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それぞれの結末
第41話 聖女の終わり B
しおりを挟む奥歯が、折れている。
私の口から、血が溢れ出す。
「やってしまった以上は、とことん……やるしかない」
そう言いながらシュドナイは、私の顔を殴り続ける。
「も、もう止めッ、ぐ、グギャっ――」
私は痛みに耐えられず、聖女の癒しを使い、自分の怪我を回復させる。
「ふむ、力がなくなったわけではない。というのは本当か――」
シュドナイは観察するように、私を見つめながら呟く。
「シュッ、シュドナイあなた、私にこんな――ぷぎゃッ」
「学習能力が無いのか、貴様は?」
シュドナイはまた、私を殴りつけた。
「聖女の力がまだあるなら、殺さずにおいてやる……だが、力に限りがあるんだろ? だったら、効率的に賢く使わなければならない。これからは俺が、お前の主人となって、力の使い道を決める。いいな?」
「ふ、ふざけないでッ、わ、私に、聖女に乱暴狼藉を働くなんて、お前だけではなく、お前の家族も、親類縁者も、まとめて極刑にしてやッ……ゴォホッ」
顔面へのパンチを警戒して、両腕で顔を庇っている私の腹に、シュドナイの蹴りが入った。そのまま倒れ込んだ私の腹を、シュドナイは蹴り続ける。
「ゴッ、ごほっ、げほっ、ガッ、はぁ、はぁ……な、なにが効率的によ。こんな無意味な暴力で、ぐあっ……」
「無意味などではない、これは必要な躾だ。お前のような阿呆は、こうでもせんと解らないだろう――。お前のせいで、何人の同胞が、何の意味もなく……無駄に死んだと思っている。お前のような阿呆を、制御せずに野放しに出来るか!!」
シュドナイは訳の分からない理屈を並べ立てると、私の髪を掴んで馬のほうに歩いていき、そのまま自分だけ馬に乗ると、私の髪を握ったまま進みだした。
ピレンゾルの下っ端兵士が何人死のうが、そんなことはどうでもいいじゃない。
それってそんなに、重要なことなのかしら?
あなたの個人的な感情に、私を巻き込まないで!!
私が前世で、好きだったお笑い芸人。
『口喧嘩王』として名をはせた、彼女の決め台詞――
『そんなもん、テメーの感想だろーが!!』を使えば、私の髪を引っ張るDV男を『いい負かす』ことなどたやすい。
しかし――
私の口からは、言葉が出てこない。
そんなことを言えば、殴られる。
――怖い。
暴力のまかり通るこの世界で、『いい負かし』など無力――
DV男に蹴られた腹が、ズキズキと痛む。
私は腹の痛みに耐えかねて、聖女の癒しを使うことにする。
一瞬、DV男の許可を取ろうとするが、止めておく。
こっそりやれば、バレないだろう。
それに、私は――
こんな奴の、言いなりになる気はない。
今はこいつの暴力に屈しているが、それは今だけだ。
絶対に、復讐してやる。
私には、聖女の力がある。
味方は、いくらでも作れる。
コイツに服従するふりをして、チャンスを窺って逆襲する。
そんな決意を秘めて、私は聖女の癒しを――
……あれ?
おかしい、聖女の癒しが発動しない。
なんで……?
さっきは、ちゃんと……あれ?
おかしい……
聖女の癒しだけではなく、聖女の祈りも、光も、願いも……
すべて、使えなくなっている…………。
何らかの原因で、私は聖女の力を失ってしまったようだ。
…………まずい。
そんなことを、このDV男に知られたら…………。
「お前のような小便臭い餓鬼は、俺のタイプじゃないんだがな――こうなった以上は仕方がない……お前の主人は誰なのか――じっくりと、わからせてやる。喜べよ。お前ずっと、俺に色目を使っていただろう?」
DV男は、そう言うと――
冷たい冷めた目で、私を一瞥して前を向き、馬を進める。
何とか逃げ出そうと身をよじるが、力では到底かなわない。
髪を引っ張られる、痛い。
私は大人しく、その後を付いて行くしかなかった。
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