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聖女を追放した国の物語

第10話 情報共有

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 ゾポンドート侯爵に反乱の兆しあり――。



 この事態にどう対処するかの会議を開催している。

 場所は、俺の領地にある屋敷の会議室。

 参加者は親衛隊を筆頭に――
 傭兵、情報、暗殺、それぞれのギルドへの出向者。
 魔物討伐時に、一緒に行動する戦士達。
 頭脳労働専門の官僚、行政官、研究者。

 それにメイド長のゼニアスを筆頭に、メイドのリリム達がお茶を配っている。


 この場に集まっているのは、全員女性。
 この屋敷に入れるのは、俺の妾候補だけだ。

 ここにはいないが、王都には懇意にしている高位貴族の令嬢たちもいる。
 彼女たちには王宮での政治工作を、必要に応じて頼んでいる。


 十歳の時に小説の悪役王子に転生したと気付いた時から、試行錯誤する中で集めた者たちだ。

 あれから五年、随分と集まった。




「まずは確認なんだが――本当にゾポンドートは反乱を起こそうとしているのか?」
「間違いない」

 俺の問いに即答したのは、暗殺ギルドのリーナだ。

「根拠は?」
「暗殺者が送り込まれた。全部始末した」

 すでに俺と国王に向けて、暗殺者を送り込んでいたらしい。

 それだと確定だな。


 暗殺ギルドは大昔に、王家が出資して設立された組織だ。
 もちろん公にはされていないし、組織自体が一般に知られていない。

 権力者や金持ちがその存在を探り当てて依頼してくれば、情報が筒抜けになる仕組みだ。ギルドの下っ端はそんなこと知らずに依頼があれば本気で殺しに来るが、王族にはレベルの高い暗殺者が護衛についている。

 問題なく、返り討ちに出来る。

 
 暗殺の成功率は高くはない。
 ゾポンドートも、本気で暗殺が成功するとは思っていないだろう。
 ダメもとで依頼しているはずだ。
 
 暗殺は攻撃手段の一つ、本命はやはり軍隊だ。

「敵軍の動きは?」

「情報ギルドからの報告をまとめますと、敵の先遣隊はすでに近隣の領主に自軍に加わるように圧力をかけています。敵本隊は現在兵を集めて編成の最中です」

 軍事部門を代表してクリスティーヌが報告してくれた。


 
「さて、これからどうするかだが――」

「別に、なにもしなくて良くない?」

 俺の問いかけに心底どうでも良さそうに答えたのは、高位貴族のロザリアという名前の娘で、窮屈な社交界が嫌になり家を飛び出した女だ。
 今は俺のところに身を寄せて、過去の文献の研究をしている。

 彼女は優秀なので農業関連の研究も携わって貰ているが、本当は過去の文献や資料を読み解く、歴史の研究に専念したがっている。



 ゾポンドートの反乱など、どうでもいいのだろう。

「それにさ、反乱をどうにかするのは国王様のお仕事でしょ?」

 うん、まあそうだな。

「ゾポンドートなんて、放置しとけば勝手に暴れて自滅するよ」

 確かに、その可能性は高いと思う。
 ゾポンドートが軍を率いて王都を攻めても、勝てる可能性は低い。


 だが俺が『嫌われ役の王子』であることを考慮すると、そう都合よくいくだろうか? 俺は俺の未来を楽観視しない。


「世の中に絶対はない。今の政治情勢だとゾポンドートに同調する貴族も現れかねないし、こちらが討伐隊を組もうにも、有力貴族が戦力を出し渋る可能性が高い――」


 ゾポンドートが『暴れた』後の、国土を相続するのはこの俺だ。
 放置はしたくない。
 
 それに、気がかりなのは反乱だけではない。




 俺たちは情報や知識を集めて、この領地で農業改善を進めている。
 成果は着実に出ているが、将来に対しての懸念材料もある。


 ロザリアの行っている古代史の資料研究によれば、この国――リーズラグドには七つに引き裂かれた破壊神の一柱が封印されている。

 聖女の不在期間が長期に及んだ時代では、この国の南部を中心に作物のまったく育たない『死の大地』と呼ばれる状態に陥っていた。

 恐らくは破壊神の一部が封印されている影響だろう。
 
 聖女の発生率の高い地域と、破壊神が封印されている土地は、ほぼ一致している。

 そのことから、地母神ガイアが聖女を誕生させているのは、破壊神の封印が大地に与えている負の影響を緩和させることが目的なのではないか、と考えられる。


 短期では成功していても、長期的に見ると聖女抜きでは――俺の行っている改善ではどうにもならないレベルで、土地が死滅する可能性がある。

 そうなった場合のことも想定して、対策を立てる必要がある。


 そのためにもゾポンドートの反乱を、最小限の損害で切り抜けたい。




「まあ、アレス様がそう言うなら、反対はしないけど――そもそも、いっつも一人で突っ走ってるんだから、会議とか意味なくない?」

 いまのロザリアの発言には、この場にいる全員が大きくうなずいた。



「そうだな。俺は――単騎で東へ行くから。これからの方針と情報の共有はしておきたかったんだ」

「また、無茶を……せめて、ちゃんと軍勢を集めてから――」
 

 メイド長ゼニアスをはじめ、心配性な面々が苦言を呈してくる。

「それには時間と、金が掛かる」
 
「ですが、王子自ら……そんな危険を――」

 確かに危険だ。
 普通は第一王子が率先して、そんなことはしない。

 だが俺は、やらなければならない。
 

 例えば――
 俺がもし魔物退治をせずに、王宮に引き籠っていれば国民はどう思うだろう?

 本物の聖女との婚約を破棄して国外追放した王子が、皆が苦しんでいるのに自分だけ安全な王宮で贅沢をしていると見られたら――



 それこそ小説通りの、破滅人生へと一直線になる気がする。

 危険だからと言って安全策を取っていられない。
 ここで無茶をしなければ、俺の人生は変えられないと思う。


 それに――
 俺にはまだ、転生特典という保険もある。

 出たとこ勝負になるが、不安は無かった。

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