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聖女を追放した国の物語

第9話 三年後の世界

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 俺は王都近くに、小さいながらも領地を持っている。

 領地経営の経験を積みたいと国王と王妃にねだって、委任されている土地だ。
 これまで集めた農業技術の、実践と検証を行う目的で手に入れた。

 さらに、自分で自由に動かせる騎士団も作った。


 小さい領地なので動員兵力は騎士二十名が限度だが、魔物討伐をくり返し全員手練れになっている。


 兵種は騎馬隊。

 ――理由は、俺が好きだから。

 攻撃と機動力にステータスポイントを全振りし、防御力ゼロのこの兵種が好きだ。

 ついでに馬も好きだし、女騎士も好きだ。
 だから騎馬隊を作り上げた。



 農業関連の進捗状況も、今のところは順調だ。

 聖女の加護があるうちは、適当に種を蒔いておくだけでも収穫が十分期待できた。  
 特に工夫することもなく、それだけで豊作になる。
 肥料は必要ない。
 害虫や害獣の被害も発生しない為、農薬も必要ない。


 誰も彼もが、聖女の加護を有難たがるわけだ。
 
 それが当たり前になっていたリーズラグド国民にとって、聖女の加護が無くなるのは死活問題だった。
 農業関連の知識や経験は、すでに失われてしまっている。

 だがしかし、周辺国では加護無しで農業は行われている。
 この国にだって、聖女の加護の途切れた時代はあった。
 

 探せばこの国の書物にも、昔の農業技術の蓄積が記載されていた。
 周辺国の農民にも、知恵と工夫はある。

 それらを集めて、有用なものを選りすぐって活用していく。



 集めた技術や知識の運用は、俺の部下が領内の農民を指導して行わせている。

 成果は上々だ。



 聖女の加護がなくなり、定期的に湧き出るようになった魔物対策は、傭兵ギルドが国内の魔物討伐組織を作り対応している。

 俺が作った騎馬隊もその機動力を活かして、手の足りない地域を回っている。




 魔物は退治すれば、経験値が手に入り職業レベルが上がる。
 新米の兵士や傭兵のレベルも向上して、なんとか魔物に対抗できている。


 俺は自身の騎士団と共に率先魔物退治に赴き、各地の領主に恩を売って回った。
 懇意の領主を増やして、有用だった農業技術のアドバイスも行う。


 それと同時に、情報ギルドを使って、自分の武勇伝を積極的に広めている。



 聖女追放から三年経った。
 聖女の加護無しでも、やっていける体制は着々と進んでいる。



 ただ、俺からの支援を完全に拒否している貴族もいる。
 ダルフォルネとゾポンドートだ。

 ダルフォルネは優秀な政治家だ。
 俺の助けはいらないのだろう。
 自分の領地のことは、自分で何とかする。
 放っておいてもいいだろう。


 問題は王国に対して反乱を起す準備を進行中、との情報のあったゾポンドートだ。


 あいつは聖女追放から二年経った頃から、頻繁に国王に対して賠償を要求するようになった。



 真の聖女はローゼリアであった。
 それを偽物として追放したが為に、計り知れない損失が出た。
 国王は賠償しろ!!

 これがゾポンドートの言い分だ――
 まあ、そう言いたくなる気持ちも解らなくはないが、自分もローゼリアを偽聖女と言って追放に加担したことを、都合よく忘れているのは如何なものか。



 そのゾポンドートの領地はというと、聖女追放前から領民に重税を課して餓死者が出る状態だったそうだ。
 さらに加護が無くなったことで、状況は絶望的らしい。

 財政事情の悪化でさらなる金欠に陥ったゾポンドートは、昔以上になりふり構わなくなった。

 税収が減り、借金がさらに膨れ上がったゾポンドートは、自領内の複数の商会の代表者の首を刎ねて、借金を踏み倒した。

 その結果、領内の流通を担っていた商会が機能不全に陥り、物資と金の流れが滞ることになった。


 ゾポンドートの領地は頻発する魔物の対処もままならず、領民は重税に苦しみ、商会が機能不全に陥ったことで、経済が完全に麻痺している。



 ゾポンドートはもうどうにもならなくなって、王家を相手に戦争を始めようとしている。

 盤上競技で負けが濃厚になると、激昂して盤をひっくり返すタイプなのだろう。
 
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