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聖女を追放した国の物語
第12話 見えているぞ
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俺達は馬を飛ばし一日かけて、アルデラン領へと到着した。
アルデラン領は、領地の西と東にそれぞれ大きな町がある。
領主の屋敷は東の町の郊外にある丘の上、領内の中央寄りにある。
屋敷といっても要塞を兼ねた造りになっていて、防御力は高い。
到着したての俺は、西の町にいる。
部隊の補給は地元の傭兵団や、懇意にしている商会から受けることが出来る。
魔物退治で国内を飛び回っていたことで、伝手が出来ている。
西の町の傭兵組合で、補給を取りながら戦況を確認する。
ゾポンドートの先遣隊がすでにアルデラン領に入り込み、領主の館を包囲して陣を敷き、自分たちに恭順するよう使者を送っている。
それに対し、アルデランは兵二百を屋敷に配置して籠城の構えを取り、ゾポンドートの要求を拒否している。
兵隊を動員するにも、結構な手間と時間がかかる。
十分な戦争準備をする前に、屋敷を包囲されてしまっていた。
だが逆に言えば、まだ領内には動員できる兵が残っているということでもある。
包囲を崩すことが出来れば、戦力を拡充できる。
それに領主の保有戦力以外に、民間の傭兵組織も戦力として使える。
俺は傭兵ギルドと連携して、西の町ですぐに動ける傭兵を動員する。
*************************
ゾポンドート侯爵軍先遣隊隊長レポリンズは、三度目の降伏勧告にも応じなかったアルデラン伯爵を攻め潰すことにした。
レポリンズは鍛え抜かれた屈強な肉体を持つ中年貴族で、その風貌が示す通り好戦的な性格をしている。その彼がここまで攻撃に出なかったのは、主君であるゾポンドートから、くれぐれも無理責めしてはならぬと言い含められていたからだ。
ゾポンドート軍の本隊は一万の軍勢だ。
たとえ今はこちらの要求を突っぱねていても、先遣隊が本体と合わさり一万の軍勢になれば、アルデラン伯爵も国王を裏切るよりほかないだろう。
それでも国王に忠義を尽くすのであれば、大軍でもって踏みつぶせばいい――
先遣隊の役割はアルデラン伯爵に圧力をかけて、身動きできぬように押さえておく――それが最重要任務だ。
それは重々解っているのだが――
ここでアルデラン伯爵を、早期に仲間に引き入れる。
もしくは、打ち取ることが出来れば――
大手柄になる。
レポリンズは功績を立てたかった。
中級貴族の八男に生まれた彼は、ずっと肩身の狭い思いで生きてきた。
いつか出世して、周囲を見返してやる。
そんな野心が、彼にはあった。
しかし、社交や書類仕事は不得意だったため、自身の恵まれた体格に賭けた。
強くなって、騎士として立身出世するのだ。
幼い日より鍛錬を怠ることは無かった。
そんな彼に、天は味方した。
聖女が国外追放されて、国中から魔物が発生するようになったのだ。
ゾポンドート侯爵領でも、魔物と戦える戦士の必要性は高まった。
レポリンズは魔物討伐の任務をこなし、その功績で千の部下を率いる大隊長にまで上り詰めた。
さらに主君ゾポンドートは、無能な国王になり替わり自らが王になると宣言。
兵を挙げる決意をした。
この戦に勝利すれば、自分はさらに上の地位に就くことが出来るだろう。
どのくらい出世できるかは、立てた武功しだいだ。
本体が到着する前に功績を上げたい――
籠城しているとはいえ敵兵は約二百と報告を受けている。
こちらは千人、三倍以上の兵力差がある。
兵糧攻めにするため、敵の包囲に二百の兵を割いているが、それでも八百の余力があるのだ。攻めれば敵将を打ち取れるだろう。
レポリンズは暫らく思案してから決心する。
部隊長を集めて総攻撃を指示しようとしたところに――
「館の西方向から攻撃! 敵の兵力は目算でおよそ百――屋敷を包囲中の部隊が襲われています!!」
敵襲の報告が入った。
「――ほう」
レポリンズは笑みを浮かべる。
「カモがネギをしょって、やってくるとはな――」
レポリンズは中隊長三名に迎撃を命じる。
中隊長一人が百の兵を束ねているので、総勢三百で迎撃することになる。
「包囲してなるべく多く捕らえろ!! 敵城内の士気を砕く――」
基本的に籠城という戦術は、増援が来ることで成立する。
救援に来た友軍が蹴散らされ、むごたらしく処刑される様を見せつけてやれば、籠城兵の戦う気力も萎えるだろう。
敵軍の士気を低下させれば攻略は容易くなる。
レポリンズは本陣を動かずに戦況を見極める。
「敵軍は後退していきます。追撃に移りますか?」
そこでレポリンズは違和感を覚えた。
逃げるのが、早いような――
自軍の三倍の兵力が迎撃に来たのだから、撤退は当然としても……判断が早すぎる。まるで打ち合わせをしていたかのような――
そうかッ!!
「迎撃部隊はそのまま追撃に移れ。第八から第十部隊はここに残って待機、残りは俺と共に出撃だ!!」
レポリンズの読みでは包囲網を攻撃してきた部隊は囮で、こちらが誘いに乗って追撃したところを、待ち伏せしている敵の主力が背後から奇襲してくる――と見た。
アルデラン伯爵はこちらの動きを察知できずに、不意を突かれている。
国王側が援軍を送るとして、このタイミングで到着できるのは、足の速い騎馬で編成された部隊になるはずだ。
それもこの短期間では、大部隊は用意できないだろう。
――敵の主力は少数の騎馬隊。
レポリンズは地図を覗き込みながら、自身の想定を元に敵の主力が待ち伏せしていると思わしき場所に当たりを付ける。
地図を指で、トントンと叩きながら――
「敵が待ち伏せするならば、隠れるのは……ここだな――ふっ、くははッ、見えているぞ。敵軍の将よ!! 貴様の考えと、その姿がな――」
館にいるアルデラン伯爵が打って出てきた場合の備えとして、予備兵力を残し、動員できる二百の兵を率いて、敵側の救援隊の主力を叩くため――
レポリンズは出陣した。
アルデラン領は、領地の西と東にそれぞれ大きな町がある。
領主の屋敷は東の町の郊外にある丘の上、領内の中央寄りにある。
屋敷といっても要塞を兼ねた造りになっていて、防御力は高い。
到着したての俺は、西の町にいる。
部隊の補給は地元の傭兵団や、懇意にしている商会から受けることが出来る。
魔物退治で国内を飛び回っていたことで、伝手が出来ている。
西の町の傭兵組合で、補給を取りながら戦況を確認する。
ゾポンドートの先遣隊がすでにアルデラン領に入り込み、領主の館を包囲して陣を敷き、自分たちに恭順するよう使者を送っている。
それに対し、アルデランは兵二百を屋敷に配置して籠城の構えを取り、ゾポンドートの要求を拒否している。
兵隊を動員するにも、結構な手間と時間がかかる。
十分な戦争準備をする前に、屋敷を包囲されてしまっていた。
だが逆に言えば、まだ領内には動員できる兵が残っているということでもある。
包囲を崩すことが出来れば、戦力を拡充できる。
それに領主の保有戦力以外に、民間の傭兵組織も戦力として使える。
俺は傭兵ギルドと連携して、西の町ですぐに動ける傭兵を動員する。
*************************
ゾポンドート侯爵軍先遣隊隊長レポリンズは、三度目の降伏勧告にも応じなかったアルデラン伯爵を攻め潰すことにした。
レポリンズは鍛え抜かれた屈強な肉体を持つ中年貴族で、その風貌が示す通り好戦的な性格をしている。その彼がここまで攻撃に出なかったのは、主君であるゾポンドートから、くれぐれも無理責めしてはならぬと言い含められていたからだ。
ゾポンドート軍の本隊は一万の軍勢だ。
たとえ今はこちらの要求を突っぱねていても、先遣隊が本体と合わさり一万の軍勢になれば、アルデラン伯爵も国王を裏切るよりほかないだろう。
それでも国王に忠義を尽くすのであれば、大軍でもって踏みつぶせばいい――
先遣隊の役割はアルデラン伯爵に圧力をかけて、身動きできぬように押さえておく――それが最重要任務だ。
それは重々解っているのだが――
ここでアルデラン伯爵を、早期に仲間に引き入れる。
もしくは、打ち取ることが出来れば――
大手柄になる。
レポリンズは功績を立てたかった。
中級貴族の八男に生まれた彼は、ずっと肩身の狭い思いで生きてきた。
いつか出世して、周囲を見返してやる。
そんな野心が、彼にはあった。
しかし、社交や書類仕事は不得意だったため、自身の恵まれた体格に賭けた。
強くなって、騎士として立身出世するのだ。
幼い日より鍛錬を怠ることは無かった。
そんな彼に、天は味方した。
聖女が国外追放されて、国中から魔物が発生するようになったのだ。
ゾポンドート侯爵領でも、魔物と戦える戦士の必要性は高まった。
レポリンズは魔物討伐の任務をこなし、その功績で千の部下を率いる大隊長にまで上り詰めた。
さらに主君ゾポンドートは、無能な国王になり替わり自らが王になると宣言。
兵を挙げる決意をした。
この戦に勝利すれば、自分はさらに上の地位に就くことが出来るだろう。
どのくらい出世できるかは、立てた武功しだいだ。
本体が到着する前に功績を上げたい――
籠城しているとはいえ敵兵は約二百と報告を受けている。
こちらは千人、三倍以上の兵力差がある。
兵糧攻めにするため、敵の包囲に二百の兵を割いているが、それでも八百の余力があるのだ。攻めれば敵将を打ち取れるだろう。
レポリンズは暫らく思案してから決心する。
部隊長を集めて総攻撃を指示しようとしたところに――
「館の西方向から攻撃! 敵の兵力は目算でおよそ百――屋敷を包囲中の部隊が襲われています!!」
敵襲の報告が入った。
「――ほう」
レポリンズは笑みを浮かべる。
「カモがネギをしょって、やってくるとはな――」
レポリンズは中隊長三名に迎撃を命じる。
中隊長一人が百の兵を束ねているので、総勢三百で迎撃することになる。
「包囲してなるべく多く捕らえろ!! 敵城内の士気を砕く――」
基本的に籠城という戦術は、増援が来ることで成立する。
救援に来た友軍が蹴散らされ、むごたらしく処刑される様を見せつけてやれば、籠城兵の戦う気力も萎えるだろう。
敵軍の士気を低下させれば攻略は容易くなる。
レポリンズは本陣を動かずに戦況を見極める。
「敵軍は後退していきます。追撃に移りますか?」
そこでレポリンズは違和感を覚えた。
逃げるのが、早いような――
自軍の三倍の兵力が迎撃に来たのだから、撤退は当然としても……判断が早すぎる。まるで打ち合わせをしていたかのような――
そうかッ!!
「迎撃部隊はそのまま追撃に移れ。第八から第十部隊はここに残って待機、残りは俺と共に出撃だ!!」
レポリンズの読みでは包囲網を攻撃してきた部隊は囮で、こちらが誘いに乗って追撃したところを、待ち伏せしている敵の主力が背後から奇襲してくる――と見た。
アルデラン伯爵はこちらの動きを察知できずに、不意を突かれている。
国王側が援軍を送るとして、このタイミングで到着できるのは、足の速い騎馬で編成された部隊になるはずだ。
それもこの短期間では、大部隊は用意できないだろう。
――敵の主力は少数の騎馬隊。
レポリンズは地図を覗き込みながら、自身の想定を元に敵の主力が待ち伏せしていると思わしき場所に当たりを付ける。
地図を指で、トントンと叩きながら――
「敵が待ち伏せするならば、隠れるのは……ここだな――ふっ、くははッ、見えているぞ。敵軍の将よ!! 貴様の考えと、その姿がな――」
館にいるアルデラン伯爵が打って出てきた場合の備えとして、予備兵力を残し、動員できる二百の兵を率いて、敵側の救援隊の主力を叩くため――
レポリンズは出陣した。
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