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聖女を追放した国の物語

第39話 黄泉帰り A

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 人の死体と瓦礫で出来た巨大津波が、ものすごいスピードで迫ってくる。

 広範囲の無差別攻撃。

 こんなもの、避けようがない。

 俺は戦神力を剣に宿して、剣撃を放つ。
 戦神の力を持って放たれた斬撃は、巨大津波をも切り裂いた。

 ズシャアァァアアアッっ!!!

 巨大津波は真っ二つに割れて、そのまま俺の横を通り過ぎた。
 無傷で敵の攻撃をやり過ごせたが、その代償に戦神力を一万ポイント消費した。

 俺の攻撃は、巨大な敵を切り裂くことが出来た。

 しかし――
 敵は身体を斬られバラバラになっても、すぐに集合して復活する。

 これではこちらが、一方的に力を削られていくだけだ。

 敵はその体積を減らすことなく、また球形に戻っている。





 邪竜王の黒の炎で焼き切った分と回収不能になった分で、あいつの体積は初期と比べれば約半分にまで減少している。
 
 しかし、それでも大きい。

 あれだけの巨体が――

 こちらがどれだけ攻撃しても、その体を構成する肉片を集めて吸収して復活する。
 殺しても殺しても、黄泉帰り続ける――

 そんな怪物を、どうやって倒せばいい?

 あいつのエネルギーも、無限ではないはずだ。
 動けなくなる時は来るだろうが、その時には俺はもう殺されているだろう。

 こっちの戦神力が尽きる方が、確実に早い。




 だが俺は、コイツを打倒することを諦めてはいない。
 勝ち筋は、まだある。

 俺はちらっと眼をやり、地面に突き刺したままの槍の位置を確認する。




 球形に戻った敵はさらに上空へと上昇し、俺の真上へと移動してきた。
 そこから、浮遊する力を完全にオフにして、重力に従い落下してくる。

 雨のように降り落ちてくる無数の死体を避けるために、俺は全力で走り抜ける。
 地面に激突した無数の死体はバウンドして再び集まり、その体を流動的に変形させて、俺に迫ってくる。

 俺は戦神力を込めた一撃で、奴の身体を両断する。
 また一万ポイントを消費した。


 あいつを仕留めるためのエネルギーは、残しておかなければ――
 
 力の温存を考慮すると、もう戦神力でピンチを切り抜けることは出来ない。

 敵は分断された自身を構成する死体の群れの一部を集結させずに、空中でランダムに移動させる。




 高速で空中を飛び回る無数の死体を、俺は剣で切り裂き、あるいは避けて回る。
 
 敵の本体はまたしても触手を作り上げ、それを俺に向かって叩きつけてくる。
 空中を飛び回る障害物を避けながら、振り下ろされる触手を切り裂く。
 
 俺が切り裂いて制御を失いバラバラになった肉片は、すぐに本体に吸収される。



 そんな攻防が数分、あるいは数十分続いただろうか――
 時間の進みがもうよく分からなくなったころ、俺は敵の触手を切り損ねた。
 
 敵に刺さったままの剣は、そのまま俺の手を離れて持って行かれてしまう。
 


 ――だが、問題はない。
 やっと奴の中心を、見極めることが出来た。

 俺は空中を飛び回る死体を避けながら、槍を刺してある場所へと辿り着く。
 


 俺は地面に差していた槍を、素早く引き抜いて手に取り、構えを取る。
 俺はここで勝負を決めるつもりで、残り全ての戦神の加護を邪竜王の牙で作った槍に込めて――

 上空に浮遊する集合体の、中心部を目がけて攻撃を放つ。



 今までの戦いで、コイツは自身の形を自由自在に変化させてきたが、その体の中心には必ず『核』となるエネルギーが――
 コイツの魂と言うべきものがあった。

 俺は戦いの中で、そこをずっと探して捕らえようとしていた。
 
 コイツの魂を見極めて、破壊する。


 俺の槍から放たれたエネルギーは、空に浮かぶ無数の死体を突き破り、集合体の中心を貫き、その魂を破壊して――
 そのまま集合体を丸ごと突き破って、突き進み――

 その衝撃波は、空を覆う雲を貫いて――

 厚い雲に覆われた、薄暗いこの世界に――
 僅かな晴れ間を作った。



 転生特典の戦神力を、すべて使い切った。
 
 あの上空にいた敵の魂はもう、粉々になって霧散している。

 上空に浮かんでいる集合体が、ゆっくりと落下してきている。
 そのまま地面まで下りてきて、そこで浮遊する力も途絶えたのか、完全に動かなくなった。黒い炎がどこからか燃え移り、死体の山を塵へと返している。




 
 俺が作った上空の雲の穴から、一筋の光が地上へと降り注いでいる。
 その光の先に、一人の少女が倒れていた。

 無数の死体と瓦礫の山の上の、傾いた断頭台の下に横たわっている。



 彼女の元に駆けつけるには――
 この積み重なった死体の山を、上へと昇らなければいけない。

 死体を踏みしめて上へと昇っていると、唐突に―― 
 何の脈絡もなく前世で読んだことのある小説の、ワンフレーズだけを思い出した。

 『スリーピング ビューティー……』

 なんで、今そんなことを……?
 疑問に思いながらも、俺は上を目指して山を登る。


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