上 下
87 / 97
冒険者編

第52話 ★外伝 その他の転生者 ムネノリン・オマールン 3

しおりを挟む


 
 ムネノリンは相手の情に訴える、奥の手を繰り出した。
 しかし、襲撃者には通じなかった。

 彼は無慈悲にも、首を槍で突きさされる。

 ムネノリンは絶命した。



 しかし、ムネノリンには、転生特典のスキルが残っている。

 『不死』という、一度だけ発動する限定スキル──
 死んでも、翌日にHP1で生き返ることが出来る。

 破格の性能のスキルだ。



 死んだ翌日に生き返ったムネノリンは、HP1の状態から動けるようになるまでじっとしている。

 回復速度の速いムネノリンならば、昼には傷の半分は塞がるだろう。





 ムネノリンは、この先のことを思案する。
 動けるようになり次第、アジトに帰って傷を完治させる。
 そして、幹部連中を焚きつけて、自分をこんな目に遭わせた襲撃者への報復を、お頭に進言する。

「絶対に許さねぇからな、あの野郎……」

 復讐を胸に誓うムネノリンだったが、またしても想定外の事態が訪れる。

 辺りに放置されている山賊の死体を漁りに、魔物が群がり始めたのだ。

 ムネノリンは、匂い消しの粉を急いで自分に振り掛けて、茂みへと身を隠す。
 匂い消しの粉は、魔物と戦闘する気のない彼が、よく使うアイテムだ。


 (このまま身を隠して、やり過ごすしかない)

 集まってきたウォー・ウルフの群れは、例えムネノリンが万全な状態であったとしても、敵わないだろう。
 特に転生者仲間を食べた個体は、みるみる成長し、その体から火を噴いている。

 (頼むッ、早く──いなくなってくれ!!)

 ムネノリンの願いが通じたのか、魔物たちは何かに気付いたような反応をすると、連れ立ってどこかへと行ってしまった。

 ほっとしたムネノリンだったが、今度は魔物の代わりに、あの頭のおかしな襲撃者が仲間を連れて現れた。

 (どうする? 奇襲をかけるか? いや、まだ傷は──しかし、このチャンスを……あっ、仲間は女だ! ──弱い奴なら人質に……でも)

 ムネノリンがターゲットを攻撃するか、このまま身を潜めてやり過ごすか──

 どちらにするか迷っていると、襲撃者の方がムネノリンを攻撃した。
 槍で突き刺されたムネノリンは、縄で縛られて身動きが取れなくなる。


 そして奪われた馬車に乗せられて、小鬼族の集落へと連行された。






 ムネノリンから見て、小鬼族は野蛮と言ってよかった。
 大けがをして、身動きの取れない自分を、磔にして矢を射ってくる。
 
「お、俺は、こんな見た目だがまだ子供なんだ。助けてくれッ。じ、人権を守れ、こ、この村を襲ったのはお頭の命令で、仕方なくッ、俺は嫌だったし、止めようって言ったんだ!!! でもお頭がやれって、──済まなかった、謝罪するッ、許してくれ、ごめんなさいッ、もうしないから──だから」




 ムネノリンの必死の訴えに、誰も耳を貸そうとしない。
 それでも大声で命乞いをしていたが、うるさいという理由で猿轡を嚙まされる。

 ズタボロで磔にされたムネノリンを鑑賞しながら、食事の宴が始まった。

 そこには──
 あの襲撃者と、その仲間の女達の姿もある。

 (あいつらは転生者なんだろ? なのに、なんで俺を助けない? おかしいじゃないか、前世ではどんなに悪いことをしても、子供のうちは謝れば許された。大人になってからは、捕まれば罰を受けたが、こんな酷い目には──)


 ムネノリンは火炙りにされながら、信じられない思いで一杯だった。

 前世の記憶を持った転生者ならば、反省して許しを乞うている自分の命を、助けるのが当然だ。
 ──なのに目の前の転生者たちは、『助けてあげよう』という声すら出さない。



 ムネノリンは、炎でその身を焼かれながら──

 非人道的な処刑を見て見ぬふりをするような、邪悪な転生者としか巡り合わなかった己の不幸を嘆きながら、ゆっくりと死んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

男女比1対999の異世界は、思った以上に過酷で天国

てりやき
ファンタジー
『魔法が存在して、男女比が1対999という世界に転生しませんか? 男性が少ないから、モテモテですよ。もし即決なら特典として、転生者に大人気の回復スキルと収納スキルも付けちゃいますけど』  女性経験が無いまま迎えた三十歳の誕生日に、不慮の事故で死んでしまった主人公が、突然目の前に現れた女神様の提案で転生した異世界で、頑張って生きてくお話。

処理中です...