上 下
31 / 126
聖女を追放した国の物語

第29話 ネタバレ

しおりを挟む
 ここはリーズラグド王国の東の僻地。
 聖女である私が何故こんな田舎まで出向いているのかというと、あの阿呆王子を捕獲する為だ。
 『聖(笑)』の展開通りに、物語を進めるために……。

 そのためには阿呆王子の軍と戦って、やっつけなければならない。




 これからこの私の物語は、こう進行することになる。

 ~ネタバレ注意よ(^_-)-☆~



 まずは阿呆王子を捕らえて連行し、牢屋に入れる。
 その後、わざと脱走させ悪魔召喚の魔術書が置いてある部屋へと誘導する。

 阿呆王子は事態を打開する為に、悪魔に助力を乞うだろう。
 悪魔は偽聖女を生贄として、要求するはずだ。

 公開処刑を行う予定の偽聖女の所まで、阿呆王子はやってくる。

 衆目にさらされる中で、悪魔を召喚させる。
 おぞましい悪魔を召喚した阿呆王子は国民から嫌われ、華麗に悪魔を退治する私は聖女としてさらなる名声をえる。

 私が最後に、この国を捨て去って『ざまぁ』完成。

 ピレンゾルに帰還した私は、ピレールと結婚式を挙げてハッピーエンドとなる。




 完璧な計画――
 文句なしの筋書き、最高の物語だ。 

 そのための第一段階としてダルフォルネに命じて、阿呆を挑発しておびき寄せた。

 戦争などという野蛮なことには知識が無いので、そっちは部下に任せている。
 私の役目は聖女の癒しを、決められたタイミングで発動するだけだ。

 たまに気分のいい時には、ボーナスで癒しを追加してあげたりもする。




 戦争というのはどういうものか、少しだけ興味があり初日は観戦していたが、思ったよりも地味で見応えが無かった。
 それ以降、戦場を見物したことは無い。

 勝ちが決まっている戦いだ。
 見ていてもつまらない。

 ……敵が降伏した後で、敵兵を処刑するのは楽しそうだが――

 そうだ! 
 阿呆王子に味方の首を斬らせてやろう――
 お前が、部下を処刑しろ。

 それを降伏の条件にするのだ。  

 早く降伏してこないかしら――




 ――あら?

「なんだか、外が騒がしいわね?」

 専用の豪華な天幕で朝食を取りながら、外の様子がおかしいことに気付いた。


 聖女十字軍が阿呆王子を懲らしめる為の、聖戦を行っている最中だ。
 
 戦場に近いこの天幕にも戦いの騒音は響いてくるが、こんなに近くで騒がしくなったことなどない。ひょっとして阿呆王子を捕らえた部隊が戻ってきたのだろうか?

 捕らわれの阿呆王子の顔を拝もうと立ち上がると、天幕に険しい形相をしたシュドナイが入ってきた。
 シュドナイは聖女十字軍の副団長で、私の頼れる側近だ。

「聖女様! 緊急事態です!! ご無礼を、お許しください――」

「ええっ??」

 シュドナイは私を抱き上げると、外に連れて行き馬に乗せる。
 私の後ろにシュドナイも飛び乗り、馬を走らせる。


 私達の後ろには、聖女親衛隊が数人追従してくる。

「ちょ、ちょっと待ちなさいシュドナイ。戻って、阿呆王子を懲らしめないと――」

「聖女様、それどころではありません!! 反乱です。軍の大半が聖女様に反旗を翻しました!!」

「は? 何よそれ? 反乱? なんで?? 私は聖女なのよ!!」

「おそらく、食料が無くなったのが原因かと。一般兵への支給が昨日から滞っておりましたので――」

「は、はぁ? なによそれ、そんな馬鹿みたいな理由で反乱ですって? 食料なんてその辺の住人に提供させればいいのよ!! パンが無ければ略奪すればいいのッ!
そうよっ、聖女への寄進よ。ありがたがって差し出すわ」

「それが、この辺りの農村は、部下たちが遊び半分に燃やしてしまっていて、略奪した分以外は燃えているでしょう。そうでなくとも、千人規模の兵士を賄う量は調達出来なかったと存じます」

「千人? 一般兵は二千は居るでしょ?」

「いえ、敵軍との戦闘で、半分ほどに減っております」


 そんな馬鹿な。
 なぜそんなに、兵士が減っているの?

 聖(笑)では聖女のいるピレンゾル軍は、阿呆王子の軍隊を打ち破るのだ。

 負けるはずがない。

 では、なぜこんな状況に陥っているのだ?

 もしやダルフォルネの奴が、裏切ったのか?
 いや、あの馬鹿に私を出し抜く芸当が出来るとは思えない――

 ……ではなぜ?

 




 考えても解らなかったが、とりあえず状況を確認する。

 あの戦場から一日かけて馬を走らせ、野宿をしている。

 野宿など御免だったが、シュドナイが私の身の安全のためだと言って聞かなかった。民家の住人を追い出して寝床を確保すればいいのに――

 ひょっとしたらシュドナイは、野宿の方が私と密着できると考えて、こんな提案をしたのかもしれない。
 
 私はシュドナイの逞しい胸にこの身を預け、これからどうするかを考える。





 聖女十字軍に反乱が起こり、その混乱からここまで逃げてきた。
 逃げることが出来たのは、私とシュドナイの他は親衛隊が五人だけ。

 この数では流石に、阿呆王子を捕らえるのは無理だろう。
 それどころかここに敵の軍勢が来れば、私の方が捕らえられてしまうではないか。

 まずは戦力を確保しなくては――
 とりあえずは、ダルフォルネを利用する。

 あいつの持つ軍事力で、私を守らせればいい。

 
 そして、阿呆王子を捕らえてからの計画を大幅に変えなくては……。

 阿呆王子の捕獲に失敗した以上は、計画の変更はやむを得ない。


 偽聖女の公開処刑を早めよう。
 中央の大広場に、処刑場はすでに完成している。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...