60 / 87
外伝 ロブドの戦い
第49話 戦いの収束と、その後の話
しおりを挟む俺の顔に、絶望が広がる。
力なく、椅子に座り込む。
そして、声を絞り出してジェイドに言った。
「……頼みがある」
いつもは指令を伝えれば、すぐに消えるジェイドが――
俺と同じように、椅子に腰をかける。
話を聞いてくれる気は、あるようだ。
「……レイミーは、レイミーだけは、助けてくれないか? 保護して欲しい」
「――それは、お前しだいだ」
「指令はちゃんと、遂行する。だから……」
「そういうことを、言ってるんじゃない」
……?
俺は顔を上げて、ジェイドを見つめる。
「俺はいつだって……お前とレイミーが、『二人で』生き残る未来を――ちゃんと残しているんだぜ」
「……?」
どういう、ことだ?
「……例えば、お前の目の前にいる男は、いったい何者なのか。どこで生まれて、どんな風に育ったとか、今まで何をして生きてきたとか――解るか?」
「いや、ジェイドと言う――名前しか……」
「そうだろう? ――それでもちゃんと、俺たちの関係は成立している。お前にとって、俺の素性なんてものは、たいして重要じゃなくて――重要なのは、俺の持ってくる指令の方だからだ。――そんなものなんだよ」
――コイツは、何が言いたいんだ?
「『悪辣メガネ』と呼ばれている男が、必ずしもメガネをかけているとは限らないように、反乱軍の英雄『ロブド』だって――必ずしも、お前である必要はないんだよ」
目の前に座っていた男はそう言うと、立ち上がって姿を消した。
俺があの男と言葉を交わしたのは、これが最後だった。
俺はイーレス城で、『独立派』のトップと面会している。
そいつの周囲には、護衛の取り巻きが複数人、控えている。
こっちは、俺一人だ。
話が上手くまとまるとは限らないし、口封じで殺される危険もある。
――レイミーを、連れてくるわけにはいかない。
「で、話と言うのは? 俺たちの側に付くってことで、良いんだよな?」
俺はそいつの脅しを聞いてから、ニヤリと笑った。
演出のつもりだが、上手く出来ただろうか……。
「いや――もっといい、提案がある」
「……ほう、提案というのは?」
そいつは怪訝な表情を浮かべるが、俺の提案に興味があるのか先を促す。
「お前が今日から、『ロブド』にならないか――?」
「……どういうことだ?」
「反乱軍のポテンシャルは、こんなものじゃない。もっと大きくなれる。反乱軍のトップは――この国の、聖女様を追放した無能な王を倒して、新たに国王になるべきだ」
俺の言葉に、そいつは暫らく唖然としていたが、理解が追い付くと目を輝かせる。
「その為にも、皆をまとめる強力なリーダーがいる。そしてそれは、お前だと思っている。だから――パーシュア・ゾポンドートを討ち取った、反乱軍の英雄ロブドの名前を使って欲しい。今日から、お前が――ロブドを名乗ってトップに立ってくれ」
「……しかし、俺がいきなり『ロブド』を名乗っても、受け入れない奴もいるだろう? 通じるとは……」
「これから、俺の言うとおりにしろ。まずは、この城に一つ開かずの間を作れ。その誰もいない部屋の中に、俺がいることにしろ。出来るだろ?」
「そりゃあ、そのくらいなら……」
「そして、俺からの指令と言うことにして――お前の仲間以外の幹部を、この城から外に出せ。適当な任務を与えても良いし、故郷に帰らせても良い。その後で、反対する奴のいない中で、お前が正式に『自分こそが真のロブドだ』と宣言するんだ――やれるだろ? そして、王を打倒して、お前がこの国の王になるんだ」
そいつは、鷹揚に頷くと――
俺の提案を、受け入れてくれた。
この時点で、計画の九割は成功したようなものだ。
その後は、ジェイドから授けられた指令を独立派に担って貰う為に、これからの反乱軍の方針を享受して――
俺は――
顔を隠して、イーレス城を後にした。
ここで口封じに殺されるかもしれないと、心配していたが杞憂だった。
俺は足早に、城から離れる。
『ロブド』はやりたい奴に、やって貰えばいい。
それから――
ロブド率いる反乱軍は、アレス王子率いる討伐軍に、あっけなく壊滅させられた。
その知らせを聞いた時は、なんとも言えない寂寥感にさいなまれた。
俺とレイミーは、邪竜王から逃げる避難民に交じって王都へと向かい、そこで暮らすことになった。
災害級の魔物の発生時には、領民の移動も一時的に許可される。
邪竜王出現の凶報は、俺たちにとっては『天の助け』だった。
俺は『ロブド』という名前を捨て、『ロード』と名乗っている。
ロブドに近い名前にしたのは、言い間違えた時に誤魔化しやすいと考えたからだ。
俺は王都で魔物退治の傭兵団に入り、レイミーはとある居酒屋で給仕の仕事に就き、一年後に看板娘を引き継いだ。
先代の看板娘は、お姫様の教育係に抜擢されたらしく、レイミーはその後を継いだそうだ。
俺は居酒屋の酔った客が、レイミーの身体をさわるのではと、ヤキモキしながら日々を過ごしている。
俺の傭兵としての収入もあるし、居酒屋の仕事は辞めて欲しいが、レイミーは仕事にやりがいを感じているようなので、辞めろとはいえない。
心配事と言えば、それくらいだ。
反乱軍の首謀者として、ゾポンドート領内を駆け回っていた頃の自分には、想像もできないような、安定した生活を送っている。
――苦楽を共にした多くの仲間を、見捨てて、逃げて、今の生活がある。
後ろ暗い気持ちはあるが、後悔はない。
俺は物語に出てくる、勇者ではない。
俺が守れるものなど、たかが知れている。
問題はその中で、何を守るかだ。
俺は、一番守りたいものを守れた。
だから、後悔はない。
その後、国単位では大きな波乱があった。
西の大国との大戦争や――
南のピレンゾルとの国交断絶。
だが俺はもう、そういった国の大事に関わることは無い。
小市民になった俺は――
これから先もずっと、レイミーとの生活を守っていく。
それが俺の――
かつて、ロブドだった男の戦いだ。
ーEND-
7
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる