73 / 170
冒険者編
第43話 戦利品の回収
しおりを挟む山賊のアジトの洞窟の、一番奥の部屋──
その部屋の端の木箱の中に、こぶしくらいの大きさの石が入っていた。
それを取り出して、俺が呟いた。
「これが、魔晶石か──」
確かにこの石からは、強い魔力を感じる。
この部屋の中央には、台座のような岩がある。
本来はその台座に、この石が設置されていて、モンスターを定期的に発生させていたらしい。
「これを持って外に出ると、ダンジョンは自然消滅するのか……」
「そう言われているわ。私は見たことないけど──」
山賊のアジトは、元々はゴブリンの巣穴だった。
ゴブリンを定期的に生み出すダンジョン。
そこを山賊が乗っ取って、アジトとして利用していた。
『ダンジョン・コア』とも呼ばれる魔晶石を、台座から外しておけば、ゴブリンが生み出されることはなくなる。
ここの山賊は、お頭を筆頭に強い奴がちらほら交じっていた。
魔物の巣を乗っ取る戦力を持った賊は、こうしてアジトや拠点を作るらしい。
賊は町の中には、入れない。
壁外地区には、拠点があるだろうが──
町の近くだと、ガサ入れされるリスクも高い。
山賊としても、資産を集中させるわけにはいかない。
ダンジョン周辺は、その魔物の縄張りになっていて、他の魔物は寄り付かなくなる。よほど強い魔物でないと、攻めては来ないそうだ。
女神の加護のある山道が、近くを通っていることも重なって、強力なモンスターは寄り付かない。
山賊のアジトとしては、理想的な環境だったわけだ。
この魔晶石は、高値で国に引き取られる。
魔物討伐系やダンジョン攻略系の冒険者の、目標の一つだ。
この世界の王族はこれを使って、女神の加護の付与された町や村などの集落や、農場などを創設できる。
魔法で町の基礎を創れる。
──それが王族の、権力の源泉らしい。
そして、創った施設を維持する為に、金貨と銀貨と銅貨が必要になる。
魔物除けの結界の対価として、お金を女神に支払う必要がある。
王族は硬貨を女神に捧げて、結界を維持しているらしい。
この世界の硬貨は女神が創り、功績のあった人間に与えている。
だが、硬貨を与え続ければ、その価値は下がる。
物が沢山あれば、それだけ値段が下がるのが市場原理だ。
だから、市場に出回る硬貨が、増え過ぎない様に──
定期的に、結界の維持費として回収する。
それがこの世界の、貨幣システムの全容のようだ。
山賊から救出した、礼のつもりだろうか?
もともと面倒見のいい性格なのかもしれないが──
レイレルは親切に、色々教えてくれる。
山賊のアジトについても、詳しいので助かっている。
魔晶石の価値なんかは、俺たちに教えずに自分で取れば大儲けできた。
しかし彼女は、そうしなかった。
レイレルのことは、信用して良さそうだ。
ダンジョンが消えると、この辺りにも魔物が来るようになる。
山賊は全滅させたが、気は抜けない。
レイレルとは、臨時でパーティを組むことにした。
そのほうがお互いに助け合えるし、裏切りの可能性も低くなる。
戦闘では、弓を使えるそうだ。
山賊に捕まった時に装備は没収されたが、山賊のアジトの倉庫の中に、まだ売られずに残っていたので取り戻せた。
彼女は少なくとも、安全が確認できる集落まで同行する予定だ。
山賊のアジトにあった金は、金貨が百七十八枚、銀貨が二百三十枚、銅貨が四百九枚と結構あった。
魔石もまとめて置いてあったので、頂戴しておいた。
モンスター退治には興味がなかったのか、全部で魔石値千程度しかなかったが、無いよりはましだ。
盗んだ物資はすぐに売っていたそうなので、現物は少ない、
食料は大量にあったので、持てるだけ持って行くことにした。
賊を討伐した場合──
貴重品以外は討伐者が、自分の物にしてもいいそうだ。
貴重品に関しては、もとの持ち主が名乗り出た場合は、その品の半値の報酬を対価に貰い、品物は引き渡さなければいけないので、一旦、行政機関に預けなければいけない決まりになっている。
山賊の装備品のシミターや、お頭のメリケンサックなどの金属系の装備は売れるし、後で錬成してインゴットにすれば、強化素材として使えるので、持てるだけ持って行く。
かなり重いので、価値のありそうなものを優先して選ぶ。
防具は山賊が着ていた物は、身に着ける気にはならなかったが、物置部屋にあった比較的新しそうな物の中から、それそれが欲しい物を回収した。
さて、荷物が嵩張ってきたが、レイレルとラズとリズ、人員が増えたことで持てる量も増える。仲間は早めに増やした方がいいな。
俺は最後に魔晶石を回収する。
洞窟は消え去り、只の崖になった。
洞窟のあった場所を出発して、けもの道を通り山道を目指す。
けもの道を登りながら、魔力探知を放って進む。
アカネルとモミジリのお花摘みポイントのところに、魔物に食い散らかされた山賊の残骸が転がっている。
そこに──
強力な魔物の群れの反応があった。
32
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。
真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆
【あらすじ】
どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。
神様は言った。
「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」
現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。
神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。
それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。
あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。
そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。
そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。
ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。
この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。
さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。
そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。
チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。
しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。
もちろん、攻略スキルを使って。
もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。
下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。
これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

前世で裏切られ死んだ俺が7年前に戻って最強になった件 ~裏切り者に復讐して、美少女たちと交わりながら自由気ままな冒険者ライフを満喫します~
絢乃
ファンタジー
【裏切りを乗り越えた俺、二度目の人生は楽しく無双する】
S級冒険者のディウスは、相棒のジークとともに世界最強のコンビとして名を馳せていた。
しかしある日、ディウスはジークの裏切りによって命を落としてしまう。
何の奇跡か冒険者になる前にタイムリープしたディウスは、ジークへの復讐を果たす。
そして前世では救えなかった故郷の村を救い、一般的な冒険者としての人生を歩み出す。
だが、前世の記憶故に規格外の強さを誇るディウスは、瞬く間に皆から注目されることになる。
多くの冒険者と出会い、圧倒的な強さで女をメロメロにする冒険譚。
ノクターンノベルズ、カクヨム、アルファポリスで連載しています。
なお、性描写はカクヨムを基準にしているため物足りないかもしれません。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる