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冒険者編
第49話 終着点と出発点 1
しおりを挟む俺達は目的地である『冒険者の町』、イーステッドにたどり着いた。
そして、いきなり門番から事情聴取を受けている。
ここは門番の詰所の、待合室のような部屋。
そこに俺と、アカネルとモミジリとイルギットとサリシアとナーズとレイレルの六人は、押し込められている。
ラズとリズは別室に連れていかれて、個別に聴取中だ。
俺たちは、これから冒険者として活動していく。
最初は街の外の壁外地区を拠点に、活動する予定だった。
だから、街の中に入る気は無いので、門番に用は無いのだが──
山賊関連の情報は、報告しておこうということになった。
レイレルによると、山賊から奪った硬貨や食料は、そのまま自分の物にしていいそうだが、馬車はどういう扱いになるのかイマイチ分からなかったので、一応は行政機関にお伺いを立てておこう、ということになったのだ。
俺たちが山賊を倒して馬車を頂戴してきたことを話して、このまま自分たちの物にしていいのかと尋ねたが、門番は話を半信半疑で聞いていた。
門番は訝しそうに、俺の身分証を確認する。
身分証に怪しいところは無かったし、現物の馬車もある。
とりあえず、真偽を確かめようということになった。
門番の詰所には、うそ発見器のような機能を持つ、魔道具が設置されている。
対象の行動履歴を読み取り、門番の質問に対して嘘をつくと反応するらしい。
門番が質問して、魔道具で事実関係を確認していく。
尋問の結果──
どうやら山賊討伐の報告に嘘は無さそうだということが解かり、山賊が小鬼族の集落を襲撃していたことも、本当だと確認された。
小鬼族の話の中で、俺たちの後ろにいたラズとリズの姿を見せると、大慌てで上役に報告に行き、俺たちは待合室に放置され──
ラズとリズは鎧を着た騎士から、事情聴取を受けている。
これまでの一連の流れから推察するに、山賊による小鬼族の村の襲撃事件は、この国の行政機関にとって、かなりの重大案件のようだ。
話を聞いているのは、エラルダ・ベルティンと名乗る女騎士。
ラズとリズが女の子ということもあって、尋問は女性が担当している。
女騎士からは、規律正しい所作の中にも柔らかさを感じる。
平民への尋問は、もっと厳つい奴がぞんざいにするものだと思っていたが、こんな育ちの良さそうな女性がするのかと驚いた。
小鬼族に対する特別扱いだろうか?
ラズとリズの強い要請もあり、二人の事情聴取後は、俺たちと合流できた。
その後、騎士団が派遣され、現地調査が行われている。
調査が終了するまで、門番の詰所で泊まる羽目になった。
まあ、旅の途中の野宿と比べれば、格段に良い待遇だ。
食事も上等なものが提供されたので、不満は無い。
報告を待つ間に、この対応の説明を受ける。
この世界で亜人種の『村』は、特別に保護されている。
あくまで保護されているのは『集落』で、個人が対象ではない。
ドワーフのように人間社会に溶け込んで共に暮らしている種族もいるが、そういう手合いは保護されてはいない。
この辺りの事情は、亜人種の村と関わる機会が無いような、低ランク冒険者だと知らない者が多い。
ことの始まりは、女神歴535年の前帝国時代──
『亜人種の集落を攻撃することを禁じ、保護せよ』との神託が女神メルドリアスから、教会の司祭へと一斉に下った。
この世界には小鬼族の集落のように、少数の亜人種が暮らす村がいくつも存在しているらしい。亜人種の集団は人間の国と比べれば、圧倒的に規模が小さい。
見た目も、人間と少し違う。
亜人種に対する迫害が始まれば、容易に全滅してしまうだろう。
だから、保護が必要だと女神に判断されたのだろう。
研究者の間の通説では──
前帝国時代の後期。
人族が団結して次第に力を付けて、魔物の脅威を遠ざけていった。
力を付けた人族の間で、見目麗しいエルフ族を奴隷にすることが流行り、集落をいくつも絶滅寸前まで追い詰めていた。
それを憂いた女神が、人間を戒めたのだと言われている。
その後、教会勢力はエルフの奴隷解放を訴えたが、権力者たちは奴隷を手放さなかった。そのため、前帝国は滅んだと言われている。
滅んだ理由は諸説あるらしいが、女神の意向に背いたからだという説が、教会勢力に強く支持されている。
──ひょっとして、ラズとリズが俺の奴隷になってることを知られると、マズいかもしれない……。
いや、罪科ポイントは増えてないし、大丈夫だろう。
無理やり奴隷にしているわけでもない。
奴隷とは名ばかりの、普通の仲間だ。
──大丈夫だ。
バレなければ……。
しかし、女神による世界への介入が、そんな形であったのか。
人間社会が力を付けて、亜人を奴隷にして絶滅寸前に追いやったり、独自の生態を破壊する可能性が高くなり、慌てて対処したのだろう。
せっかく創ったファンタジー世界だ。
人間ばかりになってもつまらない。
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