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農場奴隷編

第7話 冒険者の情報

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「スライムやゴブリンと戦ったことかい? 勿論あるよ」
「強かった?」

 俺は昼の休憩時間に、クサンゴさんから話を聞いてみた。

「そいつらは魔物の中では一番弱いから、油断さえしなければ対処できる」
「俺でも倒せるかな?」

 俺が質問すると、クサンゴさんはちょっと慌てる。

「えっ! 戦おうとしちゃ駄目だよ。弱いと言っても魔物なんだから──ユージ君ぐらいの年齢で新人冒険者になるのはよくあるけど、一人で戦って死んじゃうのも結構いるんだ。ちゃんとパーティを組んで、しっかり準備してから挑まないとね」


 クサンゴさんは親身になって、忠告とアドバイスをくれた。
 見た目は冴えないが、いい人だ。


 クサンゴさんのアドバイスはさらに続く。

「スライムには窒息死させられるケースが多いし、ゴブリンは生命力が強くて倒しきるまで油断できない。肝心なのは敵を倒す事よりも、怪我をしないことなんだ。怪我の治療に時間やお金がかかると、一気に生活が破綻する。魔物を倒せればいいという訳でもないんだ。だから新人はパーティを組んで魔物に挑むんだよ」

 魔物を甘く見て、単独で挑むような新人はすぐに死ぬ。
 耳の痛い話だ。半分は当たっている。

 しかし、今の俺の環境だとパーティとか組めないしな──。


 まあ、当てがないわけでもない。

 女神メルドリアスの話が本当なら、俺の周囲には転生者が二人いることになる。
 それらしい二人組には、すでに目星を付けている。
 まだコンタクトは取っていないが──

 いきなり『一緒に魔物倒しに行こうぜ』と言っても、付いてこないだろう。
 二人とも女の子だしな。
 
 第一印象は大事だ。
 二人との接触は慎重にしたい。


 というわけで、少なくとも奴隷でいる間は、魔物との戦闘はソロで行く。
 
 俺には回復薬もあるし、スラ太郎もいる。
 何とかなるだろう。
 
 スラ太郎は、俺の奴隷部屋の地面の土を自分で溶かして穴を掘り、そこを住処にしている。上に藁をかけてカモフラージュしてあるから、間違って部屋に入る奴がいても、ぱっと見では気付かれないだろう。


「ところでクサンゴさんは、どんな職業なの? レベルは?」

 俺は結構踏み込んだ質問をしてみる。
 不快に思われるかな?

 こっちは子供だから、無邪気な感じでいけば平気だろう。


「最後に教会で鑑定してもらった時は確か──探索者と槍使いと行商人で、レベルは……、一番高いのが探索者で13だったな。槍が8で行商が5。うろ覚えだけどね」

 怒っている感じはしないな。
 杞憂だった。

 それにしてもクサンゴさん、今の俺よりはレベルが高いけれど……あんまり強くはなさそうだ。まあ、失敗して奴隷になってるしな
 ……いい人なんだけど。


 冒険者の強さの大体の目安として、戦闘職でレベル20に到達すれば、その分野で一人前といわれているらしい。


 そしてレベルの鑑定は、一般的には教会で調べて貰うのだそうだ。
 教会に紙を持参して持って行き、銀貨一枚お布施を支払うと、設置されている魔道具で測定して印刷してくれるそうだ。
 
 この国の紙の値段は一枚で銀貨一枚くらいだそうだから、一回の鑑定で銀貨二枚、日本円でいえば二千円程度はかかることになる。

 証明書の発行手数料だと考えれば、妥当な金額だと思う。


 俺は自己鑑定できるから、魔力を消費するだけで何度でも出来る。
 自分を鑑定できるという能力は地味に有能だ。
 



 休憩を終えた俺たちは、午後の農作業へと向かった。

 農作業も徐々に力仕事を割り振られるようになってきた。
 そのほうが借金の減りが早くなるから願ったりではある。
 疲労は回復薬があるし、筋力は魔力で増強できる。


 魔力の使用方法のバリエーションも増えた。

 魔力は単純に体に張り巡らせれば腕力を増強できるわけではない。
 自分の身体能力が向上するようにイメージして、そのイメージ通りの『変化』をもたらすのが魔法だ。
 

 魔力を身体の外に張り巡らせて、様々な情報を『探知』する使い方も覚えた。

 魔力を広げてその状態を維持し、自分の周りの空間を把握し続ける『空間探知』と、魔力を全方位に発して、跳ね返ってきた反応を拾うレーダーのような使い方の『広域探知』だ。

 空間探知は魔力を消費し続けるし、半径五メートルくらいを維持するのがやっとだが、精度が高い。
 広域探知は精度は大雑把だが、探知範囲が広い。






 さて、午後の農作業を終えた俺が部屋へと戻ろうとすると、スキル『危険感知』が発動した。少しピリッとした程度だったので大した脅威ではなさそうだが、念のため広域探知を使い周囲を探る。

 すると、俺の右側の丘の上に、誰かいるのを発見する。
 農場主の屋敷のある方角だ。

 そいつは何故か、こちらに向かって石を投げつけてきた。

 俺はそちらに視線を向けずに無視して通り過ぎる。
 石は何度か投げられたが、当てるつもりはなかったようで全部外れる。

 しかし、ここまでされて無視するのは不自然かと思い、俺は石の飛んできた方を見上げる。そこには俺と同じくらいの背丈の女の子がいた。
 
 ──農場主の娘だろうか?

 女の子は俺と目が合うと、顔を赤らめて逃げていった。


「なんだったんだ、あいつは……? 」
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