上 下
5 / 95
農場奴隷編

第5話 殺し合い

しおりを挟む
「せっかくだから、もう一匹くらい倒して帰るか」

 スライムの魔物『スラ太郎』を仲間に加えた俺は、さらに敵を探すことにした。


 おあつらえ向きに、草陰に潜むスライムを発見した。
 俺は装備している木の棒で、スライムに対して突きを入れる。

 ずぼっ──

「よし、このまま」
 スライムに対して、俺は何度もこの攻撃をくり返す。

 スライムによる顔面へのダイブを警戒しながらだと、これが最適かな?

 スライムは俺の攻撃を避けようと、前後左右に移動する。
 俺は顔面への跳び付きだけを警戒して、攻撃し続ける。

 観念したように動きを止めたスライムは、少しだけブルっと震えたかと思うと、俺の腹辺りを目がけて飛びかかってきた。

 ドッ!!

 腹に攻撃を喰らってしまった。
 痛いが我慢できる程度のダメージだ。

 お返しにスライムを、思いっ切り蹴り飛ばしてやった。
 宙を舞ってビシャと地面に叩きつけられたスライムは、そこで力尽きた。

 俺の攻撃で死亡したスライムは身体を維持できなくなり、液体部分が地面へと吸い込まれていった。

 その後に残された魔石を回収して、それを異空間へと収納する。
 ステータスを確認すると保有魔石値が「37」に増えていた。 

 同じスライムなのに数値に差がある。
 どうやら魔物の強さによって魔石値は変動するようだ。

「一番最初に倒した個体のレベルが少し高かったのか──」




 スライムといえば最弱モンスターの代表格だ。

 初めてモンスターと戦闘をした俺でも、倒せてはいる。 
 しかし、殺される危険もあった。

 スライムの体当たり攻撃を躱すのは難しい。
 顔面への攻撃で、突然視界を防がれて呼吸できなくなれば、大抵の奴はパニックを起こしてしまうだろう。


「もう攻略法を開発してしまった」

 自画自賛しながら、俺は後ろを付いてくるスラ太郎をちらっと見る。  
 コイツ、さっきの戦いは見てるだけだったな。

 加勢するまでもない相手だったからか? 
 それとも、命令しないと攻撃参加しないのか?


「まあ、そのうち確かめてみよう。それと──」

 俺は装備している木の棒を『鑑定』した。


*************************
木の棒 (所有者ユージ)  
強度  106
耐久値 086/230
品質C
*************************

「やっぱり」

 以前、装備品を鑑定した時から気になっていたのが『耐久値』。 
 今日の戦闘で使用した木の棒の耐久値は、大幅に下がっていた。

「まあ、使えば減るよな」
 修理や補修ができれば増えるんだろうけど、木の棒の修復なんて出来ない。
 新しく作った方が早いか──。



 木の棒を空間収納できないかと、魔力を込めて試したことがある。
 すると毎回『専用装備にしますか?』という表示が出る。

 木の棒なんかを俺の『専用』にする気はないが、まともな武器が手に入れば試してみようと思う。

 『空間収納』できるのは、今のところ魔石だけだ。
 専用にすれば、武器もできるようになるだろう。

 その辺に生えている草を収納しようとしても、何も起きない。
 回復薬を収納出来れば便利かと思い試してみたが、こっちも変化なしだ。


 

「そろそろ帰るか」

 目標だったモンスターとの戦闘も経験できたし、木の棒の耐久力も減少している。
 俺は農場へと帰還する為、西の方向へと歩き出す。


 しばらく歩いた先に、人影が二つ見える。
 『危険感知』が発動した。
 魔物──恐らくはゴブリンだろう。


 ゴブリンたちは農場の方角へと連れ立って歩いている。
 どうやらこちらの存在にまだ気付いていないようだ。

 俺はスラ太郎に右側から迂回して奴らに近づくように命じる。


 魔力による繋がりのある従魔には声を出さなくても意思を伝えられる。
 スラ太郎が右から回り込む間に、俺は左側から気配を消してそっと近づいていく。


 気配を消すと言っても、身を潜めて足音がしない様に移動しているだけだが、風は西から東へと流れているから、匂いで気付かれることはないだろう。


 ゴブリンにかなり接近できた。
 奴らは短剣と小さめのこん棒をそれぞれ装備し、偉そうに革製の鎧を着ている。
 俺よりもいい装備じゃないか、どうやって手に入れたんだ?
 以前農場の外でうろついているゴブリンを見たが、装備は布の腰巻だったはずだ。

 モンスターもレベルやランクによって装備品が変わるとか?



 まあ今はいいか。
 俺は右側に回り込んでいるスラ太郎に、ゴブリンを攻撃するように命じる。

 スラ太郎の体当たりがゴブリンを捉える。ドウッ!!     

「ぐげッ」

 不意打ちが綺麗に決まって、ゴブリンの一匹が尻もちをつく。
 もう一匹はスラ太郎に短剣を向けて威嚇している。
 ゴブリンは不用意に攻撃行動に出ない、結構冷静だな。

 だがそれは、今回の戦闘では悪手となった。

 俺はスラ太郎を警戒しているゴブリンの、後ろへ忍び寄る。
 敵に気付かれずに近づいた俺は、ゴブリンの頭に思いっきり木の棒を叩きつけた。

「ギギャッ!!」

 ズゴッ!! という打撃音がして、頭が少し陥没したが一撃では殺せない。
 俺は引き続き木の棒を振りかぶり、何度もゴブリンの頭に打ち込んだ。

 ドッ、ドッ、ドッ!!

 向こうでスラ太郎の体当たりを喰らい、尻もちをついていたゴブリンが立ち上がり、俺を攻撃のターゲットに切り替えたらしい。
 こん棒を構えて、俺を攻撃してきた。

 俺は木の棒で牽制するが何度かこん棒と打ち合う。
 ボキリと木の棒が折れてしまった。

 次の瞬間にはゴブリンのこん棒が、俺の右胸に叩きつけられる。

「ぐっ、いってぇ──な!!」

 俺はお返しとばかりに、折れた木の棒をゴブリンの左目に突き刺した。


 打撲ダメージを受けたが、相手の左目を潰すことが出来た。
 目つぶしを受けたゴブリンは、痛みでのたうち回っている。
 
 だがまだ死んではいない。

 俺はスラ太郎に追撃するように命じる。



 頭を叩きまくってやったゴブリンが、痛みで頭を押さえながらも俺へと向き直る。
 折れた木の棒は、ゴブリンの目に刺さったままだ。

 俺にはもう武器が無い。
 
 ゴブリンは短剣で斬りかかってきた。




 俺と同じくらいの背丈とはいえ、人型の生き物が刃物を持って突っ込んでくる。
 当然だが、恐怖を感じる。
 
 しかし──
 冷静に現状を把握して、対処できる自分もいる。


 敵の動きはちゃんと見えてる。

 俺は短剣を持ったゴブリンの手首を掴み、敵の肘を起点にして腕をひねりあげる。
 俺に背中を見せたゴブリンの腕を、そのまま折れるまで力を加えた。

 ゴブリンは痛みで悲鳴を漏らしながら、短剣を落とした。


 それでもゴブリンは闘争心を剥き出しに、残った腕の爪で俺を攻撃してくる。
 ゴブリンが後ろにいる俺の腕に向かって、爪を振るう。


 ゴブリンの爪の攻撃で、切り裂かれた腕から血が噴き出す。
 痛みで掴んでいた敵の手首を放してしまった。


 人間の血の匂いに興奮したのか、ゴブリンはさらに獰猛になる。
 俺を食い殺したいと言わんばかりに、口を大きく開いて飛びついてくる。
 
 俺はそんなゴブリンの首を手で掴んで、絞め殺すために力を籠める。
 ゴブリンも必死に、俺の腕を爪で切り裂き続ける。

 そのまま暴れるゴブリンの首を絞める両手に、力を込めた。


 それから数分が経過し──
 ゴブリンは完全に動かなくなっていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

処理中です...