会えなくなるのは寂しいが、お互いの使命を全うしよう」
「はい、王都の方は、私にお任せください」
ソフィは自信に満ちた顔で、力強く請け負った。
俺が自分の運命を自分で切り開いて来たように、彼女も自分の運命と戦ってきた。
俺一人では、この国の運命は変えられなかっただろう。
たぶん、俺たちは二人で一人。
二人で同じ困難を乗り越えて、今がある。
勿論、心配ではあるが――
俺は彼女の困難に立ち向かい乗り越える力を信じて、王都へと送り出した。
3
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる