上 下
50 / 126
それぞれの結末

第41話 聖女の終わり B

しおりを挟む

 奥歯が、折れている。
 私の口から、血が溢れ出す。

「やってしまった以上は、とことん……やるしかない」

 そう言いながらシュドナイは、私の顔を殴り続ける。



「も、もう止めッ、ぐ、グギャっ――」

 私は痛みに耐えられず、聖女の癒しを使い、自分の怪我を回復させる。


「ふむ、力がなくなったわけではない。というのは本当か――」

 シュドナイは観察するように、私を見つめながら呟く。


「シュッ、シュドナイあなた、私にこんな――ぷぎゃッ」

「学習能力が無いのか、貴様は?」


 シュドナイはまた、私を殴りつけた。

「聖女の力がまだあるなら、殺さずにおいてやる……だが、力に限りがあるんだろ? だったら、効率的に賢く使わなければならない。これからは俺が、お前の主人となって、力の使い道を決める。いいな?」


「ふ、ふざけないでッ、わ、私に、聖女に乱暴狼藉を働くなんて、お前だけではなく、お前の家族も、親類縁者も、まとめて極刑にしてやッ……ゴォホッ」

 顔面へのパンチを警戒して、両腕で顔を庇っている私の腹に、シュドナイの蹴りが入った。そのまま倒れ込んだ私の腹を、シュドナイは蹴り続ける。

「ゴッ、ごほっ、げほっ、ガッ、はぁ、はぁ……な、なにが効率的によ。こんな無意味な暴力で、ぐあっ……」

「無意味などではない、これは必要な躾だ。お前のような阿呆は、こうでもせんと解らないだろう――。お前のせいで、何人の同胞が、何の意味もなく……無駄に死んだと思っている。お前のような阿呆を、制御せずに野放しに出来るか!!」

 シュドナイは訳の分からない理屈を並べ立てると、私の髪を掴んで馬のほうに歩いていき、そのまま自分だけ馬に乗ると、私の髪を握ったまま進みだした。
 


 ピレンゾルの下っ端兵士が何人死のうが、そんなことはどうでもいいじゃない。
 それってそんなに、重要なことなのかしら? 

 あなたの個人的な感情に、私を巻き込まないで!!


 私が前世で、好きだったお笑い芸人。

 『口喧嘩王』として名をはせた、彼女の決め台詞――
 『そんなもん、テメーの感想だろーが!!』を使えば、私の髪を引っ張るDV男を『いい負かす』ことなどたやすい。


 しかし――
 私の口からは、言葉が出てこない。

 そんなことを言えば、殴られる。
 ――怖い。

 暴力のまかり通るこの世界で、『いい負かし』など無力――





 DV男に蹴られた腹が、ズキズキと痛む。

 私は腹の痛みに耐えかねて、聖女の癒しを使うことにする。
 一瞬、DV男の許可を取ろうとするが、止めておく。

 こっそりやれば、バレないだろう。
 
 それに、私は――
 こんな奴の、言いなりになる気はない。

 今はこいつの暴力に屈しているが、それは今だけだ。
 絶対に、復讐してやる。

 私には、聖女の力がある。
 味方は、いくらでも作れる。

 コイツに服従するふりをして、チャンスを窺って逆襲する。

 そんな決意を秘めて、私は聖女の癒しを――
 





 ……あれ?

 おかしい、聖女の癒しが発動しない。
 なんで……?

 さっきは、ちゃんと……あれ?


 おかしい……
 聖女の癒しだけではなく、聖女の祈りも、光も、願いも……

 すべて、使えなくなっている…………。
 何らかの原因で、私は聖女の力を失ってしまったようだ。

 
 …………まずい。
 そんなことを、このDV男に知られたら…………。




「お前のような小便臭い餓鬼は、俺のタイプじゃないんだがな――こうなった以上は仕方がない……お前の主人は誰なのか――じっくりと、わからせてやる。喜べよ。お前ずっと、俺に色目を使っていただろう?」

 DV男は、そう言うと――
 冷たい冷めた目で、私を一瞥して前を向き、馬を進める。

 何とか逃げ出そうと身をよじるが、力では到底かなわない。



 髪を引っ張られる、痛い。

 私は大人しく、その後を付いて行くしかなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...