聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう

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聖女を追放した国の物語

第40話 聖女を追放した国の物語 B

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「聖女ローゼリアが王宮書庫から魔導書を盗み出し、悪魔召喚を企てているとの情報があった。私は真偽を確かめるために、調査に来たのだ」

「し、しかし、聖女様が、そんな――」

「聞くところによると、聖女ローゼリアは他国の軍を率いて、この街で略奪をくり返していたそうだが、事実か?」

「は、それは――はい、ですが、その……聖女様を追放した……私どもは罰を受けねばならぬと、言われまして――」

「ローゼリアは自分の意思で、この国を出て行ったのだ。そして悪魔に魅入られ、ダルフォルネを騙し、その娘のソフィを悪魔への生贄して捧げようとしている。……見よ、あれを!!」


 王子アレスが指さす方を見ると、ダルフォルネ様と兵士数名が放り投げられたかのように宙を舞っていた。

「早くこの場から逃げろ!! ローゼリアが悪魔を召喚するぞ」

 王子の話は俄には信じられないが、しかし、あの……人が空へと放り投げられる、人知を超えた現象を目の当たりにすると、とにかく、逃げ出したくなる。

 周囲にいた民衆は少しづつではあるが、後ろに向かって走り出している。


 しかし俺たち兵士は逃げるわけにもいかんし、どうしようかと迷っていると、突然体が殴られたような、ドンッという衝撃と痛みが走る。

 なんだぁ……
 と思って回りを見渡すと――
 人が、大勢倒れていて――

 少し経ってから、辺り一帯から大きな悲鳴が巻き起こった。


 俺たちは、逃げた。

 王子アレスに指揮されて動ける兵士を集めて、まだ生きている者を誘導し、怪我で動けない者を運んで――

 六万人が一斉に死んだこの……
 大量虐殺の現場から、生き残りを避難させる。

 
 俺達兵士は王子の指揮で働いていたから、逃げるのは最後になった。
 周りに転がっていた死体が、宙に浮いて空へと上がっていく。

「は、早く、逃げましょう!!」

「お前たちは先に行け。俺は聖女と聖女の呼び出す悪魔を仕留める」

「む、無茶ですよ!!」

 俺が引き留めると、王子様は馬を下りて手綱を俺に渡した。

「こいつを、連れて行ってくれ」


 王子の覚悟を決めた顔を見て、俺はもう何も言えなかった。
 




 俺たちは後ろを振り向かずに、虐殺現場から離れた。
 十分に離れてから振り返り、王子と悪魔の戦いを見た。
 
 神話として語り継がれてきた物語を、見ているような――
 そんな戦いが、繰り広げられていた。



 戦いはアレス王子が、空中に浮かぶ悪魔を討伐して終わりを迎えた。

 それから俺たち兵士は、街に散乱した瓦礫の片付けや死体の埋葬、避難民用のキャンプの設置に、治安維持のための見回りにと、大忙しだった。

 そんな目まぐるしい毎日の中で、俺が欠かさなかったことがある。

 それは炊き出しの時に、一緒に食事する仲間に、物語を語って聞かせることだ。

 ――悪魔を倒した、勇者の話。




 悪魔に魅入られた聖女ローゼリアが、この街で狼藉を働き領主を騙し、その娘を生贄にしようとしたところから始まり――

 聖女によって呼び出された恐ろしい悪魔を、王子アレスが打倒して、生贄として悪魔に殺されるところだった、ソフィ姫を救出し――

 最後は愛し合う二人が、めでたく結婚するという――
 

 俺が目撃した……
 本当にあった、おとぎ話。

 この話は人の口に乗って国中に伝わり、今ではもう知らぬ者はいない――
 これから先も、伝説となって人々に語り継がれる物語。



 この話は人から人へと、広がるうちに――

 呼び出された悪魔は実はダルフォルネ領に封印されていた破壊神だったとか――
 ダルフォルネ領のソフィ姫が、聖女と共謀した養父の悪事を暴くため、集まった民衆を相手に勇敢に告発しただとか――
 破壊神が倒されたので聖女はもうこの国で誕生することは無いとか――

 いろんな要素が組み込まれたり、取り除かれたりして、その形を変えていく。


 けれど、この物語の根幹は揺るがない。

 王子様とお姫様が、共に困難を乗り越え結ばれて、幸せに暮らしました。

 という話であることに、変わりはない。

 それが、この――
 聖女を追放した国の物語だ。 
 
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