聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう

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外伝 ロブドの戦い

第46話 戦いの拡大

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 俺はジェイドの指示に従い、民衆を扇動して暴動を起こして回った。

 それが、犯罪者である俺達を、見逃して貰う条件だった。
 犯罪を見逃して貰うために、新たに罪を重ねていく。


 地方領主へ喧嘩を売って回る。
 農民として普通に暮らしていた時には、考えもしなかった。

 やりたくは無かったが――

 俺達が生き延びるためには、やるしかない。





 暴動参加者は、たった半年で千を超えた。


 ――と言っても、その内情は褒められたものではない。

 村の一部の人間が暴動を起こせば、その村の全員が連帯責任で処罰されることになる。だから、暴動などやりたくない、加わりたくないという奴でも、強制的に参加せざるを得なくなる。
 
 戦えないような、老人や子供でも――
 だから、数だけは多い。

 最初は、見せしめの村から順に――
 暴動の火種を撒いて、半ば強制的に参加させた人数だ。

 ただこの半年間で、俺の活動に共感し、一緒に行動する仲間も増えた。
 彼らは積極的に、この領地の腐った政治と戦おうと、理想に燃えている。




 俺とレイミーを助けてくれた、ティリアお嬢様の兄は――
 『悪辣眼鏡』と陰口を叩かれているという男は、俺になぜこんなことをさせているのか、その理由はこの半年の工作活動から見えてきた。

 この工作活動は、貴族同士の権力闘争の一端だ。


 ゾポンドート領の領主は、パーシュア・ゾポンドートで、その弟がバーナルド・ゾポンドート。
 俺が反乱の火種を撒いてきたのは、パーシュア派の貴族の領地だ。



 俺がパーシュア派の領地で、暴動を起こす。
 成功すれば、パーシュア派に打撃を与えることになる。

 例え失敗しても、農民が一人死ぬだけだ。

 悪辣眼鏡にとっては、失敗してもリスクは無い。
 
 敵対勢力の力を削ぐための工作員、というのが推測した俺の立場だ。


 まあ、重税と飢えに苦しむ俺たち民衆からしても、食料を手に出来る機会が与えられると考えれば、悪くはない。

 命がけではあるが――







 パーシュア・ゾポンドートは国王に対して謀反を起こそうと、イーレス城に兵隊を集めだした。 

 自分の足元で、これだけ暴動が起こっているのに、そんなことをするのかと疑問に思ったが――
 パーシュア派の地方領主は、暴動の発生をパーシュアに報告していないらしい。

 管轄地で問題が発生したとなると、自分の評価が下がる為、都合の悪い出来事は報告せずに、情報が上に上がらない様に、もみ消しているそうだ。

 そのおかげで、俺達はまだ生きていらるのだろう。
 




 領地で暴動が多発しているとも知らずに、パーシュアは国王に謀反を起こす為に、兵を招集する。

 バーナルド派は、付き合い程度にしか、兵を出さないが――
 パーシュア派は、そうもいかない。

 忠誠を示す為、そしてパーシュアからの覚えを良くするために、連れて行けるだけの兵をイーレス城へと送っている。

 俺の仕事もやりやすくなった。
 俺たちは手薄になった領地で、領民を扇動して暴れ回った。


 それにしても、国王に対して謀反か――
 昨日今日に、突然言い出したわけではあるまい。

 もしかしたら、悪辣眼鏡はその兆候を察知して、俺を工作員に仕立て上げたのかもしれない。







 これまでの半年間――
 暴動の扇動工作は、かなり慎重にやってきた。

 だが、今は――

 パーシュア派の領地は、手薄になっている。
 俺たち農民も、魔物退治の経験を積んでレベルが上昇してる。
 長年の増税で民衆が疲弊し、不満が溜まっていた。

 そういった条件が揃って、暴動は拡大した。

 勝てば、食料にありつける。
 そんなエサがあれば、領主に対する反抗心が無くても略奪に参加する。

 これが、一番大きいか――

 俺達は専業の戦士には、到底敵わない。
 それでも複数人で囲めば、倒すことは出来る。

 暴動参加者は、一か月であっという間に五千を超えた。





 好条件が重なり、ここまで暴動は拡大したのだが――

 流石にこの事態は、明るみに出た。
 暴動の拡大に気付いたパーシュア・ゾポンドートは、挙兵を延期して反乱の鎮圧に兵を差し向けるようになった。

 パーシュアは、早く王都へ向けて軍を進めたいのだろうが、治安維持に兵を割かざるを得なくなった。
 

 イーレス城に集められていた正規兵が、暴動鎮圧にやって来る。

 正面から正規軍を相手にすれば、俺達に勝ち目はない。
 いくら数が多くても、各個撃破され暴動の扇動者は粛清されるだろう。

 俺達は、逃げ隠れしてやり過ごすしかない。


 ジェイドからもたらされる情報で、鎮圧部隊がどこに向かうのかを、事前に知ることが出来る。
 暴動の扇動メンバーは、何とか逃げられる。

 だが、拠点の村を焼き払われるのは、どうしようもない。

 このままでは、ジリ貧になる。




 そんな時に、商人たちから協力したいという申し出を受けた。

 暴動に参加している集落の代表者が集まり、商人と会談して協力関係を構築した。
 俺達はジェイドに案内されて、武器商人との会合に臨んでいる。

 商人側の協力理由は、『商会のトップが殺されたから』、らしいが――
 裏で糸を引いているのは、バーナルド派の貴族だ。

 というか、仕掛け人は『悪辣眼鏡』だろう。

 俺達はこれまで暴動に参加し、成功した村から有志を募り――
 『反乱軍』を立ち上げた。

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