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聖女を追放した国の物語

第36話 余興 A

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「ハーッ、ハーッ、ハアッ、ハァッ、ハァッ……」

 全身を支配した恐怖に抗い切れずに、私は目の前の存在に向かって、全力で『聖女の光』を撃ち込んだ。
 『聖女の光』は聖女の持つスキルの中で、唯一の攻撃手段だ。

 これは人間相手に使っても、単に眩しいだけのものだが、邪悪な性質を持つ悪魔や魔物に対しては、強力な浄化効果を発揮する。


 私の――
 『聖女』による全力攻撃、これで――

「あらあら、まだ俺様が喋ってる途中だったでしょ? 慌てないでよ。フフッ、元気が良いわね、聖女ちゃんは――何か良い事でもあったのかしら?」


 あっ、あぁ…………。

 聖女の光を――
 正面から、まともに喰らったはずだ。

 なのに――
 そいつは何事もなかったかのようにピンピンしながら、『俺様』という一人称で話しかけてくる。

 この私の、『聖女』の最大出力の攻撃を受けて、なんで???

 怖い……。
 体の震えが止まらない。

 嫌だ……。
 私の前から、消えて――

 どこか……遠くにッ、行ってしまいなさいッ!!



「うっ、うわあああああっアアッ、あああっ、アアアアアアアあッ!!!!!!」

 一撃で倒せないのならば、連撃で!!
 私は神聖力の続く限り、聖女の光を放ち続けた。

 こいつはここで、今ここで始末してしまわなければ――
 本能でそう悟った私は、後先考える余裕もなく、神聖力を使い切るまで聖女の光で攻撃を続ける。





「はぁーッ、はぁーッ、はぁーッ、はぁーッ、ゲホゲホっ」

 私の放った神聖な光で、目がぼやけて前が見えない。
 目を瞑って、視力の回復を待つ。

「はぁ、はぁ……」

 全力攻撃の連続で、乱れた呼吸も整ってくる。
 
 聖(笑)世界の聖女ローゼリアは、悪魔ベルゼブブや邪竜王ガルトルシアを、この聖女の光で仕留めている。 

 この世界の最強クラスの敵でも、倒すことが可能な力だ。


 …………けど。

 けれど、目を開けなくても解ってしまう。
 圧倒的な不吉なオーラを放って、そいつはまだ、そこに居る。

 私はもう、消えていて……、と願いながら目を開ける。

 だが、私の願いをあざ笑うように、目の前にはまだ――

 そいつが立っていた。




 「あっ、ああッ、アアアアアアッ!!!」

 私は恐怖で震え歯をガチガチと鳴らしながら、悲鳴のような叫びをあげる。

 気が付けば――
 私の股間からいつの間にか、暖かい液体が溢れ出していた。


「……気が済んだかしら?」

「バ、バカな! せ、聖女の光は、悪魔や邪竜王でさえ、な、なんでお前は――」

「ん? さっきの光? そりゃあまあ、ちょっとは痛かったわよ? でもまあ、俺様は神様の使いとか、眷族っていう位置づけな存在なわけよ。悪魔やら邪竜やらに対しては有効な攻撃でも、俺様にはイマイチなのよ。相性の問題ね」


 ……なにを、何を言ってるんだこいつは?
 神様の、使いだと??

「でもまあ、この俺様に攻撃を通せたこと、それ自体が奇跡なのよ。流石は地母神の力ってところね――誇っていいわよ。聖女ちゃん! この俺様にちょびっと痛みを与えたことを――頑張ったわね。偉いわ」





 ……聖(笑)世界に出てくる神様は、地母神ガイアだけだ。

 こんな奴を遣わすような、そんな――
 ……邪神がいるのか?

 ――なんで?



「そりゃあ、地母神だけじゃバランスが悪いからよ。それじゃあ世界は創れないからってんで、色んなのものが追加されたのよ。自動的にね」


 コイツは――
 目の前の化け物は、私の考えに対して的確に返答している。

 心が、読めるのか?
 聖女の光が通用せずに、相手の心まで読める。


 こいつが、この世界のラスボスなの?
 でも――

 どうやって、倒せというのよ。
 こんな化け物を!!!


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