上 下
7 / 85
聖女を追放した国の物語

第7話 国務大臣ダルフォルネ

しおりを挟む
「どういう……ことだ?」

「まだ何があったかは――現在、捜査隊を派遣しております」

「調査報告がくれば、逐一、全て知らせろ」

「はっ!!」

 私は自身の治める領地にある、南の国境の砦に来ている。
 隣国へと追放したと見せかけた『聖女ローゼリア』の捕獲を見届けるためだ。

 ローゼリア追放を遂行している人員は、すべて私の手の者だ。
 王家の監視官は追放を見届けて、すでに帰還の途に就いている。

 ここまでは予定通り。
 最後の仕上げはローゼリアを連れ戻して、我が領内の牢屋に放り込み聖女の祈りを使わせ続ける。
 そこで、この計画は完成する。
 だが、二年前から進行させていた計画に、最後の最後で狂いが生じた。



 ローゼリアを確保し帰還せよ、と伝令兵を出してから四時間経つ。
 調査隊が順次持ち帰る情報を、私は整理していく。


 どうやら、ローゼリアを乗せた馬車が複数の魔物に襲われたらしい。
 破壊された馬車の破片と、食い散らかされた兵士の肉片が散乱していたそうだ。

 だがまだ希望はある。
 ローゼリアの遺体は発見されていない。

 彼女は聖女だ。

 魔物を追い払う、結界を張れる。
 そして自身の傷を、治すこともできる。
 魔物の襲撃から生き延びることが出来た可能性は高い。


 それから暫く経ってからの追加報告で、ローゼイリアのものと思わしき足跡がピレンゾルの方へと向かっているのが確認された。

「奴は隣国へと向かったか――」




 今からでも軍を編成して捕獲に向かうか?

 いや……ピレンゾル側に気付かれれば、国際問題に発展する。
 町にたどり着く前に、捕獲できれば――


 私がそう考えていたところに、新たな調査報告が届いた。
 ローゼリアが、ピレンゾルの辺境魔物討伐部隊と接触。

 兵士たちの傷を癒し――
 聖女であると気付かれた模様――
 ピレンゾルの軍隊に守られて移動中――

「なん、だと――」


 最悪だ。

 ローゼリアが聖女であると知られる前ならば、工作員を動員して強引に連れ戻す手も打てたが――
 聖女と知ればピレンゾルも簡単には手放すまい。



 外交交渉で取り戻すのも絶望的だ。

 我が国が本気で戦争を吹っ掛ければ恐らく勝てるだろうが、ピレンゾルとの戦争を国王に納得してもらうだけの大義名分がない。

 ローゼリアの国外追放を進言し主導したのは、他ならぬ自分なのだから――


 まさか、こんなことになるとは――

「どうして、こうなった――?」


 途中までは完璧だったのだ。

 二代目聖女がお亡くなりになってから、農作物の収穫量が徐々に減り出した。
 その状況が改善された時から、国王周辺の情報収集を念入りにした。

 ゾポンドートが国王に聖女発見の報告を行った情報が入る。


 私はすぐに対抗策を打った。

 自分の領内に聖女がいるという話を、国王と王子の耳に入れたのだ。
 事前に布石を打ったことで、自分が擁立する『聖女』の信憑性を高めた。



 聖女が生まれたのがゾポンドート領でなければ、私もそんなことはしなかった。

 ――だが奴は
 ゾポンドートだけは駄目だ。

 ゾポンドートは自分の領地の経営すらまともには出来ずにいる。

 部下の不正や横領にも気付かない。
 自身も部下に唆されて、国を相手に横領を行いだす始末。
 膨大な借金を抱えて税金を大幅に引き上げ、民には餓死者も出始めているという。

 長年聖女の加護を受けてきた豊かなこの国で、どうすれば餓死者を出せるのか?

 このような人物が聖女の養父となり、王子の正妻になって中央政治に関与しだせばどうなるか?

 国のためを思えばこそ、捨て置くことは出来なかった。




 ゾポンドートの養女ローゼリアは偽聖女。

 真の聖女は私の養女ソフィであると、二年前から王家と有力貴族に根回しをして、ローゼリアをゾポンドートから引き離すため、国外追放を言い渡した。
 
 その後、国外追放されたローゼリアを回収して自分の領地に拘留すれば、すべては丸く収まったのだ。


 だが計画は最後に、魔物の襲撃というアクシデントが発生して頓挫してしまった。
 
 不運だったとしか言いようがない――
 しかし、いつまでも嘆いていても仕方がない。


「ピレンゾルに諜報員を送って、ローゼリア周辺の情報を集めろ。可能であればローゼリアと接触し、交渉の窓口を作れ!!」


 ダルフォルネの本当の戦いは、ここから始まる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

虐げられ続け、名前さえ無い少女は王太子に拾われる

黒ハット
ファンタジー
 【完結しました】以前の小説をリメイクして新しい小説として投稿しています。  名前も付けられずに公爵家の屋敷の埃の被った図書室の中で育った元聖国の王女は虐待で傷だらけで魔物の居る森に捨てられ、王太子に拾われて宰相の養女となり、王国の聖女と呼ばれ、波乱万丈の人生をおくるが王太子妃になり幸せになる。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...