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冒険者編
第35話 仲間の育成 A
しおりを挟む昨日は久々に風呂に入った。
大きめの桶を湯船にしたショボいものだったが、前世で入って以来の風呂だったので、満足度は大きい。
今日の冒険者活動は、昨日と同じ組み合わせで、サリシアとナーズが解体作業で、残りは兎狩りをする。
冒険者ギルドの系列店で、朝食を取ってから荷車を借りて平原へと出かける。
広域探知を使って、大兎の位置を特定して移動する。
途中にいたスライムやゴブリンなんかのザコは、俺が手早く始末した。
三人に戦いの経験を積ませてもよかったが、まずは目標の大兎に挑戦させる。
大兎のテリトリーまで近づく。
ここからは一人で進まなければ、大兎は逃げ出す。
最初は誰が行くかで、アカネルとイルギットが揉めたので、じゃんけんで順番を決めた。
イルギットはじゃんけんを知らなかったが、こんなものはすぐ覚えられる。
最初に挑むのは、じゃんけんに勝ったモミジリだ。
彼女の武器は、長剣から短剣に変更して、左腕には革の盾を装備させた。
革の盾は俺が装備しているのと同じ、円形の小さめのやつだ。
こっちの方がバランスが良いし、本人の気質に合う気がした。
モミジリは大兎をおびき寄せるために、一人で先行して草原を進み、敵と遭遇する。大兎はその巨体をスピードに乗せて、モミジリに迫る。
モミジリは革の盾を掲げて、大兎の角に合わせる。
敵と衝突する寸前に、体を逸らしながら横に移動して、大兎の突進をかわし、敵の身体を短剣で切りつける。
ちゃんと練習通りに出来たようだ。
盾は敵の攻撃を受けるのではなく、万一の為の保険として構えさせた。
保険があった方が、心理的に余裕が出来て動きが良くなると思ったが、狙い通りに行ったようだ。
大兎はまだ生きていたので、俺がぶん殴ってとどめを刺した。
大兎の血抜きをして、荷車に乗せる。
まずは一匹目。
広域探知でマークしてある大兎は、丁度二匹まだいるので、このまま平原を移動して討伐して周る。
次に大兎と戦うのは、アカネルだ。
彼女とイルギットの装備は、長剣のままで行くことにした。
好戦的で物怖じしない彼女たちは、防御を考えるよりも攻撃力を重視した装備編成にしている。
アカネルとイルギットの二人は、大兎の突進に対して適度に緊張感を持って、しかし委縮せずに対応することが出来た。
敵の攻撃を引き付けてから躱して、カウンターを横腹に入れる。
二人とも練習通りに、敵を倒すことに成功した。
三匹の大兎を倒して、荷車に乗せてサイザルの町へと帰還する。
この時点で午後三時過ぎくらいだろうか──
まだ夕暮れには早く、空は青く澄み渡っている。
天気も良い。
仕留めた大兎の肉でバーベキューするのも悪くないかと思ったが、肉を焼くだけでも、一から用意しようと思えば結構時間がかかる。
夕食はいつもの冒険者ギルドの系列店で取ることにした。
料理屋を利用すれば、時間の節約にもなる。
町に滞在している間は、そっちの方が良いだろう。
冒険者ギルドに持ち込んだ大兎三匹の買取価格は、金貨四十二枚だった。
交渉すればもう少し金額を上げてくれる感じはあったが、めんどくさいので提示された金額で合意した。
解体作業の補助をしていたサリシアとナーズと合流して夕食を取った後で、宿に戻ってから寝た。
次の日もやることは変わらないが、広域探知に少しおかしな反応が引っ掛かった。
この感じは、隠密結界だ。
初心者にとっては、かなりの手練れのモンスターが潜んでいることになる。
まあ、俺がいるから大丈夫だろう。
一応注意するようにメンバーに伝えて、兎狩りに赴く。
昨日と同じように、大兎を仕留めて血抜きをしていると、そいつはやってきた。
草原の中を上手く身を隠しながら、高速で移動して接近してくる。
俺は三人の様子を同時に見ていたが、敵の接近に気付く様子はない。
俺は一人、剣を握り──
敵の奇襲に対処する為に神経を集中させる。
敵の狙いは、モミジリ。
そいつは手に装備した包丁を、モミジリの頭を狙って突き刺そうとする。
ガッキィイイイイインン!!
俺はそれを、剣で受け止めて防いだ。
三人はモンスターの奇襲に驚き、急いで臨戦態勢を取る。
ここでパニックにならないだけで、合格だ。
敵は完全に気配を遮断して近づいて来た。
身体能力も高い。
こんな奴が初心者用のエリアに現れたら、新米冒険者は呆気なく全滅だろう。
俺に初撃を防がれた敵は、動きを止めずにそのままアカネルへと、ターゲットを変えて襲い掛かる。
敵の攻撃に対して、アカネルは反応は出来ているが、対応はできない。
見えてはいるが、体が反応できていない。
このままでは、敵の包丁で刺される。
だが、それを許す俺ではない。
アカネルを先端の尖った包丁で突き刺そうとする、そいつの横から──
文字通り、横槍を入れる。
入れたのは、剣だが──
敵の身体を切り裂いて、ダメージを入れることが出来た。
しかし、傷は浅かったようだ。
そいつは止まらずに、次のターゲットをイルギットにして、突進する。
……コイツ、俺には来ないな。
俺はイルギットの援護に動こうとするが、敵の直線的な動きに違和感を覚える。
敵はイルギットを襲う振りをして、途中で方向転換し──
モミジリを狙って包丁を振りかぶる。
それを読んでいた俺は、土魔法で岩石を作り出してそいつに攻撃した。
ドッ!!
魔法は敵の顔面に命中した。
かなりのダメージを与えたが、まだ死んでいない。
敵の動きが止まった隙に、魔力探知でそいつを鑑定する。
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