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それぞれの結末

第42話 この花びらに、口づけを―― A

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「……ンッ、――ンンッ、んぐ。――プハッ、ハァ、ハァ、がはぁ、はー……」

 私は深い眠りから、目を覚ました。
 長い間、呼吸が止まっていたようだ。

 苦しかったので、酸素を求めて荒い呼吸をくり返す。

 落ち着いてから目を開くと、一筋の光が空から差していて眩しかった。
 空は厚い雲に覆われていたけれど、光の差す雲の小さな穴が、どんどんと急速に広がっていき――
 

 あっという間に、澄み渡る青い空に変わった。
 不思議なことも、あるものだ。



 私の視界の端には、誰かが居た。

 私が目を、覚ますと――
 嬉しそうに、安堵しているようだ。
 そんな雰囲気が、伝わってきた。


 私は全身が痛くて、だるくて、頭がぼんやりして、身体を思うように動かせないが、それでも心だけは――
 
 上空の空のように、なんだかとてもスッキリしていた。


「大丈夫――? ではないな。治療して、身体を休めないと――抱き上げるけど、平気か――?」

 私を見つめる男の子が、優しく気遣いながら、声をかけてくれる。

 その男の子の顔を見た瞬間に、私の胸はときめいた。

 ドクンと――
 胸の鼓動が高鳴った。


 私の心は空っぽで、そこには何もなかったけれど、『それ』だけはあった。
 そして『それ』は急速に広がって、私の心が満たされる――
  
 ああ、そうか……。


 私はきっと、この人に――

 恋をするために、生まれてきたんだ。




 …………。

 ――だとすると、ここが正念場だ。
 目を覚ましていきなり、勝負どころを迎えている。

 この人に、気に入って貰えるような――
 『私は可愛らしい、女の子なんですよ』というアピールを、しなければいけない。


 
 いや、まて――

 カッコよく知的で、クールな――
 デキる女で、攻めるべきか?

 いずれにせよ、第一印象は大事だ。
 
 それでこの、恋の行方が決まると言っても、過言ではない。


 慎重に、第一声を考えていると――





 ――グギュルルっぅうう~~


 私のお腹が、大きな音を鳴り響かせる。

 『――平気か?』という、男の子の問いかけに――
 私は大きな、お腹の音で答えてしまった。

 恥ずかしかった、が――

 まあ、いいか。
 ――と安堵する。

 男を魅了し、虜にする。
 『魔性の女』に、ならずに済んだ。 


 デキる女も、私には似合わない。 
 カッコいい女性には憧れるけれど、どう転んでもなれそうにない。

 慣れないことは、するものじゃない。


 そう思って、安堵する。




 それに――
 口を動かす力もない、私が――
 『お腹が減ってますよ』という状態を、アピールすることができた。

 私の身体は、栄養と休息を必要としている。


 それは生きるために、必要なことだ。
 私の心と身体は、生きようとしている。

 それは、当たり前のことなのだけれど――
 そう思えたことが、少し嬉しかった。


 男の子も優く――
 少し笑う。

「今は邪竜王の呪いも、使い果たしているから――大丈夫だろう」

 そう言うと男の子は、私を両腕で抱きしめるように、抱え上げて歩き出す。


 辺りには死んでいる人が、たくさん倒れている。
 なんで私は、こんなところで眠っていたのだろう?

 それに手首についている、この手枷は何?
 私は誰かに、捕まっていたのだろうか?


 そして――
 なぜこの男の子は、会ったばかりの私に、こんなに優しくしてくれるのだろう?

 疑問は沢山あったが、口を開くのも億劫だし、目を閉じてじっとしていた。
 男の子が歩くたびに、私の身体も少し揺れて、その揺れが心地よくて――

 私はそのまま、眠りに落ちた。






 次に目を覚ましたのは、ふかふかのベットの上だった。
 天井も高くて、内装も豪華な部屋に、私は寝かされていた。

 身体の痛みや筋肉の張りも、以前に目を覚ました時と比べれば、ずっと良くなっている。ただ――お腹だけは、空いていた。

 そういえば、手首に付けられていた、手枷が無くなっている。

 私は上半身を起こして、部屋を見渡す。
 
「あっ、お目覚めですか? ソフィ様!!」


 部屋にいたメイド服の、小柄な可愛らしい女の子が――
 私が起き上がったのを見て、声をかけてきた。

「すぐにアレス様に、使いを送って知らせますね」

 どうやら、私の名前はソフィというらしい。


 キュウゥ~~ッ

 私がなにか返事をする前に、お腹の虫が空腹を主張する。
 私は顔に血が上って、熱くなるのを感じる。

 きっと今、私の顔は真っ赤になっているだろう。

 
「あっ、そうですね。ずっと寝ていて、何も召し上がってませんから――何か食べられるものをお持ちします。消化に良いもの……お粥で良いですか?」

 私がコクっと頷くと、少女は部屋を出ていった。

 ――おかしい。

 私はずっと、小食だった。
 ――ガツガツと、食事をいっぱい食べるタイプではない。


 だというのに――

 目覚めて、初めて会う――
 初対面の人たちに、お腹の音を聞かせて『ご飯が欲しいです』アピールを連続している――

 これではまるで、私が食いしん坊キャラみたいではないか。
 
 違うんです!

 そうじゃないの、私はもっとこう――

 清楚で、お淑やかな――

 ――あれ?
 なんだっけ――??


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