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農場奴隷編

第24話 ☆農場主の娘 A

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 クサンゴさんが農場を去ったこともあり、朝食と夕食をアカネルとモミジリと一緒に取るようになった。

 二人との行動時間が多くなってから、視線を感じることが増えた。
 今も少し離れた林の茂みの奥から、強い視線を向けられている。

 俺は広域探知を使って、相手を確認する。

「また、あいつか……」


 探索時は魔物の魔力に反応するように設定しているが、人間相手でも使用できるし、薬草を探すときにも利用している。

 俺を監視する存在は、この農場の農場主の娘。
 名前はイルギット・ブトゥーン。
 戦闘能力は58。

 年齢を考えると結構強い、戦士団と剣の稽古を積んでいる成果だろう。
 

 あいつは以前から、俺をマークしていた節がある。
 とうとう農場の管理サイドも、俺を不審に思い始めたのか?




 さて、どうする。
 彼女は朝の剣の稽古が終わってから、ここに来ているようだ。
 剣と防具を装備している。


 まあ武装していようと、俺の敵ではない。
 力づくでどうとでも出来るが、後のことを考えるとそれは下策だろう。


 出来れば、穏便に済ませたい。
 何とか誤魔化して丸め込めればいいのだが──
 

 といっても、相手が何を不審に思い、俺を嗅ぎ回っているかが分からなければ、手の打ちようもない。
 今日の夕食の後にでも、接触してみるか……

 俺は農作業へと向かった。




 夕食を食べている最中に、視線を感じた。

 イルギットだ。 
 
 俺は食器を洗い場で片づけると、物陰に入り隠密結界を張った。
 そのまま、視線を感じた先へと向かう。

 茂みに潜む、少女を発見。
 この農場の主アレット・ブトゥーンの娘のイルギット・ブトゥーンだ。

 朝と同じように、武装している。


 一人でぶつぶつ言っているので、聞き耳を立てる。
 まずは、情報収集だ。

 「あれ? 戻ってこないわね。どこにいるのかしら? はっ、まさか、あの女たちに言い寄られてるんじゃ……やっぱり、お父様にお願いして、あの二人は売り払った方がいいわね。なんでか聞かれると困るけれど、でも……」


 あの女たちというのは、アカネルとモミジリのことだろう。

 売り払う、とか言ってる。
 あの二人をか?

 それは困る。




 止めるように、交渉しなければ……。

 俺はイルギットに、声をかける。

「ちょっといいか? 話をしたいんだが──」

「ひゃっ……」

 後ろから声をかけた為、驚かせてしまった。

 イルギットは驚きでビクッとなった後で、こちらを振り向き俺の姿を確認すると、驚きと喜びの表情を浮かべた。

「やっと私に会いに来たわね。遅いのよ。もう! でも許してあげるわ。」

 やっと……?
 待ち合わせなど、していないが?

「……? まあいい。それで……その、俺たちの今後のことを……」
「そうね。私達、結婚しましょう」

 結婚……?

「は? いや、売るとか何とかいう話なんだが──結婚? 私達って、俺は奴隷なんだが?」
──「……ッ、そ、そうね。お父様は許してくれないかもしれないわ。それで私を諦めて、あの二人と仲良く……」

 待ってくれ。

「諦めるも何も、俺は──」
「そうだわ。私達、駆け落ちしましょ! 主人の娘と奴隷の禁断の恋!!」

 俺はあの二人を売るのを、止めて欲しいだけなんだ。
 話を戻そう。

「いや、だから待ってくれ。君は何を言ってるんだ?」
「なによ。今更怖気づいたというの? この意気地なし! いいわ、それなら」


 イルギットは俺を無視して、一人で勝手にストーリーを進めると、おもむろに腰に差している剣を抜き放つ。

「あなたを殺して、私も死ぬわ!!」
「どうしてそうなる!!」


 思い込みが激しいタイプなのだろうが、いささか常軌を逸している。
 だが、彼女の作ったストーリーを聞いていると、どうやら俺のことが好きらしいということは解った。

 一緒に死んでやることは出来ないが、俺の女にはしてやろう。

 剣を振り上げて、斬りかかってくるイルギット。
 戦いは避けられないと判断した俺は、空間探知を展開して攻撃に備える。


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