上 下
61 / 87
聖女暗殺事件

第50話 鉄壁のライザ 1

しおりを挟む
 リーズラグド王国、ダルフォルネ領。

 聖女ローゼリアを発端とする、六万人以上の死者を出した『ローゼリア事件』から三か月が経過した。

 俺が討伐したあの集合体は、『破壊神』と呼称している。



 俺の婚約者のソフィには、『死神』が見える。
 その死神からもたらされた情報を基に、そう呼んでいる。

 ソフィが伝え聞いた死神の話は、現在ロザリアを中心とした研究チームに、検証して貰っている。

 実際に破壊神と戦った俺は、その話に嘘は無いだろうと思っている。 




 ローゼリア事件の引き金を引いた、元聖女のローゼリア。

 死神の話では、奴はすでに力を使い切り、さらにこの地に封印されていた破壊神の消滅によって、地母神ガイアとの繋がりも切れて、聖女では無くなったらしい。

 現在は行方不明だが、目撃情報を集めると、ピレンゾルへと向かったことが確認されている。

 あの女は軍隊を率いて、この国で狼藉を働いていたので、ピレンゾルに身柄の引き渡しを要請しているが、ピレンゾルからは『聖女ローゼリアなる人物は、わが国にはいない』という回答しか返ってこないらしい。

 本当にピレンゾルにいないのか、それとも庇い立てしているのかは不明だ。


 ローゼリアの在否確認は置いておいても、ピレンゾル兵がダルフォルネ領内に侵入して、乱暴狼藉を働いた事実は消えない。

 捕虜も、五百名ほど捕らえている。

 こちらからピレンゾルに、捕虜の返還と身代金の支払い、損害補償などを求めているが、向こうが出し渋って、外交交渉が膠着している状態にある。




 『そもそも、ローゼリアを追放したのは貴国ではないか!! そのせいで我が国は多大な損害を被った、そっちが賠償しろ!!』と言って、逆切れし始めたらしい。

 ピレンゾルは元々厄介な隣国だったが、こちらにもローゼリアを追放したという落ち度がある。そこを相手に突かれてしまっている。


 初手でローゼリアの奴を、殺さなかったツケだ。
 はた迷惑で、面倒事をまき散らす迷惑な女。

 懸案事項が浮かび上がる度に――

 あいつを最初に殺しておけばと、後悔がよぎる。 

 



 ローゼリア事件で犠牲になった死者の埋葬も終わり、瓦礫の撤去作業も進んでいる。区画整理も行われ、優先度の高い施設から順に建造が始まっている。

 家や家族を失った者も多いが、そういった者が寄り集まって、臨時でいくつもテント村が作られている。
 
 俺はそんなテント村の一つに、居を構えて暮らしている。


 腕力と体力には、自信がある。

 転生特典は使い切ったが、邪竜王と破壊神の討伐でレベルが上がっている。

 最近はずっとダルフォルネ領の兵士たちと共に、復興作業の手伝いに従事して、避難民たちと苦楽を共にしているので、利便性を考慮してここに住んでいる。

 それと同時に、この辺りの魔物の討伐を親衛隊や昔からの傭兵仲間と、分担してやっている。

 魔物退治は人気が出るし、住民たちも盛り上がる。

 ――外せない業務だ。



 王子である俺が、率先して泥にまみれる必要はない。

 そういった作業は部下に命じてやらせればいいのだが、国民の不満というのは、いつ権力者に向くか分かったものじゃない。
 一緒に苦楽を分かち合う姿を、分かりやすく見せておくことは、俺にとって財産になるだろう。

 そういった打算を抜きにしても、避難民の村は不思議と活気に満ちていて、居心地は悪くない。
 悲しいことがあっても、人はいつまでも悲しんでばかりはいられない。


 自分らしくないのは承知の上で――
 俺は色んな相手に、声をかけて話をして回った。

 もう一度やり直そうという活力は、そんなところから生まれてくる。と思ったからだが、この辺りの性格は、前世の自分には無かったと思う。
 
 恐らくだが――
 今の俺は元々の小説のキャラ『アレス王子』と、転生前の俺のパーソナリティが、融合して出来た存在なのだと思う。



 色々な事情を考慮して、俺は避難所で暮らしているのだが、この国の第一王子という身分上、テントは立派で大きな物だし、周囲は親衛隊用のテントで固められている。

 その俺の居住用テントに、メイド長のゼニアスが近況報告に訪れた。

 


 …………。

 ゼニアスは一晩泊って、次の日にはもう後宮へと帰っていった。
 
 ゼニアスの報告を聞いた俺は、王都の居酒屋で情報収取と拡散任務を担っているライザを、ソフィの教育係と言う名目で呼び寄せることにした。

 ソフィ関連のエピソードの中で、食材を無駄にしてしまう話などは注意が必要だ。

 俺は可愛いと思ったが、受け取る人間によっては反感を買う恐れもある。
 彼女には、療養もかねて後宮でゆっくりして貰っているが、外では苦しい思いをしている避難民が大勢いる。


 情報はどこから漏れるかわからない。

 贅沢に暮らすお姫様の、お気楽な逸話として受け取られかねない。
 ――そんな状況が続いている。

 情報管理に長けたライザを側に付けて、ソフィにとってマイナスの情報を排除し、プラスの情報が広がるように操作して貰う。


 情報ギルド関連の業務は、レイミーと言う名の優秀な後任が育っているそうなので、すぐに来れるだろう。




 ――ライザはずっと、王都にいた。


 用事があって王都に赴くときには、必ず彼女に会って俺の実力を試している。

 一か月前に会った時には、ついに彼女の『鉄壁』を実力で突破することが出来た。

 邪竜王を討伐した後の強さで、俺はライザと互角だったから――


 破壊神を討伐したことで、そこからさらに強さを増したことになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...