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聖女を追放した国の物語

第21話 聖女の憂鬱

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 阿呆王子の国から聖女の力を行使してなんとか追放された私は、王子ピレールを探して荒野をさまよった。

 ピレールは王国第三騎士団に在籍し、辺境に赴き魔物討伐の任に就いていた。
 任務中に大怪我を負ったピレールを発見した私は、即座に聖女の癒しを使いピレールを治療する。

 聖なる力で回復したピレールは、私のことを聖女だと瞬時に悟り自分の国に来て欲しいと懇願してきた。

 ピレールに誘われた私は、少しもったいぶった後で快く誘いに応じてあげた。
 


「――ようやくだわ」

 ここから聖女ローゼリアの、華麗なる復讐の物語が始まるのだ。




 王子ピレールに連れられて、私はピレンゾル王国の首都にたどり着いた。

 王都に着いた私は、王宮に招待される。
 これから国王に謁見して、聖女の祈りをこの国に捧げて欲しいと頼まれたのだ。


 それはまあ、良いのだが――
 国境からここまでの、十日間の旅は不満の連続だった。


 騎士団から提供される食事は粗末なものだし、泊まる場所は野宿が基本で、寝て起きたら全身が痛いし、虫に刺されている。

 何よりもがっかりしたのは―― 
 ピレールの貧弱さと、頼りなさだ。


 ここまでの旅で戦う姿を何度か見たが、はっきり言って部隊の足手まとい以外の何者でもなかった。
 怪我を負うことも多く、その度に私が癒しの力を使わなければいけなかった。

 ――ちょっとだけ、ウザくてイラっとした。



 そういえば――
 あの阿呆王子を見た時に、少し違和感を感じたことを思い出す。
 漫画で見た姿よりも心なしか……逞しい身体つきになっていたように思う。


 それもあってか、ピレールの虚弱ぶりに不満が溜まる。
 だが、ピエールはまだ十二歳のはずだ。

 その年齢で大人に交じって戦っているのだから、足手まといなのも当然と言える。
 成長すればきっと、私にふさわしい強くて優しい王子様になるだろう。


 なにしろ、この私の――
 ヒロインの結婚相手なのだから。



 そう、考えていたのだが――
 ピレンゾルの王都で王に謁見をして、祈りをこの国に捧げ、晴れて聖女の認定を受けた私に……紹介された婚約者はピレールではなかった。


 私の婚約者はこの国の第一王子。
 正妻の息子の、ブタのような男に決まった。

 ピレールは側室の息子で、継承順位は第三位らしい。
 聖女のお披露目会が終わると、ピレールは追い払われるように騎士団の任務に戻り、王都を後にした。


 聖女の結婚相手が第一王子なのは分かる。

 当然だ。

 しかしなぜそれが、ピレールではないのか?



 小説で私とピレールは、お互いを尊重し合って愛し合い、結婚するはずだ。
 第一王子がピレールでなければ、話が合わない。
 
 私の結婚相手が変更されている。
 しかも紹介された婚約者の王子は、生理的に受け付けない見た目だった。
 


 こんなのはおかしい。
 そもそもこんな奴、聖(笑)に存在していない。

 どうして、こうなったのだろう?
 ピレールではなくて、この豚男が危険な魔物退治に出て行けばいいのに。 


 あの駄女神は原作を忠実に再現するという、最低限のマナーも持ち合わせてはいないらしい。



「あなたはピレール様のように、魔物退治はなさらないのですか?」

 遠回しに嫌味を言ってやると――

「ぐふふ、そんな野蛮で危険なことは、第一王子である私のすることでは無いのだよ。そんな事も解らないのか? 聖女といっても所詮は平民だな。……ププッ」

 こいつと、結婚……。



 私は与えられた自室に入ると、『聖女の願い』を使うことにした。

 叶える願いはただ一つ、『ピレールを次期国王にする』。
 ただ、それだけ。

 私は聖なる祈りのポーズで目を閉じて、スキルを発動しようとするが――
 願いはキャンセルされてしまった。


 どうして?
 混乱する私に、原因が表示される。

 『神聖力が足りません。要求された願いを叶えるには、神聖力が十五万ポイント必要です』

 ……はぁ??

 なんですって?
 なんでそんなにかかるのよ?

 小説通りの展開に戻すだけでしょ?

 ぼったくりだわ!! 
 ……そんなのどうしようもないじゃない。


 『願いを叶えるために、あなた自身の存在力を消費しますか?』


 絶望する私に、別の選択肢が提示される。



「存在力? なにそれ? 私の存在の力? 願いを叶えるために私が消えるってこと? 冗談じゃないわ。そんなの本末転倒じゃない!!」

 私は正当な抗議の声を上げるが、それ以降は別の選択肢の提示は現れない。


 どうすれば――
 八方ふさがりに陥った私は、暗澹たる想いで部屋を見渡す。


 そこでふと目をやった机の上に、一枚の紙きれが置かれていることに気付く。



 そこには――

 私を追放したダルフォルネからの、メッセージが書かれていた。
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