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外伝 ロブドの戦い

第49話 戦いの収束と、その後の話

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 俺の顔に、絶望が広がる。
 力なく、椅子に座り込む。

 そして、声を絞り出してジェイドに言った。

「……頼みがある」

 いつもは指令を伝えれば、すぐに消えるジェイドが――
 俺と同じように、椅子に腰をかける。
 
 話を聞いてくれる気は、あるようだ。

「……レイミーは、レイミーだけは、助けてくれないか? 保護して欲しい」
「――それは、お前しだいだ」


「指令はちゃんと、遂行する。だから……」
「そういうことを、言ってるんじゃない」

 ……?
 俺は顔を上げて、ジェイドを見つめる。

「俺はいつだって……お前とレイミーが、『二人で』生き残る未来を――ちゃんと残しているんだぜ」


「……?」
 どういう、ことだ?

「……例えば、お前の目の前にいる男は、いったい何者なのか。どこで生まれて、どんな風に育ったとか、今まで何をして生きてきたとか――解るか?」

「いや、ジェイドと言う――名前しか……」



「そうだろう? ――それでもちゃんと、俺たちの関係は成立している。お前にとって、俺の素性なんてものは、たいして重要じゃなくて――重要なのは、俺の持ってくる指令の方だからだ。――そんなものなんだよ」


 ――コイツは、何が言いたいんだ?

「『悪辣メガネ』と呼ばれている男が、必ずしもメガネをかけているとは限らないように、反乱軍の英雄『ロブド』だって――必ずしも、お前である必要はないんだよ」


 目の前に座っていた男はそう言うと、立ち上がって姿を消した。

 俺があの男と言葉を交わしたのは、これが最後だった。





 俺はイーレス城で、『独立派』のトップと面会している。

 そいつの周囲には、護衛の取り巻きが複数人、控えている。

 こっちは、俺一人だ。
 話が上手くまとまるとは限らないし、口封じで殺される危険もある。

 ――レイミーを、連れてくるわけにはいかない。




「で、話と言うのは? 俺たちの側に付くってことで、良いんだよな?」

 俺はそいつの脅しを聞いてから、ニヤリと笑った。
 演出のつもりだが、上手く出来ただろうか……。

「いや――もっといい、提案がある」




「……ほう、提案というのは?」
 そいつは怪訝な表情を浮かべるが、俺の提案に興味があるのか先を促す。

「お前が今日から、『ロブド』にならないか――?」

「……どういうことだ?」





「反乱軍のポテンシャルは、こんなものじゃない。もっと大きくなれる。反乱軍のトップは――この国の、聖女様を追放した無能な王を倒して、新たに国王になるべきだ」

 俺の言葉に、そいつは暫らく唖然としていたが、理解が追い付くと目を輝かせる。

「その為にも、皆をまとめる強力なリーダーがいる。そしてそれは、お前だと思っている。だから――パーシュア・ゾポンドートを討ち取った、反乱軍の英雄ロブドの名前を使って欲しい。今日から、お前が――ロブドを名乗ってトップに立ってくれ」


「……しかし、俺がいきなり『ロブド』を名乗っても、受け入れない奴もいるだろう? 通じるとは……」

「これから、俺の言うとおりにしろ。まずは、この城に一つ開かずの間を作れ。その誰もいない部屋の中に、俺がいることにしろ。出来るだろ?」

「そりゃあ、そのくらいなら……」

「そして、俺からの指令と言うことにして――お前の仲間以外の幹部を、この城から外に出せ。適当な任務を与えても良いし、故郷に帰らせても良い。その後で、反対する奴のいない中で、お前が正式に『自分こそが真のロブドだ』と宣言するんだ――やれるだろ? そして、王を打倒して、お前がこの国の王になるんだ」


 そいつは、鷹揚に頷くと――
 俺の提案を、受け入れてくれた。


 この時点で、計画の九割は成功したようなものだ。
 


 その後は、ジェイドから授けられた指令を独立派に担って貰う為に、これからの反乱軍の方針を享受して――

 俺は――
 顔を隠して、イーレス城を後にした。
 
 ここで口封じに殺されるかもしれないと、心配していたが杞憂だった。  
 俺は足早に、城から離れる。

 『ロブド』はやりたい奴に、やって貰えばいい。






 それから――

 ロブド率いる反乱軍は、アレス王子率いる討伐軍に、あっけなく壊滅させられた。

 その知らせを聞いた時は、なんとも言えない寂寥感にさいなまれた。








 俺とレイミーは、邪竜王から逃げる避難民に交じって王都へと向かい、そこで暮らすことになった。

 災害級の魔物の発生時には、領民の移動も一時的に許可される。
 邪竜王出現の凶報は、俺たちにとっては『天の助け』だった。




 俺は『ロブド』という名前を捨て、『ロード』と名乗っている。 

 ロブドに近い名前にしたのは、言い間違えた時に誤魔化しやすいと考えたからだ。


 俺は王都で魔物退治の傭兵団に入り、レイミーはとある居酒屋で給仕の仕事に就き、一年後に看板娘を引き継いだ。

 先代の看板娘は、お姫様の教育係に抜擢されたらしく、レイミーはその後を継いだそうだ。

 俺は居酒屋の酔った客が、レイミーの身体をさわるのではと、ヤキモキしながら日々を過ごしている。

 俺の傭兵としての収入もあるし、居酒屋の仕事は辞めて欲しいが、レイミーは仕事にやりがいを感じているようなので、辞めろとはいえない。


 心配事と言えば、それくらいだ。

 反乱軍の首謀者として、ゾポンドート領内を駆け回っていた頃の自分には、想像もできないような、安定した生活を送っている。




 ――苦楽を共にした多くの仲間を、見捨てて、逃げて、今の生活がある。

 後ろ暗い気持ちはあるが、後悔はない。

 俺は物語に出てくる、勇者ではない。
 俺が守れるものなど、たかが知れている。

 問題はその中で、何を守るかだ。
 俺は、一番守りたいものを守れた。

 だから、後悔はない。



 その後、国単位では大きな波乱があった。
 西の大国との大戦争や――
 南のピレンゾルとの国交断絶。

 だが俺はもう、そういった国の大事に関わることは無い。

 小市民になった俺は――
 これから先もずっと、レイミーとの生活を守っていく。

 それが俺の――
 かつて、ロブドだった男の戦いだ。

 ーEND-
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