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聖女を追放した国の物語

第39話 黄泉帰り B

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 この死体の山の上には、彼女が横たわっている。
 力を使い果たしているようだ。

 ぐったりとして動かない。


 気を失っているのか?

 俺は焦燥感に駆られて、急いで死体の山を登りきる。

 俺は彼女に駆け寄って、そこで――
 ソフィがもう、死んでいることに気付いた。


 胸にぽっかりと穴が開いたような想いで、彼女を抱きかかえる。
 そして――

 俺は迷わずに、彼女に口づけをした。



 眠りの森の美女も、白雪姫だって――
 王子のキスで、目を覚ます。

 今の俺は紛れもなく、正真正銘の王子で――
 そしてここは、物語を基にして創られた世界だ。

 だったら、一つくらい……
 ロマンチックな奇跡があってもいいだろう。


 一縷の望みに縋り、願いを込める――


 俺は君に――
 帰ってきて欲しいんだ……。
 



*************************



 アレス王子の放った戦神エネルギーの衝撃波は、猛スピードで空中に浮かぶ破壊神を突き破り、上空を覆う雲をも貫いた。

 流石は、戦神の加護だ。

 破壊神の魂を、完全に吹き飛ばした。

「――ここまでのようね」

 破壊神を構成していた中核の『破壊神の魂』が霧散した以上、あの死体の塊は形を維持できない。
 俺様が乗っ取っているソフィの身体にあったエネルギーも、そのほとんど使い果たしている。

 空に浮かぶデカブツは、徐々に浮遊する力を失いゆっくりと落下する。

 破壊神の抜け殻は、地面に接触したタイミングで――
 完全に力が途絶えて、その形を崩壊させた。


 それを見届けると――
 俺様は足元の、死体の山の上に倒れ込んだ。


 だがまあ、これだけやれれば大したものだ。

 ソフィの心の中には、膨大なエネルギーが蓄積していた。
 親に捨てられ、聖女に仕立て上げられ、人から必要とされるためだけに生きてきた。ずっと――良い子でないと、また捨てられるのではないかと恐怖していた。


 自分は、聖女ではないでは?
 との疑問は心の奥底に押し込めてきた。

 自分は偽者――
 それに気付いてしまえば、心が到底持たないからだ。

 聖女ではない自分のことなど、誰も必要とはしない。

 自分の心を守るために、真実から目を逸らし続けた。

 そして、心の中に溜まりに溜まったこの世界への怒りの感情は――
 俺様が惚れ惚れするほど、神々しく美しいものだった。



 ソフィの心に溜まった怒りのエネルギーは、六万を超える人間を殺して、自在に宙を飛ばし、挙句に破壊神を復活させることまでやってのけた。

 だが膨大なエネルギーも、そのほとんどを使い切ってしまった。


 もう指一本動かす力もない。
 だが、俺様は……
 あいつに、伝えなければ――

 しかし、もう口を動かす力はない。
 声を発することは出来ない。


 ああ、そうだ。

 『これ』があった。
 ソフィに増悪の声を効かせるために、この辺りの人間と繋げた糸がまだ残っている。こいつを使えば、残り僅かなエネルギーでもコンタクトを取れる。


 こいつを、使って――
 声を出せないのであれば、心で伝えればいいだけだ。
 
 だがもう長々と、説明をする力は無い。
 端的に、伝えなければいけない。

 これから、あいつが何をすればいいのかを――

 どうやって伝えよう。

 そうだ!!

 

 あの転生者が、前世で読んだことのある小説の……

 このヒント――

 この一言を、思い出させれば――


 ……………………。

 そこで力を使い切り、俺様はソフィの身体の中から消えた。

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